【小説版】勇者にはほしい才能がある

東龍ベコス

文字の大きさ
9 / 16
第2話・勇者の声はかき消される

①親父乱舞・腰痛・湿布の香り

しおりを挟む
 森の中、明朗快活な笑顔で魔物を両断する男の姿があった。

 片手にぎらめく大斧、もう一方の手には使い込まれた長剣。それらを振るって流れるように襲い来る魔物を討伐する、キン・ユルシャ。

 彼の振るう剣や斧が魔物に突き刺さる度、まるで破裂させた風船の中にでも詰まっていたかの如く、魔物は体内の血飛沫を辺りに飛ばす。

 キンはそうして何十分か猛闘しているが疲れているような素振りはなく、普段通りのにこやかな表情でのこの『善』の殺戮に周りの冒険者らは見とれた。もしくは、ドン引きしていた。

 感謝して当然のその相手なのだが、やはりその息子同様に何の恐れもなく、よくわからない異形のものに突っ込んでいく様を凡人は驚嘆せざるをえない。

 息子の方は見開いた真っ直ぐな瞳でフワリとスピーディーに魔物に突っ込んでいくが、父親な方は穏やかな瞳でノシノシと魔物に突っ込んでいく。どちらにせよ、躊躇なく異形に突っ込んでいく様はこの世界の常識で言うと、どうかしている。常人は魔物が恐ろしいのもそうだが、特に血飛沫での汚れを嫌がる。あれは、洗濯が面倒すぎた。

 魔物とやらは、どこから来るのであろうか。
 この世界では『人間や各動物・昆虫などと共に、気がつけば共存していた未知の生き物』というような認識である。動物と違い、人間とは共生や理解などする気もなく、むしろ食糧としてしかこちらを見ていない。己らの事を『食物連鎖の上位者』としか思っていない。

 しかし、知性がないわけではないらしく魔物同士で時折、会話をしているような鳴き声のやり取りをしている様が確認されている。

 人間の中には過去に魔物との共存や、逆に食糧として飼育するのはどうかと試した者はいたが、それら研究者たちの消息は掴めない。研究をあきらめたか、又は実験の最中に魔物に食われたか。

 魔物はゴキブリと同様に、退治するしかないのである。ゴキブリとは違い、身の危険・身近な人の危険、生死がかかっているので、そうなるのは至極当然の事だった。

 魔物らの強さは個体によってはまちまちだが、一般人でも頑張れば倒せない事はないものがほとんどである。まぁ、『ゴキブリ』に振り回されている時間なぞ有益なものではないので、早々と倒せたほうが無論、得である。

 故に冒険者、及びキンやその息子は重宝されるのであった。

「やっぱ、キンさんつえぇ~!」
 後方で魔物の足を止める支援魔法を放っていた魔道士が、無邪気に喜ぶ。

「え~、そうでもないよぉ」
 討伐が落ち着いたキンが、にこやかに答える。

「そうでもあるって!」「ありがてー!」
 周りで共に戦っていた者らが、口々にそう賛辞を投げかけている最中。当のキンが膝を曲げ、ゆっくりと地に伏した。

「…………………腰、痛い………」

 キンがうつむいたまま、動かなくなった。
 そう、キンの腰痛は治ってはいなかった。全くもって回復していない。それを横目で見ていたニコが、キンに肩を貸して立ち上がらせる。

「ムリ、死ぬ、ありえない……」

 先程までの穏やかな様子はどこへやら、半泣き状態のキンに「あんなに湿布を貼ったのに効かないのかぁ」と、馴染みの町人が苦笑する。

「ほんと、すごく湿布臭いよキンさ……あれ?」
 町人の一人が、とある事に気が付く。

「ギン君、こんなに湿布臭いアンタの事を心配しなかったのか?」
 それもそうだ。今、キンの周りには腰に貼りまくった湿布やら何やら、薬液が染み込んだツンとする匂いが漂っている。こんなヤバイ状態の父親を、あのファザコンボーイが心配しない事などないだろうか。

「あぁ、あいつ……」
 キンが苦笑する。

「湿布臭い俺とずっと一緒にいるから、鼻が麻痺してるんだよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...