不遇水魔法使いの禁忌術式

キミドリ

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不遇な水魔法使い

13話 他者のための自責

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 あの後二度目の入院をし二日目の朝だった。この世界で二度目の入院。前回より早い回復ぶりに、身体が魔法世界に適応してきたのを感じる。一方、片手を粉砕していたはずのアルジェントは、俺の検査が終わる頃には退院していた。さすが都市魔法使い、化け物か?

 アルジェントさんのは俺の期待していた通りに戦ってくれた、あの人に何も文句はない。入院したのだって俺のせいだ。

 訓練についてはサーシャに話してあったものの、具体的な内容は伝えていなかった。
 フランからの連絡を受けた彼女が病室に飛び込んできた時、その激しい反応は予想通りだった。

「カイ!また入院したってほんとですか!?」

「あ、サーシャ。ごめん、今日は帰れなくて――うぐぅ!」

 サーシャは俺の胸元を掴んで揺さぶってきた。傷口に鋭い痛みが走る。

「サ、サーシャ、い、痛いッ!」

「あ……すみません。心配のあまり気が動転してしまって……」

 揺さぶる手を止め、今度は優しく抱きしめてくれた。いつもの香りと、かすかな汗の匂い。俺のためにここまで走ってきてくれたのだ。その気持ちが嬉しい反面、また心配をかけてしまった自分への苛立ちが込み上げてくる。

 たとえアルジェントが手加減してくれていたとしても、金属器を持つ者と持たない者との圧倒的な力の差を思い知らされた。これで二度目だ。サーシャを守るためには、早く都市魔法使いになって――。

「カイが頑張っているのはわかってます。それも私のために……」

 サーシャの声が静かに響く。

「でもあなたが私を心配するように、私もカイが心配なんです。一人で抱え込まないで。自分を責めすぎないで。一緒に、少しずつ前に進みましょう……ゆっくりでいいので」

 彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。安らぎを感じさせる音だ。サーシャの優しさに包まれたままでいたいと思える。このまま、サーシャの言う通りゆっくりと進むのもいいのかもしれない。

 ――けど、俺が彼女を、サーシャを守らなければ。与えられてばかりの俺が、守られてばかりの俺が、俺がサーシャを……!

「サーシャ、苦しいよ……」

「あ、ごめんなさいカイ。強く抱きすぎてしまいましたか?」

「いや、サーシャのこんな大胆なことをしてくれて俺も嬉しかったし、安心できたよ。ありがとう」

 顔を赤くするサーシャ。今更さっきまでの自分の行動に気づいたのだろう。可愛らしい姿に思わず微笑んでしまう。

「なあ、フランさん。サーシャ可愛すぎない?これも教官の教育によるものなのか」

「にゃはは~、お姉さんもそんなこと教えた覚えはないし、それに私を一人にして二人の空間に入らないで欲しいかな~」

「も、もう知りません!カイも元気なようですし早く退院してくださいね!あなたは私の研究助手なんですからね!」

 そうぷりぷりと怒って病室から出ていこうとする。扉を開けてからこちらを振り向き、目を泳がせながら付け加えた。

「……あの広い家にメイドと二人きりは寂しいので早く戻ってくださいね!」

 天使のような言葉を残して去っていく彼女の後ろ姿に、胸が熱くなる。

「本当に幸せ者だね、君は~。サーシャちゃんの言う通り、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな~。お姉さんはそう思うよ」

「アルジェントさんを紹介してあんな試練を課したのはフランさんでしょうに」

「まあ、そうなんだけどね。私も色んな人を見てきたわけだし、がむしゃらに頑張って無理をしすぎてしまった子なんかもいたからさ。心配になっちゃうわけさ……」

 フランはサーシャが出ていった扉を見つめながら言った。その後ゆっくりとこちらに向き直り、子供を諭すような柔らかな笑みを浮かべる。

「どうして、カイ君はそんなに一人で頑張ろうとするのかな?」

「……俺はサーシャを守りたいんですよ。サーシャは何も知らなくて行く当てのない俺に住む場所も仕事も……それに愛情だってくれました。もらってばかりなんですよ、俺は。そんな俺にできることはサーシャの夢を手伝って、サーシャの敵を倒して、サーシャのことを守ることだけで……」

「サーシャ、サーシャ。俺、俺ってそればっかりだね、君は」

 フランの声が鋭く響く。

「君はサーシャの気持ちを何も考えていないよ。自分の気持ちばっかりだ。少しはあの子の気持ちを汲んであげないと、愛想を尽かされてしまうよ」

 扉付近で立っていた彼女はベッドで身体を起こしている俺に近づき、イスに座って目線を合わせた。

「いい?私は君を買っているし、あの子の夢も応援したいから魔法の開発にも魔法使いの試験も応援してあげる。でもね、心配するサーシャの気持ちを無視して一人で勝手に進んで、あの子を傷つけるようなことは許さないよ。あの子をそんなに大切に思っているのなら、同じくらいあの子の気持ちも大切にしてあげないとだめだよ」

