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第9章 明らかになる謎
58話・僧侶の懸念
しおりを挟む聖都ハイドラに戻ってきたのが昼頃。侍女が用意してくれた軽食を食べた後、人払いをしてから創吾はソファーに寝転がった。
あれ以来、貴族の令嬢たちが侍女に化けて迫ってくることはなくなった。出発前夜に大司教ルノーに文句を言ったのが効いたのか、それとも『それらしい相手が出来た』と判断されたからか。どちらにせよ、女性から羽虫のようにまとわりつかれることを好まない創吾にとっては都合が良かった。
諒真は新米騎士リエロと。
創吾は女性騎士ラミエナと。
それぞれ親密さを周囲にアピールし、これ以上他者から誘惑されないように演じている。
(……あれも演技なのか)
魔王城跡探索で、諒真とリエロの距離感が近くなった。初日の夜に迫られた時はあんなに動揺して震えていたのに、今はリエロが身体に触れても全く嫌がる素振りを見せない。彼を利用しろと言った手前、創吾にはふたりを引き離すことは出来ない。
もしリエロが脈無しと判断されれば、諒真の元に再び誰かが派遣されてくる可能性が高い。男も対象になると誤解されている今ならば、リエロのような気弱な新米騎士ではなく、もっと強引に手を出してくる者が寄越されるかもしれない。押しに弱い諒真は拒めず、流されてしまうだろう。
「──そんなことになる前に、この国ごと滅ぼしてやろうか」
無意識に口から出た言葉に創吾自身が驚く。
『おかしくなったのは由宇斗だけじゃない。将子もだ』
『もしかしたら、オレもどこかおかしくなってるのかもしれない』
諒真の言葉を思い出し、創吾は改めて我が身を振り返った。
いつから自分はこんな風になってしまったのか。嫉妬や猜疑心、独占欲が腹の中に渦巻いて、時折凶暴な気持ちが這い出してくる。以前はこうではなかった、とハッキリ言い切ることは出来ない。それくらい心情の変化は緩やかで、真水に泥が混じるようにじわじわと、しかし確実に広がっていく。
ズキ、と痛みが走る頬に手を伸ばせば、まだ治していない小さな傷があった。魔力はとうに回復している。軽い治癒魔法を掛ければすぐに消える。
「……あれ?」
ところが、傷は治らない。
うまく発動していないのかと思い、試しに別の魔法を使ってみると防御盾は問題なく出すことが出来た。
「呪いの核の破片が当たった場所だから魔法が効きにくいだけか」
部屋の隅にある鏡台を覗き込み、創吾は自分の顔をまじまじと見つめた。右頬の傷は痛みはあるがさほど目立たないため、そのまま放置することに決めた。
「ソウゴ様」
「いま開けます」
扉を開けると、ラミエナが立っていた。宮殿内で目立たぬよう侍女の衣服を身に付けている。
「待っていましたよ、ラミエナさん」
創吾は笑顔で彼女を室内に招き入れると、後ろ手に扉の鍵を閉めた。
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