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新しい恋の予感。
しおりを挟む夜の部屋の灯りは落とされ、月明かりだけが差し込んでいる。
荷物を持って、住み慣れた家を出ていく、決心がついたのだ。
静香は、クローゼットを開ける。
服を選ぶでもなく、ただ必要最低限のものだけを、静かにバッグに詰めていく。
音を立てないように。まるで、家に謝るように。
この家には、思い出がある。
でも、思い出は荷物に入らない。
入れたら、重すぎて歩けなくなる。
玄関に立ち、 靴を履いて、ドアノブに手をかけた。
ユウは、リビングにいる。
テレビはついているけれど、見ていない。
静香の気配に気づいているはずなのに、振り返らない。
涙も怒りもない。
その行動が、何よりも強く、何よりも切ない。
夜の部屋の灯りは落とされ、月明かりだけが差し込んでいる。
荷物を持って、住み慣れた家を出ていく、決心がついたのだ。
静香は、クローゼットを開ける。
服を選ぶでもなく、ただ必要最低限のものだけを、静かにバッグに詰めていく。
音を立てないように。まるで、家に謝るように。
この家には、思い出がある。
でも、思い出は荷物に入らない。
入れたら、重すぎて歩けなくなる。
玄関に立ち、 靴を履いて、ドアノブに手をかけた。
ユウは、リビングにいる。
テレビはついているけれど、見ていない。
静香の気配に気づいているはずなのに、振り返らない。
「じゃあね」
それだけ言って、ドアを開けて、冷たい夜風が頬を撫でた。
扉が閉まる音が、ふたりの関係の終わりを告げる。
でも、誰も泣かない。 泣くには、もう遅すぎた。
愛美の兄が静香を想っていた。でも、彼女に愛する人ができたから、静かに身を引いたのだった。
その「身を引く」という選択には、未練も、優しさも、そして少しの痛みも宿っている。
愛美の家のリビングで、夜も更け静香はソファで毛布にくるまっている。
キッチンから、コップに水を注ぐ音が聞こえる。
振り返ると、そこに立っていたのは愛美の兄、悠人だった。
悠人「久しぶり」
声は低く、でもどこか優しい。
愛美「うん、ごめんね、急に来ちゃって」
目を合わせるのが少し怖かった。
昔、彼の視線が自分に向いていたことを、静香は知っていた。
悠人「愛美から聞いたよ。いろいろあったんだって」
コップを差し出す。静香は受け取る。
手が触れた瞬間、ふたりの間に、過去の記憶がふわりと立ち上る。
静香「あの頃、気づいてた。悠人くんの気持ち」
言葉にするのは、今さらだったかもしれない。
でも、言わずにいるには、今夜は少し静かすぎた。
悠人「うん。でも、君が笑ってるのが好きだったから。誰の隣でも、君が笑ってるなら、それでいいと思ったんだ」
その言葉は、まるで風のように通り過ぎていく。
重くもなく、軽くもなく、ただ静香の胸に残った。
静香(心の声)誰かに、そう思われていたこと。
それだけで、少し救われた気がした。
「婚前交渉はしない」という約束それは、静香の信念であり、ユウとの関係における大切な境界線だった。
愛美の部屋。夜。
静香は、毛布にくるまりながら、窓の外を見ていた。
愛美は、隣で黙って座っている。
ふたりの間には、言葉にならない空気が流れていた。
静香「ユウとは、婚約してたの。結婚するまでは、そういうことはしないって、約束してた」
声は、少し震えていた。
でも、それは怒りでも悲しみでもなく、ただ疲れのようなものだった。
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