「フランさん……うぐぅ」

 フランの子供のように小さな手が俺の頭を撫でる。少し乱暴だが、どこか優しく温かい。

「私も君が無茶して取り返しのつかないことになってほしくないんだよ。アルジェントはそこら辺の加減が難しい人だしね。お姉さんはね、君が強くなりたい気持ちがすご~くわかる。だからこれからも協力するし、訓練での怪我もサーシャちゃんにはしっかりと説明してあげる。それにあんな護身用レベルの魔法でアルジェントに一本取ったことは凄いことだよ。君には魔法使いの才能がある、安心してほしい。だから、サーシャを守ってあげるというより、一緒にいてあげてね」

「フランさん……、俺……」

「じゃあ私も今日は帰るから、しっかりと考えてねカイ君~」

 フランは椅子から立ち上がり、手を振りながら病室を後にした。時刻はもう夜更け過ぎ。

 「サーシャの気持ちか……」

 俺は少し焦り過ぎていたのかもしれない。でも……。

 コンコン ノック音が聞こえた。

「失礼します、カイ殿」

 アルジェントの声だ。

「どうぞ、アルジェントさん」

 扉が開き、スーツに身を包んだ気品溢れる紳士の姿が現れた。

「カイ殿、ご加減はいかがでしょうか」

「えーと、まだ身体が痛みますが大丈夫ですよ。アルジェントさんの方こそ、腕は大丈夫なんですか?」

「それは何よりです。ワタクシも久々に攻撃を受けてしまい、自分の研鑽の足りなさに恥ずかしさを覚えます」

「でもアルジェントさん、あの時はああ言っていましたけど、俺に手を抜いてくれていましたよね」

「……いえいえ、そんなことはありませんよ。この腕の怪我は貴殿の覚悟によるものです」

「そうですか……」

「何やら思い詰めているようですなカイ殿」

「あ、あいや、えーと、はい」

 誤魔化そうとも思ったが、鋭く俺の全てを見透かしたような目が、話せと訴えかけてくる。いや、俺は誰かに相談したかったのだ。

「実は……」

 そうして今のモヤモヤした気持ちを話した。

「……なるほど。失礼ですがカイ殿、――貴殿はサーシャ殿を甘く見ている」

 !?

「魔法使いというのは貴殿が考えるより強い存在です。それはもちろんサーシャ殿にも当てはまります。都市魔法使いは今日貴殿が示した覚悟を皆持って、魔法の探究と都市への業務を行っています。都市魔法使いになるのは生半可な実力ではなれません。それは研究成果だけではなく、魔法戦闘での腕も含みます」

「自惚れないでもらいたい。サーシャ殿は貴殿よりよほど強いことを。しかし、貴殿の示した覚悟は都市魔法使いのそれに匹敵するものです。今は研鑽を積み、その高みへ到達しなさい」

 !!!!

「そうか……、俺は自惚れていたんですかね。実力もないのにあいつを守るなんて――けど俺はいつか、いや必ずたどり着きますよ。サーシャを守れるくらいの実力に!」

「そのいきですよ」

「アルジェントさん、アルジェントさんが言う覚悟って何なんですか?」

 彼は少し目を瞑り、数秒の間を置いて目を開き語る。

「覚悟とは、例え我が身の全てを犠牲にしようとしても、目的のためならば手段を択ばず最善策を取れるように知略を巡らすことです。まさに今日貴殿がワタクシめを倒すために行ったことです」

「目的のために手段を択ばない……」

「ええ、貴殿がサーシャ殿を大切に思う気持ち、守りたい気持ち。そのために手段を択ばないこと、それは素晴らしいことです。一度守ると決めたのなら、それを最後までやり切りなさい。中途半端な結果は許されないのです。それが今日示した覚悟に報いることなのです。その手伝いは僭越ながら最大限させてもらうつもりですよ、ワタクシもフラン殿も」

「おっと、もう今日の面会時間は過ぎていますね。ではカイ殿、また後日」

 アルジェントも病室から去り、俺一人が残された。医療検査器具の静かな音が響く。

 サーシャは俺と一緒に進みたいと言い。
 フランさんはそのサーシャの気持ちを汲めと言いながらも、手伝いはすると言う。
 アルジェントさんは手段を択ぶなと言う。

 ……俺はどうしたらいいのか?サーシャを、サーシャとどうしたいのか?

 ………………守りたい、けどそれ以上に笑っていてほしい。これが俺の目的なのだ。
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