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第6章 2度目の異世界召喚
39話・抱くか、抱かれるか
しおりを挟む夜中に訪ねてきた新米騎士、リエロは諒真の言葉にはらはらと涙をこぼした。突然泣かれ、諒真は慌てて席を立って彼に駆け寄る。そして、宥めるように背中を撫でてやった。
「よしよし、落ち着け。な?」
「リョウマ様……」
涙に濡れた青の瞳が諒真を見上げた。間近で視線が交わり、なんとなく見つめ合ってしまう。綺麗な顔をしてるな、などと思っているうちに、リエロの手が諒真の腰に添えられた。
「失礼をお許しください」
「え」
震える声で謝罪しながら、立ち上がったリエロは諒真の身体を抱きしめた。騎士としては細身で童顔だが、平均的な日本の成人男性よりは背が高い。彼の肩口に顔を埋めるような体勢になり、諒真は身体を強張らせた。
「女性の相手は気が進まないようですから僕がお相手致します。リョウマ様はどちらがお好みですか」
「えっ、なに?なんの話?」
「どちらの役でも務まるよう指導を受けて参りました。僕で不満でしたら他の者をお呼びしますので、何なりと仰ってください」
あらかじめ決められていた文言なのだろう。先ほどまでの涙が嘘のように、よどみなくリエロは諒真に用件を告げた。
抱くか、抱かれるか。
それとも別の男を呼ぶか。
言葉の意味を理解した瞬間、諒真はその場から消えた。転移魔法を用いて客室から別の場所に移動したのだ。寝間着のまま建物の廊下に出てしまい、慌てて柱の影に身を隠す。
自分の部屋には戻れない。由宇斗は様子がおかしいし、将子は女性だから夜間に行くことは憚られる。やはり、こういう時に頼れるのは創吾しかいない。生体感知魔法で居場所を特定して転移する。
一瞬、逃げた先にも女性か騎士がいたらどうしようと悩んだが、今はそれどころではなかった。
転移した先は薄暗い寝室内。
ここに居るのは創吾ひとり。
「創吾……」
「その声は、諒真くん?」
時刻は真夜中。既に休んでいた創吾は諒真の声に気付き、上半身を起こして枕元にあるランプを灯した。揺らめく炎の明かりに照らされた諒真の姿を見つけ、寝台から降りて駆け寄る。
「どうしました?」
「部屋に帰れなくなった。泊めて」
「構いませんけど、一体何が」
当然の質問に、諒真は唇を噛んだ。
先ほどのリエロとのやり取りはまだ自分の中でも消化できておらず、誰かに説明できる状態ではない。とにかく、あの場から逃げるだけで精一杯だった。そうでなければ酷い言葉を彼に投げ付けてしまいそうだったから。『どちらの役も務められるよう指導を受けてきた』とリエロは言った。昼間の任務に居なかったのは、男を相手にする際の手解きを受けさせられていたからなのだろう。
涙を流していたのは、意に沿わぬことを命令された悔しさか、それとも──。
「何も聞かないでくれ。疲れた」
「……、……わかりました」
創吾は諒真の肩にそっと腕を回し、自分の寝台へと誘った。端のほうで背を向けて寝転がり、頭まで毛布を被る姿に、よほどのことがあったのだろうと推測する。
これ以上精神的な負担を掛けぬよう諒真が眠りにつくまで寝台には入らなかった。
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