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第14章 愚かで正しい選択
99話・残された時間
しおりを挟む「オレずっと前から考えてたんだけどさ」
大聖堂の地下深くにある隠し部屋。現在は弱った教皇を寝かせておくだけの伽藍とした寝室に諒真の声が響く。
「オレの転移魔法って召喚魔法に似てない?ぶっちゃけさっきも由宇斗たちを離れたとこから喚び出せたし、極めればイケそうな気がするんだよな」
その発言に、創吾が「は?」と間の抜けた声をあげた。
「いやいやいや、どちらかといえば僕の空間魔法のほうが近いですよ。次元を歪めたり切り離したり出来るんですよ?こっちを極めたら絶対召喚魔法になるはずなんです」
創吾は再召喚される前からその可能性を考えていた。異なる時空と次元を超えて世界を繋ぐ魔法。それは支援系魔法を極めれば使えるのではないか、と。
「残念でしたぁ~!今の教皇サマは先代『魔法使い』だからな。てことは、魔法使いのほうが可能性あるってコトだろ」
「何代か前には『僧侶』が教皇になってたかもしれないじゃないですか」
「やんのか?あぁ?」
「上等です!」
ふたりは睨み合いながらお互いを挑発し、今にも取っ組み合いの喧嘩が起きそうな空気になっている。
「おふたりとも落ち着いてください。言い争っている場合ではないですよ」
「……」
「……」
リエロが間に入って止めると、諒真たちはワザと大きな溜め息を吐き出して距離を取った。ハルクとイルダートはその様子をハラハラしながら見守っている。
「リョウマ、ソウゴ。其方たちに召喚魔法は使えぬ。ルノーを介して悪しき心を引き剥がし、『教皇』を継がねば」
見兼ねた教皇が口を挟むが、諒真はその言葉を受け入れなかった。創吾もだ。
「ルノーが言うには、オレたちは歴代最強らしいからな。やってやれないことはないはずなんだよ」
「得手不得手はありますが、今の僕たちなら理さえ解れば使えない魔法などないと思います」
ついさっき言い争っていたばかりなのに、ふたりの考えはほぼ同じ。対立している理由はそこではないからだ。
「もしかして、他の御三方を元の世界に戻すために召喚魔法を習得しようとなさっているのですか」
イルダートの指摘に、諒真たちはグッと言葉を詰まらせた。
そう、これがふたりが喧嘩していた理由。
ルノーに頼れば魔王が誕生してしまう。魔王を生み出さず、教皇を継がず、召喚魔法だけ使えるようになれば、勇者一行のうち三人は元の世界に帰せる。
ただ、その後は弱りきった現教皇の代わりに聖都ハイドラを維持する役目を負わねばならない。でなければ、聖都に住む数千人が被害に遭ってしまうからだ。
誰が残るか。
諒真か、創吾か。
「万が一の時はオレが残る」
「いいえ、僕です」
「おまえは医者の仕事があるだろ?受け持ちの患者さんをどうする気だよ」
「諒真くんだって仕事ありますよね。それなら条件は僕と変わりません」
再び睨み合いが始まってしまい、間に挟まる形となったリエロは狼狽えるばかりだった。ふたりは異世界に残りたがっているわけではない。自分を犠牲に仲間を元の世界に戻し、かつ聖都をも守ろうとしてくれているのだ。それが分かるからこそ、どちらに味方するわけにもいかずに困り果てている。
しばらく沈黙していたハルクが、ふと顔を上げた。寝台に横たわる教皇に向き直り、深々と頭を下げる。
「恐れながら……教皇聖下、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」
「畏まるな。何でも聞くがいい」
「は。では──」
顔を上げることなく、緊張のあまり震える声でハルクは教皇に問い掛けた。
「聖下のお身体は、あとどのくらい持ち堪えられますでしょうか」
「なっ……隊長!」
「それは流石に不敬では!」
ハルクの問いは『教皇に残された時間』。
要は、『あとどれくらい生きられるか』と余命を本人に聞いているのだ。リエロとイルダートはその質問が無礼過ぎるのではと焦るが、当の教皇は「構わぬ」と笑った。
「そうだな……リョウマとソウゴから魔王の一部を回収したおかげで少し伸びた。あと十日ほどは聖都を維持出来るであろう」
十日以上は保証が出来ない。
つまり、命が尽きるかもしれないということ。
その返答に、ハルクは決意を固めた。
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