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第2話・勇者の声はかき消される
①親父乱舞・腰痛・湿布の香り
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森の中、明朗快活な笑顔で魔物を両断する男の姿があった。
片手にぎらめく大斧、もう一方の手には使い込まれた長剣。それらを振るって流れるように襲い来る魔物を討伐する、キン・ユルシャ。
彼の振るう剣や斧が魔物に突き刺さる度、まるで破裂させた風船の中にでも詰まっていたかの如く、魔物は体内の血飛沫を辺りに飛ばす。
キンはそうして何十分か猛闘しているが疲れているような素振りはなく、普段通りのにこやかな表情でのこの『善』の殺戮に周りの冒険者らは見とれた。もしくは、ドン引きしていた。
感謝して当然のその相手なのだが、やはりその息子同様に何の恐れもなく、よくわからない異形のものに突っ込んでいく様を凡人は驚嘆せざるをえない。
息子の方は見開いた真っ直ぐな瞳でフワリとスピーディーに魔物に突っ込んでいくが、父親な方は穏やかな瞳でノシノシと魔物に突っ込んでいく。どちらにせよ、躊躇なく異形に突っ込んでいく様はこの世界の常識で言うと、どうかしている。常人は魔物が恐ろしいのもそうだが、特に血飛沫での汚れを嫌がる。あれは、洗濯が面倒すぎた。
魔物とやらは、どこから来るのであろうか。
この世界では『人間や各動物・昆虫などと共に、気がつけば共存していた未知の生き物』というような認識である。動物と違い、人間とは共生や理解などする気もなく、むしろ食糧としてしかこちらを見ていない。己らの事を『食物連鎖の上位者』としか思っていない。
しかし、知性がないわけではないらしく魔物同士で時折、会話をしているような鳴き声のやり取りをしている様が確認されている。
人間の中には過去に魔物との共存や、逆に食糧として飼育するのはどうかと試した者はいたが、それら研究者たちの消息は掴めない。研究をあきらめたか、又は実験の最中に魔物に食われたか。
魔物はゴキブリと同様に、退治するしかないのである。ゴキブリとは違い、身の危険・身近な人の危険、生死がかかっているので、そうなるのは至極当然の事だった。
魔物らの強さは個体によってはまちまちだが、一般人でも頑張れば倒せない事はないものがほとんどである。まぁ、『ゴキブリ』に振り回されている時間なぞ有益なものではないので、早々と倒せたほうが無論、得である。
故に冒険者、及びキンやその息子は重宝されるのであった。
「やっぱ、キンさんつえぇ~!」
後方で魔物の足を止める支援魔法を放っていた魔道士が、無邪気に喜ぶ。
「え~、そうでもないよぉ」
討伐が落ち着いたキンが、にこやかに答える。
「そうでもあるって!」「ありがてー!」
周りで共に戦っていた者らが、口々にそう賛辞を投げかけている最中。当のキンが膝を曲げ、ゆっくりと地に伏した。
「…………………腰、痛い………」
キンがうつむいたまま、動かなくなった。
そう、キンの腰痛は治ってはいなかった。全くもって回復していない。それを横目で見ていたニコが、キンに肩を貸して立ち上がらせる。
「ムリ、死ぬ、ありえない……」
先程までの穏やかな様子はどこへやら、半泣き状態のキンに「あんなに湿布を貼ったのに効かないのかぁ」と、馴染みの町人が苦笑する。
「ほんと、すごく湿布臭いよキンさ……あれ?」
町人の一人が、とある事に気が付く。
「ギン君、こんなに湿布臭いアンタの事を心配しなかったのか?」
それもそうだ。今、キンの周りには腰に貼りまくった湿布やら何やら、薬液が染み込んだツンとする匂いが漂っている。こんなヤバイ状態の父親を、あのファザコンボーイが心配しない事などないだろうか。
「あぁ、あいつ……」
キンが苦笑する。
「湿布臭い俺とずっと一緒にいるから、鼻が麻痺してるんだよ」
片手にぎらめく大斧、もう一方の手には使い込まれた長剣。それらを振るって流れるように襲い来る魔物を討伐する、キン・ユルシャ。
彼の振るう剣や斧が魔物に突き刺さる度、まるで破裂させた風船の中にでも詰まっていたかの如く、魔物は体内の血飛沫を辺りに飛ばす。
キンはそうして何十分か猛闘しているが疲れているような素振りはなく、普段通りのにこやかな表情でのこの『善』の殺戮に周りの冒険者らは見とれた。もしくは、ドン引きしていた。
感謝して当然のその相手なのだが、やはりその息子同様に何の恐れもなく、よくわからない異形のものに突っ込んでいく様を凡人は驚嘆せざるをえない。
息子の方は見開いた真っ直ぐな瞳でフワリとスピーディーに魔物に突っ込んでいくが、父親な方は穏やかな瞳でノシノシと魔物に突っ込んでいく。どちらにせよ、躊躇なく異形に突っ込んでいく様はこの世界の常識で言うと、どうかしている。常人は魔物が恐ろしいのもそうだが、特に血飛沫での汚れを嫌がる。あれは、洗濯が面倒すぎた。
魔物とやらは、どこから来るのであろうか。
この世界では『人間や各動物・昆虫などと共に、気がつけば共存していた未知の生き物』というような認識である。動物と違い、人間とは共生や理解などする気もなく、むしろ食糧としてしかこちらを見ていない。己らの事を『食物連鎖の上位者』としか思っていない。
しかし、知性がないわけではないらしく魔物同士で時折、会話をしているような鳴き声のやり取りをしている様が確認されている。
人間の中には過去に魔物との共存や、逆に食糧として飼育するのはどうかと試した者はいたが、それら研究者たちの消息は掴めない。研究をあきらめたか、又は実験の最中に魔物に食われたか。
魔物はゴキブリと同様に、退治するしかないのである。ゴキブリとは違い、身の危険・身近な人の危険、生死がかかっているので、そうなるのは至極当然の事だった。
魔物らの強さは個体によってはまちまちだが、一般人でも頑張れば倒せない事はないものがほとんどである。まぁ、『ゴキブリ』に振り回されている時間なぞ有益なものではないので、早々と倒せたほうが無論、得である。
故に冒険者、及びキンやその息子は重宝されるのであった。
「やっぱ、キンさんつえぇ~!」
後方で魔物の足を止める支援魔法を放っていた魔道士が、無邪気に喜ぶ。
「え~、そうでもないよぉ」
討伐が落ち着いたキンが、にこやかに答える。
「そうでもあるって!」「ありがてー!」
周りで共に戦っていた者らが、口々にそう賛辞を投げかけている最中。当のキンが膝を曲げ、ゆっくりと地に伏した。
「…………………腰、痛い………」
キンがうつむいたまま、動かなくなった。
そう、キンの腰痛は治ってはいなかった。全くもって回復していない。それを横目で見ていたニコが、キンに肩を貸して立ち上がらせる。
「ムリ、死ぬ、ありえない……」
先程までの穏やかな様子はどこへやら、半泣き状態のキンに「あんなに湿布を貼ったのに効かないのかぁ」と、馴染みの町人が苦笑する。
「ほんと、すごく湿布臭いよキンさ……あれ?」
町人の一人が、とある事に気が付く。
「ギン君、こんなに湿布臭いアンタの事を心配しなかったのか?」
それもそうだ。今、キンの周りには腰に貼りまくった湿布やら何やら、薬液が染み込んだツンとする匂いが漂っている。こんなヤバイ状態の父親を、あのファザコンボーイが心配しない事などないだろうか。
「あぁ、あいつ……」
キンが苦笑する。
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