37 / 86
追加エピソード
第3話:仮病
しおりを挟む
*同居開始~本編最終話ラストに至るまでの話*
謙太の不在に少なからず影響を受けている自分に驚きつつも、龍之介は何とか気持ちを立て直した。
いずれ心の傷が癒えたら出て行く、そんな相手に依存しても後が辛いだけ。その為には一人の暮らしに慣れておかなくてはならない。
明日の夜には帰ってくる。
それまでは、独り。
出張中の謙太からは数時間おきにメールが届く。
『雪積もってる』とか『寒い!』とか、そんな短いひと言だけ。わざわざ伝えてくるのが嬉しくて、でも素直に言うのは憚られてつい素っ気無い返事を送ってしまう。
「仕事中になにしてんだか……」
『明日の夜には帰る』
このメールが届いた時、龍之介は無意識のうちに笑顔になった。何度か文章を打ったあと、それを全て消してから『土産忘れるなよ』とだけ返信した。
「おや、纏さん。なんだか元気ないですね」
「え? ……あー、風邪気味、かも」
「まだ冷えますからねえ」
取引先との打ち合わせから戻った時、マンションのエントランスで掃除をしていた管理人から声を掛けられた。おっとりした初老の紳士である。これまでは顔を合わせても軽く会釈をする程度だったが、先日同居人申請の手続きをしに行って以来少し話すようになった。
「雨戸さんは?」
「あいつは昨日から出張で」
「ははあ、なるほど。だから今朝は見掛けなかったんですねえ」
朝のゴミ出し担当は基本謙太の仕事だ。管理人室の前を通る度に必ず声を掛けていくらしい。元々の住人である龍之介より気に入られている。
管理人と別れて部屋に戻る。
風邪気味というのは嘘だ。謙太がいなくて気落ちしているなどと他人に言えるはずがない。いっそ本当に熱でも出てくれたら何も考えずに眠れるのに、と、そこまで思ってから龍之介は我に返った。
──なんでここまで落ち込む必要がある?
無性に腹が立ってきて、龍之介は舌打ちした。もちろん、一時的な同居人に過ぎない謙太に振り回されている自分に対してだ。
眞耶から別れを告げられた時に一生独りで生きていくと決めたはずだ。
それなのに、数年も経たないうちに限界がきた。己の心の弱さに呆れ、龍之介は深い溜め息をついた。
謙太の不在に少なからず影響を受けている自分に驚きつつも、龍之介は何とか気持ちを立て直した。
いずれ心の傷が癒えたら出て行く、そんな相手に依存しても後が辛いだけ。その為には一人の暮らしに慣れておかなくてはならない。
明日の夜には帰ってくる。
それまでは、独り。
出張中の謙太からは数時間おきにメールが届く。
『雪積もってる』とか『寒い!』とか、そんな短いひと言だけ。わざわざ伝えてくるのが嬉しくて、でも素直に言うのは憚られてつい素っ気無い返事を送ってしまう。
「仕事中になにしてんだか……」
『明日の夜には帰る』
このメールが届いた時、龍之介は無意識のうちに笑顔になった。何度か文章を打ったあと、それを全て消してから『土産忘れるなよ』とだけ返信した。
「おや、纏さん。なんだか元気ないですね」
「え? ……あー、風邪気味、かも」
「まだ冷えますからねえ」
取引先との打ち合わせから戻った時、マンションのエントランスで掃除をしていた管理人から声を掛けられた。おっとりした初老の紳士である。これまでは顔を合わせても軽く会釈をする程度だったが、先日同居人申請の手続きをしに行って以来少し話すようになった。
「雨戸さんは?」
「あいつは昨日から出張で」
「ははあ、なるほど。だから今朝は見掛けなかったんですねえ」
朝のゴミ出し担当は基本謙太の仕事だ。管理人室の前を通る度に必ず声を掛けていくらしい。元々の住人である龍之介より気に入られている。
管理人と別れて部屋に戻る。
風邪気味というのは嘘だ。謙太がいなくて気落ちしているなどと他人に言えるはずがない。いっそ本当に熱でも出てくれたら何も考えずに眠れるのに、と、そこまで思ってから龍之介は我に返った。
──なんでここまで落ち込む必要がある?
無性に腹が立ってきて、龍之介は舌打ちした。もちろん、一時的な同居人に過ぎない謙太に振り回されている自分に対してだ。
眞耶から別れを告げられた時に一生独りで生きていくと決めたはずだ。
それなのに、数年も経たないうちに限界がきた。己の心の弱さに呆れ、龍之介は深い溜め息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
