38 / 41
最終章 幸せの選択
38話・ぜんぶ見せて *
かねてから計画していたお泊まりデートの日がやってきた。行き先は県内だが、やや距離があるため一泊となる。先にホテルにチェックインし、荷物を置いてから観光する予定だ。
「ホントは温泉旅館が良かったんすけどね」
今は秋の行楽シーズン。旅行の話が出た頃には既に良さげな宿は予約が埋まっていたため、手頃なシティホテルに決めたのである。
窓から風情のない駅前通りを見下ろす俺の背中に伊咲センパイが抱きついてきた。
「この部屋も結構広くて綺麗だよ。駅に近くて便利だし、良いホテルを見つけてくれてありがとう」
それに、と彼は言葉を続ける。
「君と一緒ならどんな場所でも嬉しい」
俺の恋人が今日も最高に可愛い。
俺を喜ばせる才能有り過ぎだろ。
荷物を置き、早速出掛けることにした。今回の目的地である博物館へと向かう。
「うわあ、すごい。綺麗!」
展示されている日本刀を前に、伊咲センパイは目を輝かせた。ガラス越しに食い入るように見つめ、時折感嘆の息を漏らしている。
解説パネルを見てみれば、昨年の大河ドラマで題材となった武将の物だという。歴史好きだと知ってはいたが、まさかここまでテンションが上がるほどとは思わなかった。
「詩音が書いた歴史小説がきっかけで戦国時代とか日本刀に興味を持ったんだよ」
特別展示を見終わってから館内にある喫茶店で休憩している時に教えてくれた。
伊咲センパイは大学の中庭でよく本を読んでいた。そういえばほとんど歴史小説だったなと思い出す。俺も詩音さんの著作を何冊か読んだが、戦国武将を題材とした本は特に面白かった。彼の仕事部屋に積まれている資料の山は伊達ではないのだ。
博物館の後は史跡や土産屋を見て回り、ちょっと良い店で食事をしてからホテルに戻る。
「今日は僕の趣味に付き合わせちゃってごめんね。退屈しなかった?」
「全然! 楽しそうな伊咲センパイがたくさん見られて嬉しかったっす」
「……もう」
素直な気持ちを口にすれば、伊咲センパイは照れたように頬を染めた。
「次は獅堂くんが行きたいところにしようね」
今までの彼は少し未来の話をすることすら躊躇っていた。でも、最近は『俺といる未来』を当たり前のように話してくれる。毎日欠かさず好きだと伝えてきた甲斐があったというものだ。
旅先の開放感からか、一緒にお風呂に入ることを許可してくれた。わあい嬉しい。俺や伊咲センパイんちでは狭くて無理だったけど、ホテルのバスタブは大きめサイズなので余裕で一緒に入れるのだ。
「たくさん歩いて疲れましたよね。足、痛くないっすか」
「大丈夫。君こそ疲れたでしょ。買ったもの全部持ってくれてたし」
「俺は全然平気っすよ」
入浴剤で白く濁った湯に向かい合わせで浸かりながら笑い合う。
旅行中、伊咲センパイはずっと上機嫌だ。楽しみにしていた特別展示が見られて余程嬉しかったのだろう。
「今日は僕が背中を流してあげる」
いつものお返しとばかりに伊咲センパイが申し出てくれた。洗い場で椅子に座る俺の後ろに立ち、泡立てたタオルを使って背中を洗っていく。なんと髪も洗ってくれたので、俺は感激に打ち震えながら堪能した。
「あー気持ちいい。幸せ」
「喜んでもらえて良かった」
俺の髪や体に残る泡をシャワーで流し、伊咲センパイは満足そうに笑った。
「獅堂くんは先に上がってて」
「なんで?」
まず俺を洗ったのは先に上がらせるためだったのか。せっかく広いお風呂で一緒に入れるのだからもっと楽しみたいところだが、次の言葉を聞けば断念せざるを得なかった。
「ええと、その、……準備するから」
真っ赤な顔で視線をそらす伊咲センパイに、つられて俺も赤くなる。なんかこう、改めて言われるとすごい破壊力だ。
先に風呂から出て髪を乾かしながら、浮き足立つ気持ちを必死に我慢する。明日も観光する予定があるから無理はさせられない。
軽く済ませようと考えていたのに。
「今夜は思いきり抱いてほしい」
そんな風に誘われて断れるほど俺は出来た人間ではない。
湯上がりで上気した伊咲センパイの頬を両手で挟んで上を向かせ、深く唇を重ねる。薄く開かれた隙間に舌を捩じ込み、口内を貪るように舐めまわした。なだれ込むようにベッドに押し倒し、バスローブの腰紐を解いて脱がせる。
「んんっ……」
露わになった胸元に掌を這わせ、キスの雨を降らせていく。伊咲センパイの甘い喘ぎを聞いていると興奮する。
「獅堂くん、明かりを消して」
部屋を暗くしてほしいと懇願されたが、俺は首を横に振った。
「暗くしたら見えなくなるじゃないですか」
「でも、恥ずかしい」
伊咲センパイは脱がされたバスローブを自分の体を隠すように抱え込んでいる。
今まで明るい時間帯にセックスしたことはない。部屋の明かりは毎回消し、ナイトテーブルに置かれた小さなランプだけの薄暗い状態だった。だから、煌々と照らされた室内で行為に及ぶのは初めてとなる。
「思いきり抱いていいんでしょ?」
「う、うん」
「だったら、ぜんぶ見せて」
俺の言葉に、伊咲センパイは固まった。真っ赤な顔を更に赤くして、困ったように眉を寄せている。自分から言い出した手前、俺の要求を突っ撥ねられなかったのだろう。
「……、……わかった」
しばらく悩んだ後、渋々ながら了承してくれた。掴んでいたバスローブからそっと手を離す。
邪魔なものを取り払うと、ベッドの上に横たわる伊咲センパイの体がよく見えた。思わず生唾を飲み込む。ヤバいくらいに興奮している自分に気付き、俺は迅る気持ちを必死に抑え込んだ。
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまの第2回BL小説漫画コンテストで『文が癒されるで賞』をいただきました。応援してくださった皆さまのおかげです。心から、ありがとうございます!
表紙は、ぱくたそ様よりsr-karubi様の写真をお借りしました。ありがとうございます!
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。