【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

文字の大きさ
111 / 142
【番外編】最終話以降のお話

10話・初めてのプレゼント

しおりを挟む


「おかえりなさい。遅かったですね」
「すみません、急用があって」

 定時で退勤した後、阿志雄あしおは真っ直ぐマンションへは帰らず何処かへ出掛けて行った。「先に夕食を済ませてください」と言われていたにも関わらず、穂堂ほどうは食べずに待っていた。一人で食べても味気ないからだ。

 いつもより遅い時間に食卓を囲む。何故か阿志雄がそわそわしているように見えて、穂堂は首を傾げた。

「口に合いませんか?」
「そんなことないです、めちゃくちゃ美味いです!」
「それなら良かった」

 安心して微笑む穂堂を見て、なるほど、確かに以前より表情が豊かになったかもしれない、と阿志雄は妙に納得した。

 食事と入浴を終え、あとは寝るだけとなった頃、阿志雄が改まって小箱を穂堂に差し出した。手のひらに収まるほどの小さな革張りのケースである。言われるままに受け取り、蓋を開けると、中には銀色に輝く指輪が入っていた。

「阿志雄くん、これは?」
「虫除けです」
「虫?」

 何のことだかさっぱり分からず、穂堂はぽかんと口を開けた。阿志雄がケースから指輪を手に取る。平打ちで装飾のないシンプルなデザインの指輪だ。

「サイズは大丈夫だと思うんすけど」

 そのまま穂堂の左手を取って嵌める。薬指にすっぽり収まった指輪に、阿志雄は満足そうに何度も頷いた。

「仕事中は邪魔になるかもしんないけど、出来るだけ身につけといてください」
「はぁ……」

 突然のことに、穂堂は茫然と自分の左手薬指に嵌められた銀の指輪を見つめた。意図が全く分からず、また首を傾げる。

「なんだか結婚指輪みたいですね」

 ぽつりと呟かれた言葉に、阿志雄が奇声を上げた。

「アッ違うんです!これ適当に買った安いやつで!ちゃんとしたのはまた今度買いますんで!」

 珍しく慌てた様子で必死に弁解している。
 この指輪は仕事上がりに近場のジュエリーショップで見繕ってもらったもので、ブランド物でも何でもない。いつかはペアリングを持ちたいと考えてはいるが今回とは別件。
 それでも穂堂は嬉しかった。

「君がくれた初めてのプレゼントですから、大事にします」

 一緒に住み始めてから様々な家具や家電などを買い揃えた。それらは生活必需品であり、個人的な贈り物は初めて。薬指に光る指輪をそっと撫で、穂堂は口元を綻ばせた。

「で、虫除けって何の話ですか」
「えーとですね……」

 指輪を買うに至った経緯を説明すると、穂堂は感心したように薬指の指輪と阿志雄を交互に見た。

「なるほど。指輪をつけているだけでお誘いが減るというわけですか。パートナーがいる証になる、と。それは便利ですね」
「はい。だから、つけておいてくれますか」
「構いませんよ。でも、私からも条件があります」
「条件?」

 まさか交換条件を出されるとは思ってもおらず、阿志雄は再び動揺した。

「君も指輪をつけてください。出来れば、営業先だけでなく社内にいる時も」
「へ?オレも?」
「ええ。どちらかといえば私より君のほうが声を掛けられていますから」

 以前、阿志雄が別部署の女性社員たちから遊びにいこうと誘われている場面を目撃したことがある。やんわり断ってもしつこく食い下がられている様子を見て不憫に思ったものだ。

「君の指輪は私がプレゼントします」
「え、マジですか!」

 結局、虫除け用の指輪を互いに贈り合うことになり、二人はプッと吹き出した。





 それから数日後。

 穂堂はまた取引先の担当者から声を掛けられそうになったが、さりげなく左手薬指の指輪を見せて相手がいることを匂わせた。
 一方の阿志雄は、そう言った空気になる前に指輪を堂々と見せびらかし、惚気話をすることで他者の入り込む隙を無くした。

 要らぬ誘いを断るにはパートナーの存在をアピールするのが手っ取り早い。まともな相手ならば察して自ら身を引いてくれる。

 阿志雄が改めて鍬沢くわざわに礼を言うと、彼はフッと意地の悪い笑みを浮かべた。

「世の中には、他人のモノだから逆に欲しくなるって人種もいるんですよ。せいぜい気をつけてくださいね」

 浮気や不倫を平気でするようなタイプには逆効果になる場合もあると脅すと、阿志雄はサーッと顔を青くした。その可能性は考えていなかったようだ。

(……アイツはどっちだろ)

 ギャーギャー騒ぐ阿志雄を冷静に眺めながら、鍬沢は少し考え込んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...