2 / 16
プロローグ『とある青年』
しおりを挟む
あぁ。この”飛び散る飛沫”が、甘い紅茶ならいいのに。
牧場での朝イチ採れたて脂肪分ぷりぷりミルクと、ジャリリと口内で感じるほどに溶け残った量の角砂糖たっぷりの。青年は、もうずいぶん長いこと目にしていない琥珀色の紅茶の芳香や味を思いだす。
もしくは、水。“これ”がキレイな水ならいいのにな、と。そしたら、青年が今、行っている行為も『水遊び』のようで大層気持ちがいいだろうにと。
が、現実はどうだろう。
この身に浴びるは、赤黒い血飛沫。ヒトのそれより更に煮詰めて濃厚にしたような、錆散らかした鉄の香り。それが鼻腔から青年を鈍重に、憂鬱にさせる。
青年が醜悪な魔物を一刀両断する度に血飛沫は飛び散り、肌や服に赤く染みつく。いや、そもそも既にとっくの昔に染みついていた。乾いた血液汚れの上に覆いかぶせるように、新しい鮮血を浴び続ける。
魔物共は、やられた腹いせに血を飛び散らせているとしか思えない程の量をぶちまけてくる。いつからか、いちいち肌や服を洗うのも面倒になってしまった。
切断した魔物の断面からチラリと見える内臓が、なんだかストロベリーパイやラズベリーパイの上に乗っている、テラテラと光る果実の山のように見えた。あんなものが、一周回って鮮やかでキレイに見えてしまった自分に苦笑する。
背後に野太い咆哮が聞こえたので、青年は振り返ると同時に、持っていた長剣をその”やかましい主”の方向に力強く投擲する。相手の容貌・位置などの詳細がわからないまま、勘での投擲。
が、長剣は見事に立派な角の魔物の額に深々と突き刺さっていた。常人なら「これは奇跡!」とヒットを喜んだだろうが、青年にとっては朝飯前……どころか普通の事、他愛ない事なので特に喜ぶ事はしない。青年はずっと、もうずっと虚無感をまとわせた死んだ目をしている。
倒れた魔物の額から長剣を取りにいく、までの距離の間にいた中型のシカのような魔物を素手で豪快に殴り飛ばしていく。青年は華奢で力がなさそう……むしろ弱そうに見えるが、持ち前の運動神経と体のしなやかさ、躊躇のなさで魔物をぶちのめしていく。筋力増強魔法も適度に己にまとわせているので、シカくらいの魔物なら殴ったり蹴ったりすれば容易に吹っ飛んでいく。
更に言うと、青年は「魔物のウィークポイント、なんとなくわかるんだよね」という野生の勘で、的確に各魔物をぶちのめしていく。
「触ると毒が体に回る・呪われる」だのと逸話が尽きない魔物の頭部を容赦なく掴んで、膝蹴りを顔面にぶち込む。魔物の鋭い歯が青年の膝に突き刺さったが、すぐに抜いてそばの魔物の眼球に突き刺す。
倒した魔物に突き刺さった長剣を抜く。青年は、見開き続けたまぶたを弛緩させ、そこでやっと一息ついた。
「………本、読みたいなぁ」
緊張を緩めると即座に思い出すのが『読みかけの小説や、続きが楽しみな小説』の事だった。先程までのような魔物討伐のせいで、もうだいぶ読めていない。何も読めていなかった。
こんなにも『活字』に触れていないのは幼少期以来……久しぶりの事だったので、青年の心にはぽっかりと穴が空いていた。頭を使わず、体だけを動かし続ける日々。あの頃のような、非知性的で野蛮な生活をしているような自分がほとほと嫌になった。
まぁ、今回のこの“野蛮”は『自ら望んだ事』なので、後悔しても嘆いても仕方ないことなのだが。
と、青年はだんだんと『妻や子供の事より、本の事を思い出した事』を申し訳なく思いだした。
そこから「家族より、趣味を優先しがちにしてしまって怒られる男のコメディ小説……あれは何だったっけ?」と連想してしまった。
それを思い出そうとする、久しぶりの知的な脳の使い方をした事による嬉しさで、若干微笑む事が出来た。
