自然戦士

江葉内斗

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第二章 謀略の復活祭

第二十一話 科学者の本音

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 ジェームズ・Mマーク・グランハンは、父親にゲルマン系白人、母親にアフロ系黒人を持った混血だった。
 母親の遺伝子を濃く受けついだのか、ジェームズの肌も黒い。
 しかし、ユースはこの世に肌の黒い人間がいるとは知らなかった。
 なので、「この季節なのに、なんで真っ黒に焼けてるの?」と聞いてしまった。
 「えっいや……その……」ジェームズにとっても衝撃的だったようで、結構困惑した表情をしている。
 「ユース、ジェームズの肌は元から黒いのよ。」エリーが横でユースに耳打ちした。
 「え! そうだったの!?これは失礼しました!!」ユースは自分の無知を知ると、潔く頭を下げた。
 「ああ、いや……知らなかっただけならいいんだ。」ジェームズも許してくれたようだ。
 「ユース君、君は黒人を見たことがないのかい?」
 「ないよ。ローマンドには少ないからね。話には聞いていたけど、これが黒人か……」ユースは動物園の動物を見るようにジェームズの体をまじまじと観察した。
 「……そんなに珍しいかい?」
 「いやぁ、なんで肌が黒いのかなぁって。なんで肌の白い人と黒い人がいるの?」
 「知らないなら教えてあげよう。」ジェームズはちょっと得意げになって話した。
 「人類の先祖はアフロ大陸から生まれ、世界各地に広がった。その時に、アフロ大陸や赤道直下の国に住み着いた人は、強い日の光を受け続けて日焼けし、一生日焼けが取れないくらいになった。これが黒人の先祖だ。エウロピアのような比較的寒冷な地域に住み着いた人は、日照時間が短い中で生きてきたからあまり日焼けしなかった。これが白人の先祖だ。そしてエイジャやアメリゴ大陸など、温帯や高山地域に住み着いた人は、白人と黒人の中間の肌の色を持った黄色人種になったんだ。」
 「なるほど……!」ユースはとても興味津々に聞いていた。
 「それじゃあ、どんな肌の人がいてもおかしくないってことか!」新しい知識を得た子供のように、ユースの声は無邪気に輝いていた。
 「うん、でも……」対照的に、かつ急にジェームズは声のトーンと、視線を落とした。
 「ん? どうしたの?」
 「世の中には、黒人と黄色人種、合わせて有色人種をよく思わない人たちもいるんだ。」
 そういうとジェームズは語り始めた。


 もともと、南北アメリゴ大陸に黒人はいなかった。
 先住民は黄色人種なんだけどね。
 そこへご存じコロンブスが、十五世紀中盤あたりにアメリゴ大陸を発見してから、どんどんエウロピアの白人
 が移住してきてね。
 いつの間にか北アメリゴはブリデラントとフランクが、南アメリゴはイスパーニャとポルトギールが支配していた。
 エウロピア人は土地開拓のために、先住民を奴隷にして働かせた。
 でも、重労働や白人が持ち込んだ病気で、先住民の人口はどんどん減っていってね……
 そこで白人たちは、アフロ大陸から黒人を連れてきて奴隷にすることを思いついた。
 黒人は強制的に故郷を追われ、長い間、人ではない存在として扱われたんだ。
 アメリゴがブリデラントから独立すると、南部の奴隷賛成派と北部の反対派で大論争が起こった。
 北部出身のリンケルンが大統領になると、国を二分するような戦いが起こった。これが南北戦争だ。
 戦局は南部に有利だった。でも、それを一気に覆す展開があったんだ。
 それがリンケルン大統領が発表した「奴隷解放宣言」だった。
 それによって解放された二十万人の黒人が北部の軍に入った。
 こうして、南北戦争は北部の勝利に終わり、アメリゴ分裂の危機は免れたんだ。
 でも、黒人たちの権利はよくならなかった。
 南部は黒人の人権を制限する法律を作り、黒人を迫害した。
 黒人だけじゃなくて、黄色人種も差別の対象になった。
 白人たちは「肌に色がない民族」である自分たちを誇りに思ってたんだ。
 有色人種たちは、「白人には絶対に勝てない。」「白人を超えるのは無理だ。」と思うようようになった。
 でも、有色人種が白人に勝ったことがあったんだ。
 二ポネシアがルーシャと戦争して勝った時だ。
 有色人種が白色人種に勝ったという事実は、アメリゴ中、いや世界中の有色人種に勇気を与えた。
 エイジャも二ポネシア以外はエウロピアやアメリゴに支配されていたんだ。
 第一次自然大戦が起きた時、二ポネシアはドイチェランドに支配されていた南洋諸島を獲得した。
 第二次自然大戦でも、欧米が支配していた東南エイジャを獲得した。
 植民地の人は欧米の植民地政策に絶望していたから、支配者が変わったところで何も変わらないと思ってい
 た。  
 でも、二ポネシアは違ったんだ。
 発電所を建て、道路を敷き、教育を無料で施した。
 望む人には軍事教練も行った。
 二ポネシアは結局はアメリゴに負けたけど、東南エイジャの国は二ポネシアのおかげで独立した地域が多い。
 アメリゴ内で黄色人種の権利は高まった。でも、黒人の権利はやっぱり回復しなかったんだけどね……


