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17話・忠実な従者 ─リオン視点─
しおりを挟む『でしたら、もう私のことは捨て置いてくださいませ。あなた様以外の、婿入りしてくださる殿方と結婚しますから!』
別邸内の私室に戻り、ソファーに腰を下ろして頭を抱えた。
先ほどフラウ嬢の元に顔を出した際に言われた言葉が耳に残り、その内容に唇を噛む。
例え嘘でも『俺以外の誰か』と結婚するとか言わないでほしい。心臓に悪い。泣きそうになるのを堪えるために変な力を入れ過ぎて顔面が強張っている。
監禁開始から数日はぎこちないながらも笑顔を見せていた。突然の環境の変化に戸惑ってはいたが、それでも俺に対して好意的な態度を向けてくれていた。
監禁から約一週間。今日の彼女の様子はおかしかった。いつもの落ち着いた雰囲気は鳴りをひそめ、情緒不安定に陥っていた。
監禁からの解放を望むこと、兄上が出奔したせいで婚約続行に不安を抱いていることは理解できる。だが、他の誰かを婿入りさせるという発言だけはどうしても認められない。互いに想い合っているのだから、俺たちが離れるという選択肢は有り得ない。
フラウ嬢はハッキリ断言しない俺に憤っているのだろう。家同士の事情もある。安心させるためだけに守れない約束をするわけにはいかない。彼女に嘘をつきたくはないのだ。
それはそれとして。
「涙を流す姿も可憐だった……」
ほう、と感嘆の息を漏らしながら先ほどの彼女の様子を思い返す。
普段は遠慮がちに視線をそらして控えめな笑みを浮かべるだけのフラウ嬢が、何かを訴える時だけは真っ直ぐ俺を見てくれる。特に今日は感情がかなり揺らいでいた。あんな彼女は初めて見た。
「……いや、初めてではないか」
遠い記憶にあるのは、大粒の涙を流す彼女の姿。静かに見守る大人たちの中で、たった一人取り乱して泣くフラウ嬢の姿に俺の心は奪われたのだ。
しばらくして、部屋の扉がノックされた。
「坊っちゃん、僕です」
「ああ。入れ」
入室の許可を与えると、従者のダウロが扉を開けて中に入ってきた。俺が座るソファーの横に立ち、そのまま話し始める。
「報告です。『例の令嬢』の行動、裏が取れました。あと数日で証言と証拠が出揃うと思います」
「そうか」
「あの件が随分と堪えたんでしょう。なり振り構っていられなくなったようです」
「分かった。引き続き調査を頼む」
「はっ」
ひと通り報告を終えると、ダウロは俺の向かいのソファーにどかっと腰を下ろした。足を組み、背もたれに上体を預けて脱力している。
「あー疲れた。もう動きたくない」
「おいダウロ。行儀が悪いぞ」
「いいでしょ別に。今日の仕事はさっきの報告で終わりなんですから」
窘めると、ダウロがニッと口角を上げた。こいつは俺の部下であると同時に気の置けない友人でもある。勤務時間以外で二人きりの時は言葉遣いも態度もこんなものだ。
「そんで、坊っちゃんはフラウ様と少しは仲良くなれたんですか?」
「泣かれた」
「うわ、女の子泣かすとか最悪ですね」
「やかましい」
責められてムッとする俺を見て、ダウロは呆れたように肩をすくめた。
「ま、監禁した時点で最悪ですもんね」
確かに、あまり褒められた手段ではないと自覚はしている。無理やり閉じ込めるのではなく、彼女が自ら別邸に留まるように話をつけるべきだった。口下手な俺は言葉より先に身体が動いてしまい、このような事態になってしまったが。
兄上ならば難なく相手を言いくるめて思い通りに動かせるだろうが、俺には無理だ。彼女に嘘はつきたくないし、心にもないことは言いたくない。
「そういや証言してくれない人物がいたんですが、思わぬところで関係者と繋がり持てたんで何とかなりました」
仕事は終わりと自分で言っておきながら、ダウロはまだ任せた調査のことを考えてくれているようだった。
「早く解決しないと、最悪『例の令嬢』と……」
「そうなれば、俺は国を捨てる」
「侯爵家どーするんですか」
「知らん」
「家臣の前でよく言えますね」
咎めながら、ダウロは機嫌良さそうに笑った。
俺がどこに行こうと何をしようと追いかけるつもりなのだろう。俺もダウロが着いてくると分かっているから軽口が言えるのだ。
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