牧場での朝イチ採れたて脂肪分ぷりぷりミルクと、ジャリリと口内で感じるほどに溶け残った量の角砂糖たっぷりの。青年は、もうずいぶん長いこと目にしていない琥珀色の紅茶の芳香や味を思いだす。
もしくは、水。“これ”がキレイな水ならいいのにな、と。そしたら、青年が今、行っている行為も『水遊び』のようで大層気持ちがいいだろうにと。
が、現実はどうだろう。
この身に浴びるは、赤黒い血飛沫。ヒトのそれより更に煮詰めて濃厚にしたような、錆散らかした鉄の香り。それが鼻腔から青年を鈍重に、憂鬱にさせる。
青年が醜悪な魔物を一刀両断する度に血飛沫は飛び散り、肌や服に赤く染みつく。いや、そもそも既にとっくの昔に染みついていた。乾いた血液汚れの上に覆いかぶせるように、新しい鮮血を浴び続ける。
魔物共は、やられた腹いせに血を飛び散らせているとしか思えない程の量をぶちまけてくる。いつからか、いちいち肌や服を洗うのも面倒になってしまった。
切断した魔物の断面からチラリと見える内臓が、なんだかストロベリーパイやラズベリーパイの上に乗っている、テラテラと光る果実の山のように見えた。あんなものが、一周回って鮮やかでキレイに見えてしまった自分に苦笑する。
背後に野太い咆哮が聞こえたので、青年は振り返ると同時に、持っていた長剣をその”やかましい主”の方向に力強く投擲する。相手の容貌・位置などの詳細がわからないまま、勘での投擲。
が、長剣は見事に立派な角の魔物の額に深々と突き刺さっていた。常人なら「これは奇跡!」とヒットを喜んだだろうが、青年にとっては朝飯前……どころか普通の事、他愛ない事なので特に喜ぶ事はしない。青年はずっと、もうずっと虚無感をまとわせた死んだ目をしている。
倒れた魔物の額から長剣を取りにいく、までの距離の間にいた中型のシカのような魔物を素手で豪快に殴り飛ばしていく。青年は華奢で力がなさそう……むしろ弱そうに見えるが、持ち前の運動神経と体のしなやかさ、躊躇のなさで魔物をぶちのめしていく。筋力増強魔法も適度に己にまとわせているので、シカくらいの魔物なら殴ったり蹴ったりすれば容易に吹っ飛んでいく。
更に言うと、青年は「魔物のウィークポイント、なんとなくわかるんだよね」という野生の勘で、的確に各魔物をぶちのめしていく。
「触ると毒が体に回る・呪われる」だのと逸話が尽きない魔物の頭部を容赦なく掴んで、膝蹴りを顔面にぶち込む。魔物の鋭い歯が青年の膝に突き刺さったが、すぐに抜いてそばの魔物の眼球に突き刺す。
倒した魔物に突き刺さった長剣を抜く。青年は、見開き続けたまぶたを弛緩させ、そこでやっと一息ついた。
「………本、読みたいなぁ」
緊張を緩めると即座に思い出すのが『読みかけの小説や、続きが楽しみな小説』の事だった。先程までのような魔物討伐のせいで、もうだいぶ読めていない。何も読めていなかった。
こんなにも『活字』に触れていないのは幼少期以来……久しぶりの事だったので、青年の心にはぽっかりと穴が空いていた。頭を使わず、体だけを動かし続ける日々。あの頃のような、非知性的で野蛮な生活をしているような自分がほとほと嫌になった。
まぁ、今回のこの“野蛮”は『自ら望んだ事』なので、後悔しても嘆いても仕方ないことなのだが。
と、青年はだんだんと『妻や子供の事より、本の事を思い出した事』を申し訳なく思いだした。
そこから「家族より、趣味を優先しがちにしてしまって怒られる男のコメディ小説……あれは何だったっけ?」と連想してしまった。
それを思い出そうとする、久しぶりの知的な脳の使い方をした事による嬉しさで、若干微笑む事が出来た。
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる