【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第14章 愚かで正しい選択

103話・解かれた呪縛

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「……あーあ。帰ってしまわれたわね」

 揺れる馬車の荷台から遠去かっていく聖都ハイドラを眺めながら、ラミエナがぽつりと呟いた。御者台で手綱を握るのはイルダートだ。本来は一番下っ端のリエロの役目だが、彼は溢れる涙で視界を塞がれ、とても馬車を操れる状態ではない。荷台の片隅に腰を下ろし、膝を抱えている。

「リエロったら、リョウマ様のこと本気だったの?」
「……はい」
「わかるわよ。私もソウゴ様が好きだったから。ま、全然相手にされなかったけどね」
「そうだったんですか」
「悔しいけど仕方ないわ。ホントに住む世界が違うんだもの!」
「……ええ、本当に」

 本来ならば存在すら知ることもなかった相手だ。顔を合わせ、言葉を交わせただけで奇跡。
 リエロは諒真との出会いを後悔してはいない。少しでも関われたことを誇りに思っている。ただ、二度と会えないという事実だけが受け入れ難い。縋り付きたくなる衝動を抑え込むだけで精一杯で、別れの言葉もうまく伝えられなかった。

「ほら、いつまで感傷に浸ってるつもりだ!領地に戻ったら休みなく働いてもらうぞ。やらねばならぬことが山積みだからな」 
「はいっ!」

 わざと声を張り上げたハルクに肩を叩かれ、丸めていた背筋を伸ばす。涙で濡れた頬を袖で拭い、リエロはようやく笑顔を見せた。







「おまえまで残らなくても良かったのに」
「……貴方様をひとりで逝かせるわけにはいきません。私が巻き込んだのですから」

 大聖堂の地下深くにある伽藍とした寝室。
 寝台に横たわる教皇ザクルドは、そばに置かれた椅子に腰掛けている大司教ルノーに目線を向けた。
 聖都から住民を退避させるために宣言した際と、勇者一行の送還に立ち会った際に無理をしたせいか、再び身体を動かすことが出来なくなっている。肉体の限界が近い。間もなく教皇の命は尽き、聖都ハイドラは崩壊するだろう。

「ルノーは何故不死に?」
「原初の竜の血を飲んだからでしょう。私が死に至るほどの怪我を負った際、彼が自分の血を飲ませて傷を癒やしてくれました。その時から私は老いず、死なない身体になったのです」
「原初の竜は、ルノーを不死の身体にしてしまったことを悔いて消えたのだろうか」
「今思えばそうかも知れませんね。とても不器用な方でしたから」

 ふふ、と力無く笑うルノーの顔を見て、教皇も口元を緩めた。

「原初の竜はどのような方法で異種族間の争いを仲裁していたのだ?」
「彼はあらゆる種族の言語を話すことが出来たのです。意思の疎通が出来ずに行き違いばかりだったところに割って入り、通訳をしたんですよ」
「ほう!それはすごい」
「相手が何を主張しているか。望みはなんなのか。それさえ分かれば意外と争いは無くなるものなんです。ただ、人間だけは難しかったですね」
「だろうな」

 他にも、竜が多種族の言葉を覚えた方法や祈りの間に飾られている像を作った亜人の話、様々な種族が人間に追われて別の世界に移住した話を聞いた。 
 教皇も生まれ育った世界の話をした。それと、共に戦った仲間であるヴェルム、マルディナ、カティオの話も。

「……長い間ずっと一緒に居たのに、こんな風に昔話をしたことはなかったな。もっと早く腹を割って話をしておくべきだった」
「そうすればより良い道が選べた、と?」
「いや、わたしひとりではきっと何も出来なかった。全てを知っても現状を壊す度胸はなかっただろう」

 約百年ごとに繰り返されてきた筋書き。
 何も知らずに歯車となった歴代の教皇たち。

 現教皇ザクルドは諒真たちに賭け、この国がこれまで積み重ねてきたものを全て壊す道を選んだ。

「ああ、もう目が霞んできた。ルノー、早く聖都から離れるがいい」
「いいえ。ここに残ります」
「不死とはいえ痛みは感じるのだろう?ここは大聖堂の地下だ。崩れれば瓦礫の下敷きとなるのだぞ」
「分かっています。死ねない私は瓦礫の下で永遠にもがき苦しむことになるでしょう」
「ならば、何故」
「もう疲れました。命を永らえても再び心が歪むだけ。過ちを繰り返すより大聖堂ここに埋まりたいのです。……最後の教皇である貴方様と共に」

 ルノーは手を伸ばし、ザクルドの手を握った。指先は冷たく強張り、ぴくりとも動かない。もっと温かい時に触れれば良かった、と悔やむ気持ちがじわりと滲む。

 ザクルドには、竜の血にそこまでの効力があるとは信じられなかった。傷を癒やしたり多少寿命を延ばしたりは可能だろうが、効果が永遠に続くとは思えない。必ず限りがあるはずだ、と。

 恐らく、ルノーを現世に縛っているのはルノー自身。自らに呪縛を掛け、死ねない存在と化してしまったのだろう。

「ルノーが自分を罰するというのなら、わたしがその罪を赦そう」
「え?」





「──ハイデルベルド教国現教皇ザクルド・ウォーゴールは、大司教ルノー・カイネンベルグ……バエルの犯した罪を全て赦す」





 それはただの言葉のはずだった。
 死ぬ間際の戯言のはずだった。

 しかし、今この地には人々からの信仰心が集まっている。魔王が二度と復活しないという宣言により、ハイデルベルド教国のみならず周辺諸国に住む人々から、喜びと未来に対する希望が。魔王を完全に討ち滅ぼした勇者一行と教皇に召喚の力を与えてくれた原初の竜に対する感謝の心が。それらが合わさってザクルドの願いを叶え、

「……これで共にけるな」
「ええ。共に参りましょう」

 泣き笑いの表情を浮かべ、長く白い髪を揺らし、ルノーは横たわるザクルドの胸元に縋り付いた。ザクルドの瞳から光が消え、身体から体温が失われた頃、聖都ハイドラを大きな地揺れが襲った。石造りの建物が地盤から崩壊していく。

 落ちてきた瓦礫で地下の部屋は完全に埋まり、大聖堂はふたりが眠る巨大な墓標と成った。
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