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第9章 明らかになる謎
64話・抑えきれない衝動
しおりを挟むソファーに押し倒された状態で、諒真は創吾を見上げた。ランプの明かりが逆光になっていて創吾の表情はよく見えない。
「何をしていたんですか、彼と」
「何もしてないって」
「じゃあ、何を話しました?」
覆い被さられた状態で問い詰められ、まるで尋問のようだと諒真は感じた。きっと知らず知らずのうちに自分が何かしてしまったのだろうが、思い当たる節はない。ならば何故そんなに怒っているのか。
「もしかして、リエロを疑ってるのか?」
「え」
意外な言葉に、今度は創吾が驚いた。
要は、リエロが大聖堂側のスパイかもしれないのに側に置いているから怒っている、と諒真に思われているのだ。
「あいつはそんな奴じゃない。オレたちを欺くような真似はしない」
諒真の口からリエロを擁護する言葉が出て、創吾の機嫌が更に悪化した。ただの嫉妬心から問い詰めただけで、スパイだと疑ったわけではない。単に気に食わなかっただけ。
「はは、君は本当に……」
あまりにもズレた思考に乾いた笑いがこみ上げてくる。緊迫した空気が解けて、組み敷かれたまま諒真はホッと息をついた。
「もう部屋に戻るから退いてくれ」
「嫌です」
「なんでだよ!」
もう話は終わったはずなのに、創吾は諒真の上から退こうとしなかった。
上質な薄手の布で作られた白い寝間着越しにそっと腹を撫でる。突然触れられ、諒真は身を捩らせた。
「こんな姿を彼にも見せました?いや、彼と何かしたからお風呂に入ってきたんでしたっけ」
「はぁ?どうしてそんな……ンンッ」
無理やり唇を塞がれ、身体を弄られる。
再召喚されて以来、創吾からこんな風に触れられたのは初めてで、驚きと戸惑いで抵抗することすら忘れてしまった。
寝間着姿で会っては駄目だとリエロに言われていたが、結局着替えないまま来てしまった。信頼できる仲間で男同士だから服装なんかどうでもいい、関係ないはずなのにと諒真は困惑した。
元の世界にいた時は『魔力発散のため』という理由があった。人前で魔法が使える今、魔力は程良く消費出来ており、精神的に動揺をさせる行為に意味はない。ここでキスしたり触れたりする必要は全く無いというのに、創吾は諒真の唇を貪り続けている。
「……ッ、やめろ創吾!」
唇が離れた僅かな合間に抗議するが、すぐに再び塞がれ、息を奪われてしまう。突き飛ばそうにも体勢が悪く、腕に力が入らない。
諒真はトラウマのせいで人に向かって攻撃魔法を放つことが出来ない。仕方なく転移魔法を使おうとするが、何故か発動しなかった。いつの間にか創吾が空間魔法を用いていたからだ。真っ白な空間に移動することなく、今いる場所の周辺だけを器用に歪めている。
逃げられない、と諒真が恐怖を感じた途端、不意に創吾が手を離した。両手で自分の顔を覆い隠し、苦しそうに呻いている。
「だ、大丈夫か」
「……僕から離れて」
「え」
諒真が動くより早く、創吾はソファーから飛び降りて部屋の隅へと下がり、距離を取った。フー、フー、と肩で息をしながら小刻みに震えている。心配した諒真が身体を起こして近寄ろうとした瞬間、ふたりの間を遮るように防御盾が現れた。同時に、辺りを歪めていた空間魔法が解除される。
「……すみません、ちょっと調子悪くて。今日は帰ってください」
「でも、おまえ」
ただならぬ様子に食い下がるも、創吾から返ってくるのは拒絶の言葉。
「大丈夫ですから。帰って」
「……、……分かった」
諒真は素直に引き下がり、転移魔法で自室へと戻った。
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