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本編
第6話:ペアルック
しおりを挟む成り行きで、龍之介は謙太のマンションに泊まり込むことになった。
「着替えとか全部貸すから帰るなよ!」
「……わかったよ」
「客用布団もあるから!」
「わかったって」
一度着替えを取りにいこうとしただけでこの剣幕だ。幼い子どもと二人きりにされるのは、ほんの僅かな時間でも不安らしい。確かに、これまでほとんど育児に関わっていなかったのだから仕方がないと言える。
「リュウ、早く上がれよ! 頼むから!」
「風呂くらいゆっくり入らせろ!!」
龍之介が風呂に入る時もこの反応である。
普段残業や接待で帰宅が遅いから、陽色を風呂に入れたり寧花が風呂に入っている間に陽色の相手をするといった経験もないのだろう。
「なんでこんなことに……」
このマンションに来るのは今日で二回目。浴室に入るのは初めてだ。まさか泊まる羽目になるとは予想もしていなかったため、龍之介は湯船に浸かりながらボヤいた。
謙太と寧花が結婚した時に引っ越してきたこのマンションはまだ築浅で設備も割と新しい。それもあるが、きちんと掃除が行き届いている。謙太は育児どころか家事もやりそうにない男だ。掃除も寧花がひとりで頑張っていたのだと分かる。
「あーあ」
綺麗な奥さんと可愛い子どもがいて、幸せにやってると思っていたのに。そう思ったから連絡を絶っていたのに。
龍之介は胸の内に湧き上がる感情に気付き、無理やり抑えつけた。
「リュウ、着替えはコレな! 下着と寝間着オレのだけどいいよな」
「うん」
「おまえ風呂長くね?」
「そうか? ……って、十五分しか経ってねーじゃん」
「その十五分が何時間にも感じてだな、何度風呂場に突撃しようと思ったことか……!」
「うわ、マジかよ」
ヤバいな、と言いながら二人は笑い合った。
「陽色は?」
「よく寝てる」
「そっか、良かった」
借りた寝間着に着替え、髪を乾かしてから、龍之介はベビーベッドを覗き込んだ。ズレた掛け布団を直してやる。
あれから陽色はずっと眠っている。それなのに、いつ起きるか分からないからという理由で、謙太はずっとビクビクしていた。
「いつもは寧花がいるからさ、陽色がいて落ち着かないなんてことなかったんだけど」
「あー、そりゃ親の責任感みたいなのが芽生えてきてるんだよ。なんかあったら自分が動かなきゃって思うから緊張するんだ」
逆に言えば、今の今までそんな気持ちになったことがなかったという証拠でもある。
「それよりさあ……」
先に風呂を済ませて寝間着姿になっている謙太を見る。襟付き前開きの上下という同じデザイン、色違いのパジャマである。
「ペアルックじゃねーか」
「洗い替えだからな」
「ま、今日だけだからいいけどさ」
「えっ……」
今日だけ、と聞いて謙太の顔色が変わった。
「リュウぅ!!」
「ぎゃああ!!」
突然しがみつかれ、龍之介は慌ててその腕を振り解いた。しかし謙太は諦めず、両手を構えてジリジリと距離を詰めてくる。
「絶っっっ対に帰さんからな……!」
「分かった、分かったから」
「ヨッシャ言質取った! オレが良いって言うまで帰るなよ?」
「なんでそんなに偉そうなんだよ……」
なんだかんだで謙太から頼まれると弱い。
この問題が解決するまでのあいだ、龍之介はこのマンションに泊まり込むことを無理やり約束させられた。
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