 「僕がアラベスクで研究してるのも、半分くらいは左遷が理由なんだよねー。」
 「なるほど……半分くらい二ポネシアの話だったけど?」
 「ジェームズは二ポネシアの大ファンなのよ。」エリーが静かに答えた。
 「そうさ! 二ポネシアは有色人種の希望なんだ!!」ジェームズはとても興奮していた。
 「二ポネシアか……ローマンドで内戦が起きた時僕が亡命した国有力候補だな。」
 「有力候補? なんで確定してないの?」ジェームズが首を傾げた。
 「僕は記憶喪失なんだ。十三歳以前の記憶がすっぽり無いんだよ。」
 そんな他愛もない話をしていると、ジェームズの一言によって急展開を迎える。
 「僕が発明した装置なら記憶が元に戻るかもよ?」
 ユースとエリーの目の色が変わった。
 「え! 記憶が元に戻るの!?」
 「うん。ただし……」
 「何? お金とるの?」
 「とらないよ! 人為的に封印された記憶は呼び起せないんだ!」
 「……」ユースの目から光が消えた。
 「……え? そうなの?」
 「その可能性が高いとされているんだ。」
 「確かなことが何一つないじゃないか……!」
 「なんかごめん……」
 誰も悪くないのに変な雰囲気になってしまった。
 そこでエリーが「ユース、帰りましょ。」と言い出した。
 いきなり帰るといわれたので、ジェームズは困惑した。
 「待って! 帰らないで!! もうちょっといて! いま実験台が足りないんだけど、臨床実験に参加してくんない?」
 しかしエリーは「ユース、帰りましょ。」と言った。
 「待って!!」ジェームズの声が少し大きくなった。
 「エリー、帰っちゃっていいの?」ユースはもう少し聞きたいことがあった。どんな研究をしているのか、こんな辺鄙へんぴそうなところで
 エリーは冷静に「ジェームズの臨床実験は危険すぎるわ。実験体が足りないのはみんな逃げだすからよ。」と話した。
 「じゃあせめてコーヒーでも飲んでってよ。」ジェームズは何が何でも引き留めようとする。
 しかしエリーは「ユース、帰りましょ。」と言った。
 「待って!!!」ジェームズの声がさらに大きくなった。
 「良いじゃないかコーヒーくらい。」ユースは多少ジェームズに同情していた。
 そんな二人にエリーがとどめの一言。
 「コーヒーに何が入ってるかさえわからないわ。それに、
 「「そんな理由で!!?」」ユースとジェームズが絶句する中、エリーは一人で行ってしまった。
 「……ごめんねジェームズ。僕はコーヒー好きだけど。」そう言い残して去ろうとしたとき、

 「KKKには気を付けて!」とジェームズに言われた。

 研究室にはジェームズただ一人になった。
 ジェームズは机にあった小瓶を手に取って、目の前で掲げてゆらゆらと左右に振り、そしてつぶやいた。
 「……やれやれ、結局昨日完成させた媚薬使えなかったな……」


 ユースとエリーは空港を目指し、猛吹雪の中を歩いていた。
 「やれやれ、いくら何でもジェームズに当たり強くない?」ユースはエリーとジェームズの関係に興味を持っていた。
 「ジェームズはたぶん私のこと好きなのよね。」エリーがさらっととんでもないことを言った。
 「え!? 気づいて何も言わないの?」ユースはジェームズから何の恋情も感じなかった。自然戦士のエネルギーは感じれるのにもかかわらず。
 「言ったわよ! すでに何度もふってるわよ。ただあいつやばいのよ! 紅茶に媚薬入れたり、相手を催眠状態にする銃弾を私で試そうとしたり!!」
 「……」
 「おまけに私にコーヒーを勧めると来たわ!! ブリデラント人にコーヒーを勧めることがどういうことかわかってないのねあいつは!!!」
 「……えーと、差しがましいようだけど、エリー?」
 「何?」
 「Learn wisdom by the follies of others(人の振り見て我が振り直せ)、だよ?」
 「あらユース、英語が話せるようになったの?」
 「聞こえなかった?僕はLearn wisdom by the follies of others(人の振り見て我が振り直せ)と言ったんだ。」
 「何それ?私がジェームズの『振り』から学ぶことなんてある?」
 「好きな人にアプローチするときに、飲み物に変なもの混ぜたり、逮捕まがいなことやったりするところ。」
 「だっだれがそんなことを!!」
 「……まあいいや。そういえば、別れ際ジェームズに『KKKには気を付けて!』って言われたんだけど。」
 「クレイズ・クルー・クリアね。南北戦争のころに作られたとされる秘密結社よ。反黒人・反エイジャ系・反ユダヤ系を掲げた白人至上主義団体で、黒人に暴行を加えたり、連れ去って拷問したりとかなりやばいことしている集団だわ。特に南部では、黒人を擁護するような発言は控えたほうが良いわね。」
 「黒人差別か……ローマンドにとっても他人ごとではないな。」
 「どういうこと?」
 「ローマンドもアフロ大陸に植民地を持っているんだ。イージットというんだが。」
 「ああ、ナーサさん救出の時にちらっと言ってたわね。(第十二話参照)」
 「ローマンドは植民地の人間を冷遇してないだろうか……」
 「さあ。少なくとも、二ポネシアのようには優しくないと思うわ。」
 「……ねえ、エリー。この後アメリゴの本土に行かない? 僕自由の女神とかグランドキャニオンとか見てみたいんだけど!」
 「完全にそれが目的だったのね……まあいいわ。行ってみましょう!」
 「やったー!あとついでにもう一つ。」
 「何?」
 「クレイズ・クルー・クリアって……なんで存在がわかってるのに摘発できないの?」
 「秘密結社ってのはみんなそういうものなのよ。」
 「そんな軽い問題じゃないと思うけどな……遊びに行くついでにKKKもつぶしてくる?」
 「ユース、あなたは自然戦士になってまだ二か月しかたってないからそんなこと言えるんだろうけどね。世の中そんなに甘い物じゃないのよ。」
 「そうか……あとは二ポネシアのことだな。ジェームズも話してた二ポネシア。復活祭《パスケア》が終わったら行ってみようかな……」
 「いいんじゃない?」
 「その時はエリーも来る?」
 「いい。そんな暇ないと思う。」
 そんな他愛もない話をしているうちに、ユースはエリーの声に何か強い感情を感じた。
 「……エリー、もしかして怒ってる?」
 「……」急にエリーが足を止めた。
 足を止めて、数秒間黙ったのち、静かに言った。
 「…………気づいて何も言わないのはあなたじゃないの?」
 「え?」
 困惑するユース。
 エリーは振り向いて叫んだ。

 「私があんなにアプローチしてるのに、なんで!!?」

 そういったエリーの目には涙がたまっていた。


 第二十二話 「恋」とは に続く
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