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“かれら”と繋がる点②
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ざあざあと降る雨の音がシェリアの記憶を呼び起こしていき、シェリアは、ふと瞼を閉じた。
いつか、妖精の棲む森に迷いこんだあの日。
その森で出逢った少年。
それは、シェリアがずっと忘れていたことだった。
「…………行かなくちゃ」
瞼を開き、何かに急き立てられるように呟いたシェリアを引き留めるように、少女が忠告する。
「…………きょうみたいな日は、にんげんにはおすすめしない。道に属する子が遊んでいるから」
その声に振り向けば、温度のない瞳がそこにはあり、シェリアに思わずぞくりと悪寒が走る。
それは、バスケットの中の焼き菓子に対してきらきらと輝かせていたのとは違う、“ひとならざるもの”のものだった。
腰まである赤茶色の髪と結ぶリボン。
人間の手のひらほどの大きさ。
背中にある美しい羽根。
確かに先ほど、シェリアがクッキーを渡した少女の姿をしているのに。
バスケットの中身を当てて嬉しそうに笑ったり、いつも間に合わないのだと悲しそうにしたりと、可愛らしく感情表現していた少女とは、別人のようだ。
きっと、本当に人間であるシェリアには危険なのかもしれない。
妖精が忠告してくれているのだから。
けれど、間もなく夏至祭なのだ。
夏至祭の前日に、妖精丘の扉は開く。
夏至祭が近づくにつれて、“かれら”の力が強まると言われている。
今日は危険だからと後日にずらしたところで、明日以降も危険であることに変わりはないだろう。
それこそ、夏至祭のあとにでもしなければ。
しかし、それでは遅すぎる。
シェリアは、扉が開く前に逢いに行きたいのだから。
「……それでも行くわ」
「……そっか」
小さな少女は立ち上がると、シェリアの雨避けのコートの裾を引っ張る。
「これ、裏返しにすると迷いづらいらしいから。……あと、首にあくせさりー?つけるといい」
突然の少女の行動に、驚いて目を丸くしているシェリアに、にっこりと微笑んで少女は告げる。
「屋敷のにんげんのせわ、わたしたちの仕事」
少女に促されるがまま、シェリアはコートを裏返しに羽織り直す。生地が反転して少しばかり不恰好だが、どうやらこちらの方が安全であるらしい。
その間、後ろからは“かれら”の賑やかな会話と、じゃらりとするような音が聞こえる。
何をしているのだろうか。
気になったシェリアは、ボタンの代わりに幾つかのピンで留め終えると、少女に御礼を伝え振り返った。
すると、そこには、シェリアがこの部屋でメレンゲクッキーを渡した“かれら”がずらりと並んでいた。
「これ、くびにかけるのおすすめ」
「あればあるほど、あんしん」
そう言って“かれら”見せてきたのは、十字架の銀細工のネックレスだった。
真ん中にいる三人が、それぞれひとつずつ持っている。“かれら”の口ぶりでは、この中のどれかを選ぶのではなく全部つけて欲しいようだ。
「ありがとう」
シェリアがそう言うと、ネックレスを手にじっと見つめてきた少女と目が合う。
つけてくれるのかもしれない、と思ったシェリアがしゃがんでみると、ネックレスを持った“かれら”は、羽根をひらひらとさせてシェリアの背後に回っていく。
「これも迷わなくなるらしい」
待っている間に、今度は赤い紐がついている鈴を渡される。手のひらの上の鈴をそっと揺らせば、僅かに音がした。
「かじんの安全を守るの、これ仕事」
「にんむ成功でおやついっぱい。あの雪玉みたいなの」
「ごほうびはお菓子の家きぼう」
「ぜったい帰ってくる。お菓子係ほうき、反対」
“かれら”の要求に、シェリアは、思わずくすりと笑った。
これは責任重大である。
こんなに熱心に仕事してくれたのだから、意地でもあの子を連れて帰ってこなければならないだろう。
