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アンディのささやかな計画④
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「───どうして、こんなことに……」
アンディは、橙色の混じった完成品を前に、頭を抱え立ち尽くしていた。
屋敷に帰ってきてからというもの、口にするのものには必ず苦手な人参が入っていることに、アンディはうんざりしていた。
気分転換にと、書庫を出たアンディは厨房へと向かい、おやつ兼“かれら”への献上品として、ドロップクッキーをつくることにしたのだが───
「───どう見ても、人参……だよね」
人差し指と親指で挟んで摘まみ上げ、まじまじと確認してみれば、どうみても入れた覚えがないものが入っている。
好物であるナッツをふんだんに入れた、シンプルなドロップクッキーをつくったはずだったのに、どういうわけか、暖色系の何かが混じっているのである。
混乱したアンディが辺りを見渡せば、見覚えのない瓶があった。橙色のすり潰されたものが三分の一ほど入っているようだ。
何故か蓋は外れたまま。
橙色の犯人は、十中八九これだろう。
「───なんで……」
用意した覚えも混ぜた覚えもないけれど、無意識に混ぜてしまったのだろうか。そんなまさか。
しかし、事実として、混ざってしまったものがそこにはある。認めねばならない……だろうか。
アンディは、目の前の現実を受け止められる気がしなかった。
今回、アンディが作ったドロップクッキーは、およそ百個ほど。
これから暫く続くかもしれない、クラリスからの人参攻撃後の口直しになるはずだった。
因みに、“かれら”への献上品を兼ねているので、半分以上は、皿に乗せて窓辺に置いておくつもりだ。
そのままにしておけば、数日ほどで無くなっているはずである。……数日もてばいいが。
ここ一年ほど、三日ほどで空になっていたお皿が、半日で空になるのが珍しくなかった。
シェリアが社交デビューで王都へ滞在し、“かれら”への菓子をつくる人間が減ったことにより、そのしわ寄せがアンディにきたようだ。
アンディは、“かれら”への供物を毎回自作するのではなく、市場で購入したり、美味しいと評判の菓子を他の領地から取り寄せたりもした。
我ながら頑張ったと、アンディは思う。
そして、その苦労も、シェリアが帰ってきたことにより、ようやく終わる。
十歳であるアンディも、二年もすれば、領地を離れて、領主としての勉強をしなくてはならない。
これはとても大切なことで、“かれら”を邪な考えを持つ者たちから守る為に必要なのだ。
“妖精”の存在を空想上のものだと笑い飛ばす者がいる一方で、捕獲して売り飛ばそうだとか考える者も珍しくない。
“かれら”の棲む場所にこっそり忍びこもうとする者もいれば、領主に堂々と取引を持ちかけて、“かれら”を手に入れようとする者もいる。
自分が領主になった時に、うっかり足をすくわれない為にも、アンディは学ばねばならない。
物思いに耽っていたアンディは、クッキーに視線を戻したのだが───気のせい、だろうか。
こころなしか、天敵である人参入りのドロップクッキーが減っているように思えて、アンディは首を傾げた。
まさか。そう思ったアンディは、咄嗟に四ツ葉のクローバーを取り出してぎゅっと握りしめ、瞼を閉じた。
“かれら” の姿が見えるようになる塗り薬の、原材料である四ツ葉のクローバー。
これのみでは“見られることがある”という確率を上げるものだが、僅かな時間であれば、かなりの確率でアンディは目撃出来ていた。
それはもしかしたら、“かれら”の気まぐれによるものもあるのかもしれないけれど。
アンディがそっと瞼を開くと、予想は的中し、そこには羽根をひらひらとさせた小さな生き物がいた。
アンディは、橙色の混じった完成品を前に、頭を抱え立ち尽くしていた。
屋敷に帰ってきてからというもの、口にするのものには必ず苦手な人参が入っていることに、アンディはうんざりしていた。
気分転換にと、書庫を出たアンディは厨房へと向かい、おやつ兼“かれら”への献上品として、ドロップクッキーをつくることにしたのだが───
「───どう見ても、人参……だよね」
人差し指と親指で挟んで摘まみ上げ、まじまじと確認してみれば、どうみても入れた覚えがないものが入っている。
好物であるナッツをふんだんに入れた、シンプルなドロップクッキーをつくったはずだったのに、どういうわけか、暖色系の何かが混じっているのである。
混乱したアンディが辺りを見渡せば、見覚えのない瓶があった。橙色のすり潰されたものが三分の一ほど入っているようだ。
何故か蓋は外れたまま。
橙色の犯人は、十中八九これだろう。
「───なんで……」
用意した覚えも混ぜた覚えもないけれど、無意識に混ぜてしまったのだろうか。そんなまさか。
しかし、事実として、混ざってしまったものがそこにはある。認めねばならない……だろうか。
アンディは、目の前の現実を受け止められる気がしなかった。
今回、アンディが作ったドロップクッキーは、およそ百個ほど。
これから暫く続くかもしれない、クラリスからの人参攻撃後の口直しになるはずだった。
因みに、“かれら”への献上品を兼ねているので、半分以上は、皿に乗せて窓辺に置いておくつもりだ。
そのままにしておけば、数日ほどで無くなっているはずである。……数日もてばいいが。
ここ一年ほど、三日ほどで空になっていたお皿が、半日で空になるのが珍しくなかった。
シェリアが社交デビューで王都へ滞在し、“かれら”への菓子をつくる人間が減ったことにより、そのしわ寄せがアンディにきたようだ。
アンディは、“かれら”への供物を毎回自作するのではなく、市場で購入したり、美味しいと評判の菓子を他の領地から取り寄せたりもした。
我ながら頑張ったと、アンディは思う。
そして、その苦労も、シェリアが帰ってきたことにより、ようやく終わる。
十歳であるアンディも、二年もすれば、領地を離れて、領主としての勉強をしなくてはならない。
これはとても大切なことで、“かれら”を邪な考えを持つ者たちから守る為に必要なのだ。
“妖精”の存在を空想上のものだと笑い飛ばす者がいる一方で、捕獲して売り飛ばそうだとか考える者も珍しくない。
“かれら”の棲む場所にこっそり忍びこもうとする者もいれば、領主に堂々と取引を持ちかけて、“かれら”を手に入れようとする者もいる。
自分が領主になった時に、うっかり足をすくわれない為にも、アンディは学ばねばならない。
物思いに耽っていたアンディは、クッキーに視線を戻したのだが───気のせい、だろうか。
こころなしか、天敵である人参入りのドロップクッキーが減っているように思えて、アンディは首を傾げた。
まさか。そう思ったアンディは、咄嗟に四ツ葉のクローバーを取り出してぎゅっと握りしめ、瞼を閉じた。
“かれら” の姿が見えるようになる塗り薬の、原材料である四ツ葉のクローバー。
これのみでは“見られることがある”という確率を上げるものだが、僅かな時間であれば、かなりの確率でアンディは目撃出来ていた。
それはもしかしたら、“かれら”の気まぐれによるものもあるのかもしれないけれど。
アンディがそっと瞼を開くと、予想は的中し、そこには羽根をひらひらとさせた小さな生き物がいた。
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