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第3章 苦悩とトラウマ
15話・魔法使いのトラウマ
しおりを挟む頑なに強力な攻撃魔法を使おうとしない諒真に対し、創吾は苛立ちを感じていた。
「魔力を使い切るには一番強い魔法を使うしかありません。炎弾なんかじゃまた何時間も掛かってしまいますよ」
「わ、分かってるんだけど……」
長引けばそれだけ創吾のプライベートな時間を削ってしまう。彼がイラついているのはそのせいだ、と諒真は思った。ダラダラ時間を掛けると迷惑になると分かっていても、心の中で勝手にストッパーが掛かり、威力の弱い攻撃魔法ばかりを使ってしまう。
迷いを見せる諒真に、創吾は荒療治に出ることにした。自分の周りに浮いている防御盾を全て消したのだ。これまで弾かれ続けていた炎弾を阻む盾がなくなり、一斉に創吾目掛けて飛んで行く。
「ば、馬鹿!」
盾の消滅に気付いた諒真が慌てて創吾と炎弾の間に割って入り、その身体で自身の魔法を喰らった。
「くっ……」
「諒真くん!」
炎弾が諒真の皮膚を焼き、服を焦がした。数発喰らった時点で他の炎弾は消したが、無傷とはいかない。
「……何故ですか、諒真くん」
「誰も怪我させたくない、から」
力無く呟く諒真に対して痛覚遮断と治癒魔法を掛けながら、創吾は過去の出来事を思い出した。
異世界に召喚され、魔王を倒す旅に出たばかりの頃の話だ。魔物に襲われている集落があると聞き、みんなで助けに行った。そこで諒真は広範囲の攻撃魔法を使い、魔物の群れを一撃で全滅させた。
しかし、魔法の範囲が広過ぎて、逃げ遅れた住人を数名巻き込んでしまった。
幸い命に別状はなく、創吾が治癒魔法で完全に治した。住人を傷付けてしまったことにショックを受けた諒真は、それ以降強力な魔法の使用を極力控えるようになった。
誰も諒真を責めはしなかったが、彼自身は考えなしに行動した己を責め、嘆いている。
「……君は優し過ぎます」
何ヶ月経っても、諒真の中であの日の失敗の記憶は少しも薄れることなく残っている。
苦痛に歪む老人や幼子の苦悶の表情。泣きながら寄り添う嘆く家族。治療を受けた後、礼を言う人々の目には感謝だけでなく強大な力を持つ者への恐れが覗いていた。
あの時、一気に魔物を片付けなければ討伐は長引き、被害は増えていただろう。そもそも、集落の危険を察知したのは諒真の生体感知魔法だ。大勢の命を救ったというのに、たった数人に怪我を負わせてしまった事実が未だに彼を苛んでいる。
「それでもオレは、自分の魔法で誰かを傷付けるのがこわい」
最強の魔法使いが震えながら洩らした本音に、創吾は彼の心の傷の深さを思い知った。
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