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第5章 エスカレートする行為
26話・脳筋カップルの惚気話
しおりを挟むここは勇者パーティー四人のSNS上のトークルーム。
元の世界に帰ってから早一ヶ月半。能力を隠しながらの生活に不都合がないか、定期的に情報交換を行なっていた。住んでいる地域が離れ過ぎているため、それぞれの生存確認も兼ねている。彼らが授かった特殊な能力が元の世界の住人にバレたら『魔王の呪い』によって死んでしまうからだ。
トークルームのアイコンが四つともアクティブ状態になった画面を見て、諒真はホッと安堵の息をついた。無事に集まれたということは、今週も全員なんとかやり過ごせたという証拠だ。
『俺さぁ、周りからちょっと怪しまれてるかもしんない』
由宇斗の発言に他の三人が動揺した。異世界に召喚される前から規格外の身体能力を持っていた彼は、多少おかしな真似をしても周囲から不審に思われることはなかった。二階から転落して無傷でも怪しまれなかったのだ。素手でヒグマを倒したか、はたまた暴走トラックを片手で止めたか。
「おいおい、大丈夫か。何をやらかしたんだよ」
心配した諒真が尋ねるが、違った。
『カノジョが出来たってバレそうで毎日ヒヤヒヤだよ。やっぱ隠したほうがいいよね~?』
「そっちかよ!!!」
チート能力のことではなかった。
『異世界に行く前に友だちと一緒に女子校の学祭行ってナンパするって約束してたんだけど、やっぱ行くのやめるって言ったらめっちゃ理由聞かれてさぁ』
異世界に召喚された後、歳の近い由宇斗と将子は自然と惹かれ合い、帰還する直前に交際し始めた。
しかし、異世界で過ごした数ヶ月間は元の世界ではノーカウント。それなのに突然女の子に興味を示さなくなり、むしろ余裕まで出てきた由宇斗に対し、男友だちが怪しんでいるのだとか。
『ふぅ~ん、そんなに彼女欲しかったんだ』
『ち、違うよ!みんなに話あわせてただけで、今は将子ひと筋だって!』
『どーだか』
ムッとした様子の将子が食ってかかり、由宇斗が必死に弁解している。既に尻に敷かれまくりの『勇者』の情けない姿に、大人組は苦笑いするほかなかった。
『でも、そうですよね。召喚前と急に態度が変わったら周りが不思議に思いますよね』
「そうだなぁ……」
創吾の言葉に、諒真は部長と交わした会話を思い出した。
以前とは違うと暗に指摘され、随分驚かされた。能力がバレないように。そればかりを気にしていたが、案外違うところも見ている人は見ている。
「急に遠距離交際の恋人ができたなんて知られたら、どこで出会ったのか根掘り葉掘り聞かれそうだよな。由宇斗はすぐボロ出しそうだし、しっかり言い訳を考えてからでないと」
『やっぱり~?』
滋賀県在住の高校生が宮城県在住の女子高生と交際してるなんて、どうしたって知り合った切っ掛けを聞かれるに決まっている。しかも、ふたりは互いの居住地に行き来したことすらない。
『私はもう言っちゃったわよ』
「え、なんで?」
『告白される度に適当な理由を考えるのも面倒だから、付き合ってる人がいるって正直に伝えてるの』
平然と答える将子に、男性陣は一瞬言葉を失った。クールビューティーでミステリアスな雰囲気のある将子だ。さぞモテるだろうとは思っていたが、今の話だとしょっちゅう告白されているようだ。
「相手が誰とか、周りから詮索されないのか?」
『そんなの律儀に答える必要なんてないわ。相手は私より強い男だって言えばみんな黙るもの』
『将子ぉ~♡』
確かに『勇者』由宇斗は『格闘家』将子より強い。将子が惚れているのは由宇斗の底抜けに明るく素直な性格だが、やはり一番はその強さ。
突然始まった高校生カップルのイチャイチャトークを、大人組は一歩ひいて微笑ましく見守る。
「……いいなあ彼女」
ぽつりと諒真がもらした呟きを、創吾は黙って聞いていた。
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