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第12章 元凶との対峙

80話・叛逆の狼煙

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「うまくいきましたか」
「……ああ」

 夜の闇に紛れ、中庭の繁みで落ち合う。上半身裸のままの諒真りょうまに自分のマントを掛け、リエロは辛そうに目を背けた。
 松明代わりの小さな魔力の塊に照らされた諒真の身体には痛々しい痕が残っている。首筋には押さえつけられた時の手の跡。胸元には鬱血痕。衣服は無理やり脱がされたのだろう。かろうじてズボンは履いているが、ベルトが壊され、ずり落ちそうになっている。

 念のため用意していた着替えを荷物から取り出そうと視線を下に向け、リエロが何かに気付いた。

「リョウマ様、どこか怪我をしてませんか」

 ズボンの裾についた血はまだ乾いておらず、べったりと布地が脚に張り付いてしまっている。慌てて足元に膝をつき、持っていた布で血を拭おうとしたが、諒真がそれを制した。

「返り血だから平気」
「そ、そう、ですか」

 抑揚のない声で答える諒真に、リエロは少し怖くなった。この血は先ほど創吾そうごを魔力の杭で貫いた時についたもの。
 着替えの上着を羽織り、予備のベルトを通しながら、諒真がちらりとリエロの様子を窺う。

「それより、そっちはうまくいってるか」
「はい。隊長とラミエナが二人掛かりで団長を酔い潰すよう酒盛りに誘っています。うまくいけば朝まで起き上がれないでしょう」
「なら良い」

 今宵のことは全て諒真の計画通り。
 団長エルヴィダが命令を出せない状況ならば、聖騎士団はすぐには動けない。これから起こることを妨害されないためにも邪魔者は事前に排除しておかねばならない。

 諒真はスッと顔を上げた。
 滞在先の屋敷から目と鼻の先に大聖堂はある。
 星灯りに照らされ、闇夜に浮かび上がる白亜の巨大建造物。ハイデルベルド教国の中枢であり、異世界で最も崇拝されている聖地である。
 カラクリが判明してからは、ただのハリボテにしか見えなくなった。

「ごめんリエロ。しばらく国が荒れるかもしれない」
「構いません。この国は歪んでいます。異世界から呼んだ勇者様たちに全てを押し付けて栄えていただけなのですから」

 ハイデルベルド教国に君臨する教皇。
 その正体は、先代勇者一行のひとり。
 異世界から勇者を召喚し、魔王を倒させる。勇者の悪しき心を分離して新たな魔王とし、残った善なる心を新たな教皇とする。約百年ごとに繰り返されてきた忌まわしき慣習。
 異世界人ひとりを犠牲にしてハイデルベルド教国は栄えてきた。その陰で、魔王が生み出した魔物や魔族によって人々は家族や住む場所を奪われてきた。

「こちらこそ申し訳ありません。辛い役目を負わせてしまって」
「誰かがやらなきゃいけないんだ。気にするな」
「リョウマ様……」
 
 ハイデルベルド教国に生まれ育った者として、リエロは責任を感じていた。何も考えずにただ神を崇め、大聖堂に祈りを捧げ、神に仕えるために聖騎士団に入団した。華やかな活躍をした勇者一行に憧れ、優しい諒真に惹かれた。
 勇者一行がこんな運命を背負わせられていたと知り、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。何も知らずに浮かれていた自分を恥じ、リエロは全面的な協力を自ら願い出た。

「じゃあ行くか」
「はい」

 目指すは大聖堂。
 目的は──大司教ルノーの排除。
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