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序章
第一話 ユース
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そこは「自然界」。人間と精霊とが共存する世界。
自然界には六つの大陸がある。エウロージャ大陸、アフロ大陸、北アメリゴ大陸、南アメリゴ大陸、アウテアロア大陸、そして南極大陸である。
自然界は、遥か昔から人と精霊とが共存する世界だった。
暗黒の宇宙に浮かぶその世界は、戦争など起こりえないような平和な世界だった。
しかし、そんな自然界に、突如として恐怖が巻き起こった。
エウロージャ大陸の東から西に、得体のしれない怪物が押し寄せてきたのである。
それらは街を破壊し、人々を恐怖に陥れた。
そんな時、精霊たちは人々に、戦う力を与えた。
人々は太陽、氷、雷、水、風、大地の力を身にまとい、怪物たちから人々を守った。
のちに怪物たちは「ギート」と名付けられた。
そしてギートを撃退した戦士たちは「自然戦士」と呼ばれたのである……
「……それが今から500年も前の話じゃ。」
エウロージャ大陸の西側、エウロピアにあるローマンド帝国の地方都市、ミラニアにある孤児院「聖ミネルヴァ孤児院」の院長、サンドロ・ポッティチェリが話し終えたときは、子供たちの大半は眠りに落ちていた。
「……こらーー!お前たち!人が話しとるときに寝るな――――!!!」
「だって院長先生のそのお話、もう何十回も聞いたんだよ。そりゃみんな飽きちゃうよ。」
何とか起きていた9歳くらいの子供が、眠そうな目を擦りながら言った。
「しかし……、明日は『神託』の日じゃぞ。だから皆にも自然戦士に興味を持ってもらおうとな……」
そう、明日、元日は「神託」が行われる日。
500年前のあの日以降、ギートは滅びることなく東からやってきた。それどころか段々と勢いを増していき、他の大陸にも現れる事態になった。
そこで精霊たちは、男女各六人の自然戦士を選び出し、「王」と「女王」の称号をあたえ、毎年の元日に自然戦士を選ぶ儀式を行う権利を与えた。
自然戦士は、子供たちにとってもあこがれの的だった。
「あたし、自然戦士になりたーい!」まだ小学生にも満たないような女の子が言った。
「ほっほっほ、そうかそうか。自然戦士に選ばれるのは16~17歳の子供だから、まだわからないのう。……ところで、ユースはどこじゃ?」
そこに集まっていた二十数人の子供たちの中に、ただ一人ユースはいなかった。
「ユース兄ちゃんなら、また図書室にいるんじゃない?」
ユース・A・ルーヴェは孤児院のメンバーの中でも最年長。
十年前に内戦で両親を失い、国外に亡命したのち、三年前にローマンドに帰ってきたという。
彼は内気な性格から友達がいなく、毎日図書室にこもっていた。
毎日図書室にこもって、なにかを一心不乱に調べている彼を、サンドロは心配していた。
サンドロが図書室に入ると、またユースがそれを調べていた。
「またローマンド史を調べておるのか?ユース。」
「院長……ユリウス・カエサルは本当に悪者ですか?」
ユリウス・カエサルとは、ローマンドが共和制だったころに政治の実権を握った政治家だ。
数々の戦争に勝利し、独裁官になったが、わがままのあまり人々に恨まれて、暗殺されたという。
「当り前じゃろ、ユース。カエサルは悪政で人々を苦しめた極悪人じゃぞ。」
「でも、カエサルの暗殺にかかわった人々は、みんな悲惨な最期を迎えていますよ。現皇帝のオクタヴィアヌス陛下もカエサルの敵討ちをしたとか……」
「皇帝陛下はカエサルの養子じゃからな。形式的にそうせざるを得なかったのじゃろう。さ、明日は神託じゃぞ?もう夜も更けたから寝なさい。」
「……はい。」
ユースは夢を見ていた。
家に両親がいて、ユースがいて、三人とも笑顔だった。
一瞬で家が燃え、両親は焼け焦げた死体になった。
軍隊が近づいてくる。
その先頭にいたのは……
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ユースがベッドから転げ落ちなければ、きっと一晩中悪夢にうなされていただろう。
だが、悪夢を見ない代わりにその夜は全く眠りにつくことはなかった……
その頃、ローマンド帝国首都「ローマ」にて、
一人の男が祭壇に向かって呪文を唱えていた。
呪文を唱えるごとに祭壇から火が噴き出し、巨大な火柱となった。
そこには文字が写し出されていた。
「ユース・A……ルーヴェ?」
第二話 神託が降りる に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の一
「自然界」
人間と精霊とが共存する世界。
ここでいう精霊とは火や水に宿っているとされる「霊魂」やキリスト教、ユダヤ教などに存在する「神、天使、聖霊」、日本にいるとされる「八百万の神々」など、人々が信仰しているあらゆるものを含む。
作者はこの世界を、「現実世界のパラレルワールド」として描いているつもりである。
だから高速鉄道もあるし、大都市へ行けば摩天楼が立ち並び、各国の政治体制も現実と似たようなものだ。