「……ええ、ちゃんと帰ってくるわ」
シェリアの言葉に呼応するように、ぎゅっと握った手の中の鈴が鳴った。
いつか、妖精の棲む森に迷いこんだあの日。
その森で出逢った少年。
それは、シェリアがずっと忘れていたことだった。
「…………行かなくちゃ」
瞼を開き、何かに急き立てられるように呟いたシェリアを引き留めるように、少女が忠告する。
「…………きょうみたいな日は、にんげんにはおすすめしない。道に属する子が遊んでいるから」
その声に振り向けば、温度のない瞳がそこにはあり、シェリアに思わずぞくりと悪寒が走る。
それは、バスケットの中の焼き菓子に対してきらきらと輝かせていたのとは違う、“ひとならざるもの”のものだった。
腰まである赤茶色の髪と結ぶリボン。
人間の手のひらほどの大きさ。
背中にある美しい羽根。
確かに先ほど、シェリアがクッキーを渡した少女の姿をしているのに。
バスケットの中身を当てて嬉しそうに笑ったり、いつも間に合わないのだと悲しそうにしたりと、可愛らしく感情表現していた少女とは、別人のようだ。
きっと、本当に人間であるシェリアには危険なのかもしれない。
妖精が忠告してくれているのだから。
けれど、間もなく夏至祭なのだ。
夏至祭の前日に、妖精丘の扉は開く。
夏至祭が近づくにつれて、“かれら”の力が強まると言われている。
今日は危険だからと後日にずらしたところで、明日以降も危険であることに変わりはないだろう。
それこそ、夏至祭のあとにでもしなければ。
しかし、それでは遅すぎる。
シェリアは、扉が開く前に逢いに行きたいのだから。
「……それでも行くわ」
「……そっか」
小さな少女は立ち上がると、シェリアの雨避けのコートの裾を引っ張る。
「これ、裏返しにすると迷いづらいらしいから。……あと、首にあくせさりー?つけるといい」
突然の少女の行動に、驚いて目を丸くしているシェリアに、にっこりと微笑んで少女は告げる。
「屋敷のにんげんのせわ、わたしたちの仕事」
少女に促されるがまま、シェリアはコートを裏返しに羽織り直す。生地が反転して少しばかり不恰好だが、どうやらこちらの方が安全であるらしい。
その間、後ろからは“かれら”の賑やかな会話と、じゃらりとするような音が聞こえる。
何をしているのだろうか。
気になったシェリアは、ボタンの代わりに幾つかのピンで留め終えると、少女に御礼を伝え振り返った。
すると、そこには、シェリアがこの部屋でメレンゲクッキーを渡した“かれら”がずらりと並んでいた。
「これ、くびにかけるのおすすめ」
「あればあるほど、あんしん」
そう言って“かれら”見せてきたのは、十字架の銀細工のネックレスだった。
真ん中にいる三人が、それぞれひとつずつ持っている。“かれら”の口ぶりでは、この中のどれかを選ぶのではなく全部つけて欲しいようだ。
「ありがとう」
シェリアがそう言うと、ネックレスを手にじっと見つめてきた少女と目が合う。
つけてくれるのかもしれない、と思ったシェリアがしゃがんでみると、ネックレスを持った“かれら”は、羽根をひらひらとさせてシェリアの背後に回っていく。
「これも迷わなくなるらしい」
待っている間に、今度は赤い紐がついている鈴を渡される。手のひらの上の鈴をそっと揺らせば、僅かに音がした。
「かじんの安全を守るの、これ仕事」
「にんむ成功でおやついっぱい。あの雪玉みたいなの」
「ごほうびはお菓子の家きぼう」
「ぜったい帰ってくる。お菓子係ほうき、反対」
“かれら”の要求に、シェリアは、思わずくすりと笑った。
これは責任重大である。
こんなに熱心に仕事してくれたのだから、意地でもあの子を連れて帰ってこなければならないだろう。
「……ええ、ちゃんと帰ってくるわ」
シェリアの言葉に呼応するように、ぎゅっと握った手の中の鈴が鳴った。
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