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プロローグ
0話・魔力の発散は怒りと共に
しおりを挟む見渡す限り何もない真っ白な世界。
空間魔法により通常空間から完全に隔絶された場所で対峙する二人の青年の姿があった。
「諒真くん、もっと強い攻撃魔法を使わないと」
「だ、だって」
「大丈夫。僕には防御盾がありますし、もし防御を破られても痛覚を遮断してますから痛く有りません。どんなに負傷しても意識を失わずに完全治癒が可能です」
「……治りゃいいってもんじゃないだろ」
「いいんですよ。そもそも、僕たちがこうしているのは『死なないため』なんですから。本気でやらなきゃ意味がないでしょう」
諒真と呼ばれた黒髪の青年は辛そうに下唇を噛み、右手を前にかざす。すると眩ゆい光と共に無数の炎の塊……炎弾が前方に出現した。まるで銃でも撃つように右手の人差し指で狙いをつけて放つと、炎弾は勢い良く標的に向かっていった。
「その程度じゃ僕の盾は削れませんよ」
茶髪の青年、創吾が手をかざすと前方数メートルの位置に硬質ガラスのような楕円形の盾が出現した。炎弾は壁にぶち当たり、煙となって掻き消える。
「だから言ったじゃないですか。もっと強い魔法を、──ッ!」
余裕ぶっていた創吾の顔色が変わった。全て防いだと思っていた炎弾がまだ幾つか残っていたからだ。正面からの攻撃は囮。本命は時間差で放った数発。左右、そして上からの挟み撃ちに、創吾は防ぎきれずに幾つかまともに喰らった。
「創吾ッ!」
自分で攻撃しておきながら、諒真は血相を変えて倒れた創吾の元に駆け寄った。
憎み合っているわけではない。
敵対しているわけでもない。
命を預けるに足る仲間だ。
それなのに、何故二人は戦っているのか。
「……いてて。今のはなかなか良かったですね。うっかり喰らってしまいました」
「あれくらい防げただろ。なんでワザと受けたんだよ」
「いいんですよ。治癒魔法も使わないと魔力が減らないですもん」
そう言いながら、創吾は腕や足の痛々しい傷に手をかざした。あたたかな光が傷口を癒やし、あっという間に焼け爛れた皮膚と焦げた服が元通りに修復されていく。
「ほらね、完治しました」
「そういう問題じゃ……うわっ」
笑いながら、創吾は諒真の手を引っ張って地面に転がし、その上に覆い被さった。
「あの程度の炎弾、何百発撃っても大して魔力を消費しないでしょ。……溜まってる魔力を全部出さないと意味がないですよ」
「で、でも」
「……まだそんなことを言ってるんですか。だったら、嫌でも魔法を使わせてあげます」
冷たい指先に顎を持ち上げられ、諒真の唇が無理やり塞がれた。驚きで硬直した身体を嘲笑うように、もう片方の手が服の隙間から入り込んでいく。
羞恥と怒りで我を忘れた諒真は、持てる魔力を全て解放して創吾に攻撃魔法を放った。
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