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第1話・直行直帰の小説家志望
②戦闘才能・本屋
魔物の頬に、勢いよく飛んできてメリ込む靴底があった。
軽々と全速力で走ってきたギンが、そのままのスピードで地面を蹴って高く飛び、何故か無駄に横1回転をしながら魔物の頬を踏み潰した……というか、蹴りを入れたのだ。
魔物は真横に盛大にぶっ倒れ、顔面に更にギンの足が食い込む。『ただの人間風情』が、何の躊躇もなく自分ら……異形の者に物怖じせず突っ込んでくる様に、魔物らのほうが思わず物怖じした。
「よぅ、お前ら! よぅけ、そんなわいてくるなぁ!」
魔物を下に踏みながら、太陽からの後光をバックにギンがヤケクソに叫ぶ。
書こうとしていたネタを忘れた鬱憤晴らしに、ギンは容赦なく長剣を振るった。船着き場にまとめられていた、輸出入物の野菜・果物に群がる中型の魔物を狩る。
周囲の者らは「待ってました」とばかりに、慣れた流れでギンの応援を始める。ギンより先にここに駆けつけ、魔物を相手にしていた討伐者(冒険者)らも、素早く立ち回るギンの邪魔にならないよう、観客の中にすごすごと混じる。
ギンは目が良く、魔物の動きのスキを狙うのが上手い。本人自体は、戦闘時に特に何も頭を使っていない。何も考えていない。執筆時の、一万分の一も頭を使っていない。
「なんとなく、わかるじゃないですか。『あぁ。今、攻撃したらイケるな』みたいの」
いつぞやかに、恥を忍んでギンに「何故、そんな強いのか」と尋ねた討伐者が、彼にこう返された。感覚論である。何も、参考にならない。
普通、魔物と対峙する時は『魔物とはいえ、生き物を殺す覚悟・自分が怪我したり殺されるかもしれない恐怖心、緊張感』と、総じて『勇気』が必要だというのに、ギンにはそれがない。
特に恐怖心も緊張感も勇気も何もなく、異形に突っ込んで戦える『才能』があった。フラットに向かっていって、剣を振るえた。
ちなみに、彼の事を「運動神経もいいし……すごく体育会系だね」と評すると「俺は根っからの文系です」と、とてつもなく苦々しい顔をされる。
本人は、全くもってこの『才能』をどうとも思っていなかった。むしろ「文系の陰キャ」と言われるのを褒め言葉と思っており、そう言われたいのだが……その言葉は、誰にも言われたことがなかった。
無理もない。幼少期から図書室・本屋に入り浸り、気がつけば読書をしているか物書きをしているような子ではあったが、その文系要素が霞むほどに、たまに披露するズバ抜けた運動神経の方が目立つのだ。
加えて、耳の遠いジジババが町に多い為に自然と大きくなってしまった声。癖なのか、ぱっちりした目で真っ直ぐこちらを見てくる眼力。ギンの事を「文系の陰キャ」と思っている人など、この町にはいなかった。
観衆の拍手の中に魔物の亡骸と、そこに立ち尽くす返り血まみれのギンがいた。
町人の一人がありがたそうに、そんなギンに手ぬぐいを差し出す。戦闘時の怖い顔と打って変わって、ギンは華やかに笑い、礼を言った。
他にも口々に食事に誘ったり、お菓子をあげようと町人がギンの周りに集ったが、案の定ギンは笑顔でこう返した。
「やりたい事あるんで、帰ります! じゃ!」
やはり、ギンは戦闘の疲れを感じさせない走りで自宅に直帰した。
……が、今回は少し違った。爆速で走る帰還時に、まるで何者かに呼び止められたような『ただならぬ本の気配(?)』を感じ、思わず足を止めた。そこは、馴染みの本屋の一つだった。
あまり大きいものではないが、前の店主が出版関係者と知り合いだったので、レアな本がしれっと積まれている事があったりする侮れない本屋だった。
掲げられたのぼりを見て──なるほど、自分が立ち止まらされた理由がわかった。
この世界の『本』は、流通や品揃えの具合が雑である。例えば、同じ町に本屋Aと本屋Bがあったとして。仮に、本屋AがY先生の本が嫌いならそれを置かない・出版社側が本屋Aに不満があるなら、本を回さず本屋Bにだけ回す……本屋Bが配達しづらい土地にあってコストがかかるのなら「じゃあ行かねぇ」となったりする。いい意味で、平等ではない。
故に、この世界では一つ一つの本屋の品揃えがまちまちのバラバラだった。急に見たこともない意味不明の謎の本を見つける事もある……本との一期一会、ミラクル出会いの具合がハンパなかった。
「今日は金がない」と、後日お金を持って本屋に行っても、もう本がない……ヨソに行ってもお目にかかれない……あの本は一体何だったんだ? という悲劇は、この世界の大多数の人が幼少期に経験している。
新刊さん、はじめまして。既刊さん、いつか読んでやるから待っててな、とギンは本屋に積まれた本の数々に心の中で気持ち悪い挨拶をしつつ、ニコニコしながらその本屋に入った。