違うのは、現在から500年前にエウローシャ大陸の東から「ギート」の大群が押し寄せ、精霊が人々を守るために「自然戦士」の力を与えたことくらいである。
自然界には六つの大陸がある。エウロージャ大陸、アフロ大陸、北アメリゴ大陸、南アメリゴ大陸、アウテアロア大陸、そして南極大陸である。
自然界は、遥か昔から人と精霊とが共存する世界だった。
暗黒の宇宙に浮かぶその世界は、戦争など起こりえないような平和な世界だった。
しかし、そんな自然界に、突如として恐怖が巻き起こった。
エウロージャ大陸の東から西に、得体のしれない怪物が押し寄せてきたのである。
それらは街を破壊し、人々を恐怖に陥れた。
そんな時、精霊たちは人々に、戦う力を与えた。
人々は太陽、氷、雷、水、風、大地の力を身にまとい、怪物たちから人々を守った。
のちに怪物たちは「ギート」と名付けられた。
そしてギートを撃退した戦士たちは「自然戦士」と呼ばれたのである……
「……それが今から500年も前の話じゃ。」
エウロージャ大陸の西側、エウロピアにあるローマンド帝国の地方都市、ミラニアにある孤児院「聖ミネルヴァ孤児院」の院長、サンドロ・ポッティチェリが話し終えたときは、子供たちの大半は眠りに落ちていた。
「……こらーー!お前たち!人が話しとるときに寝るな――――!!!」
「だって院長先生のそのお話、もう何十回も聞いたんだよ。そりゃみんな飽きちゃうよ。」
何とか起きていた9歳くらいの子供が、眠そうな目を擦りながら言った。
「しかし……、明日は『神託』の日じゃぞ。だから皆にも自然戦士に興味を持ってもらおうとな……」
そう、明日、元日は「神託」が行われる日。
500年前のあの日以降、ギートは滅びることなく東からやってきた。それどころか段々と勢いを増していき、他の大陸にも現れる事態になった。
そこで精霊たちは、男女各六人の自然戦士を選び出し、「王」と「女王」の称号をあたえ、毎年の元日に自然戦士を選ぶ儀式を行う権利を与えた。
自然戦士は、子供たちにとってもあこがれの的だった。
「あたし、自然戦士になりたーい!」まだ小学生にも満たないような女の子が言った。
「ほっほっほ、そうかそうか。自然戦士に選ばれるのは16~17歳の子供だから、まだわからないのう。……ところで、ユースはどこじゃ?」
そこに集まっていた二十数人の子供たちの中に、ただ一人ユースはいなかった。
「ユース兄ちゃんなら、また図書室にいるんじゃない?」
ユース・A・ルーヴェは孤児院のメンバーの中でも最年長。
十年前に内戦で両親を失い、国外に亡命したのち、三年前にローマンドに帰ってきたという。
彼は内気な性格から友達がいなく、毎日図書室にこもっていた。
毎日図書室にこもって、なにかを一心不乱に調べている彼を、サンドロは心配していた。
サンドロが図書室に入ると、またユースがそれを調べていた。
「またローマンド史を調べておるのか?ユース。」
「院長……ユリウス・カエサルは本当に悪者ですか?」
ユリウス・カエサルとは、ローマンドが共和制だったころに政治の実権を握った政治家だ。
数々の戦争に勝利し、独裁官になったが、わがままのあまり人々に恨まれて、暗殺されたという。
「当り前じゃろ、ユース。カエサルは悪政で人々を苦しめた極悪人じゃぞ。」
「でも、カエサルの暗殺にかかわった人々は、みんな悲惨な最期を迎えていますよ。現皇帝のオクタヴィアヌス陛下もカエサルの敵討ちをしたとか……」
「皇帝陛下はカエサルの養子じゃからな。形式的にそうせざるを得なかったのじゃろう。さ、明日は神託じゃぞ?もう夜も更けたから寝なさい。」
「……はい。」
ユースは夢を見ていた。
家に両親がいて、ユースがいて、三人とも笑顔だった。
一瞬で家が燃え、両親は焼け焦げた死体になった。
軍隊が近づいてくる。
その先頭にいたのは……
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ユースがベッドから転げ落ちなければ、きっと一晩中悪夢にうなされていただろう。
だが、悪夢を見ない代わりにその夜は全く眠りにつくことはなかった……
その頃、ローマンド帝国首都「ローマ」にて、
一人の男が祭壇に向かって呪文を唱えていた。
呪文を唱えるごとに祭壇から火が噴き出し、巨大な火柱となった。
そこには文字が写し出されていた。
「ユース・A……ルーヴェ?」
第二話 神託が降りる に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の一
「自然界」
人間と精霊とが共存する世界。
ここでいう精霊とは火や水に宿っているとされる「霊魂」やキリスト教、ユダヤ教などに存在する「神、天使、聖霊」、日本にいるとされる「八百万の神々」など、人々が信仰しているあらゆるものを含む。
作者はこの世界を、「現実世界のパラレルワールド」として描いているつもりである。
だから高速鉄道もあるし、大都市へ行けば摩天楼が立ち並び、各国の政治体制も現実と似たようなものだ。
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