家の中にまだ読んでいない積み本があるので、なるべくなら、泣く泣く新刊購入は我慢気味のギンだったが『どうしても欲しい新刊』があった。
軽々と全速力で走ってきたギンが、そのままのスピードで地面を蹴って高く飛び、何故か無駄に横1回転をしながら魔物の頬を踏み潰した……というか、蹴りを入れたのだ。
魔物は真横に盛大にぶっ倒れ、顔面に更にギンの足が食い込む。『ただの人間風情』が、何の躊躇もなく自分ら……異形の者に物怖じせず突っ込んでくる様に、魔物らのほうが思わず物怖じした。
「よぅ、お前ら! よぅけ、そんなわいてくるなぁ!」
魔物を下に踏みながら、太陽からの後光をバックにギンがヤケクソに叫ぶ。
書こうとしていたネタを忘れた鬱憤晴らしに、ギンは容赦なく長剣を振るった。船着き場にまとめられていた、輸出入物の野菜・果物に群がる中型の魔物を狩る。
周囲の者らは「待ってました」とばかりに、慣れた流れでギンの応援を始める。ギンより先にここに駆けつけ、魔物を相手にしていた討伐者(冒険者)らも、素早く立ち回るギンの邪魔にならないよう、観客の中にすごすごと混じる。
ギンは目が良く、魔物の動きのスキを狙うのが上手い。本人自体は、戦闘時に特に何も頭を使っていない。何も考えていない。執筆時の、一万分の一も頭を使っていない。
「なんとなく、わかるじゃないですか。『あぁ。今、攻撃したらイケるな』みたいの」
いつぞやかに、恥を忍んでギンに「何故、そんな強いのか」と尋ねた討伐者が、彼にこう返された。感覚論である。何も、参考にならない。
普通、魔物と対峙する時は『魔物とはいえ、生き物を殺す覚悟・自分が怪我したり殺されるかもしれない恐怖心、緊張感』と、総じて『勇気』が必要だというのに、ギンにはそれがない。
特に恐怖心も緊張感も勇気も何もなく、異形に突っ込んで戦える『才能』があった。フラットに向かっていって、剣を振るえた。
ちなみに、彼の事を「運動神経もいいし……すごく体育会系だね」と評すると「俺は根っからの文系です」と、とてつもなく苦々しい顔をされる。
本人は、全くもってこの『才能』をどうとも思っていなかった。むしろ「文系の陰キャ」と言われるのを褒め言葉と思っており、そう言われたいのだが……その言葉は、誰にも言われたことがなかった。
無理もない。幼少期から図書室・本屋に入り浸り、気がつけば読書をしているか物書きをしているような子ではあったが、その文系要素が霞むほどに、たまに披露するズバ抜けた運動神経の方が目立つのだ。
加えて、耳の遠いジジババが町に多い為に自然と大きくなってしまった声。癖なのか、ぱっちりした目で真っ直ぐこちらを見てくる眼力。ギンの事を「文系の陰キャ」と思っている人など、この町にはいなかった。
観衆の拍手の中に魔物の亡骸と、そこに立ち尽くす返り血まみれのギンがいた。
町人の一人がありがたそうに、そんなギンに手ぬぐいを差し出す。戦闘時の怖い顔と打って変わって、ギンは華やかに笑い、礼を言った。
他にも口々に食事に誘ったり、お菓子をあげようと町人がギンの周りに集ったが、案の定ギンは笑顔でこう返した。
「やりたい事あるんで、帰ります! じゃ!」
やはり、ギンは戦闘の疲れを感じさせない走りで自宅に直帰した。
……が、今回は少し違った。爆速で走る帰還時に、まるで何者かに呼び止められたような『ただならぬ本の気配(?)』を感じ、思わず足を止めた。そこは、馴染みの本屋の一つだった。
あまり大きいものではないが、前の店主が出版関係者と知り合いだったので、レアな本がしれっと積まれている事があったりする侮れない本屋だった。
掲げられたのぼりを見て──なるほど、自分が立ち止まらされた理由がわかった。
この世界の『本』は、流通や品揃えの具合が雑である。例えば、同じ町に本屋Aと本屋Bがあったとして。仮に、本屋AがY先生の本が嫌いならそれを置かない・出版社側が本屋Aに不満があるなら、本を回さず本屋Bにだけ回す……本屋Bが配達しづらい土地にあってコストがかかるのなら「じゃあ行かねぇ」となったりする。いい意味で、平等ではない。
故に、この世界では一つ一つの本屋の品揃えがまちまちのバラバラだった。急に見たこともない意味不明の謎の本を見つける事もある……本との一期一会、ミラクル出会いの具合がハンパなかった。
「今日は金がない」と、後日お金を持って本屋に行っても、もう本がない……ヨソに行ってもお目にかかれない……あの本は一体何だったんだ? という悲劇は、この世界の大多数の人が幼少期に経験している。
新刊さん、はじめまして。既刊さん、いつか読んでやるから待っててな、とギンは本屋に積まれた本の数々に心の中で気持ち悪い挨拶をしつつ、ニコニコしながらその本屋に入った。
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