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24話・本音と本音
しおりを挟む「お、俺は……」
私の話を聞きながら、リオン様の顔色が徐々に悪くなっていきました。膝の上に置かれた拳は小刻みに震え、表情からは何を考えているのか読み取れませんが、困惑しているようです。少し言い過ぎてしまったかもしれません。
「失礼なことばかり申し上げましたが、これが私の本心です」
「……そうか」
消え入りそうな返事に、小さく息をつきます。
基本的に、リオン様とは会話が成り立ちません。いつも私が一方的に話し掛けるだけ。リオン様の口数が多い時は何故か話が噛み合わず、意思の疎通ができた試しがないのです。きっと私の努力が足りなかったのでしょう。
「──す、すまない」
しばらくの沈黙の後、リオン様が謝罪の言葉を口にしました。
「俺は思い違いをしていた。あの時間を君がどう受け取っていたか全く気付かず……」
顔色はまだ悪く、辛そうに眉を寄せております。何度か口を開いては閉じを繰り返し、何を言うべきか迷っているようでした。
「は、恥ずかしながら、君も俺と同じ気持ちなのだと思い上がっていた」
そういえば、監禁初日にも似たようなことを言われましたね。
リオン様の視線は下に向けられ、私からは逸らされております。いつもなら、相槌しか返さないけれど、真っ直ぐ私を見てくださるのに。
「リオン様は私をどう思っているのですか」
普段の無表情からは程遠い、弱りきった表情をしておられます。私の問いに答えたくとも答えられない、みたいな。
しかし、リオン様は全てを明かすと決めたようです。
「フラウ嬢が愛しくてたまらない。結婚したい相手は君だけだ」
おっと……。
まさかの告白に言葉を失いました。
あれだけムスッとした態度をしておきながら私に好意を抱いていた、ですって?
「正直貴族学院の卒業を待たずにこのまま結婚して一緒に住みたいし、朝も夜も同じ部屋で過ごしたい」
「ちょっ、リオン様」
「同じものを食べ、同じものを見て、同じ時間を可能な限り共有したい」
「まあ」
「子どもは授かれば授かるだけ欲しい。君の愛を独り占め出来なくなるのは悲しいが、血を残すのも貴族の務めだからな。死後は同じ墓に入り、天国でも夫婦として仲睦まじく過ごしたい」
「……、……うん?」
思わぬ告白にドキッとしてしまいましたが、途中から引いております。口を開いたと思ったら怒涛の重過ぎる愛の言葉。しかも既に死後のことまで考えてらっしゃる。
私たち、結婚どころか婚約を解消するかしないかで揉めている真っ最中なのですけど。
ちょっとお待ちになって。リオン様は『君も俺と同じ気持ちなのだと』考えていたのよね。つまり、同じくらいの熱量で私から好かれていると思い込んでいたのですか。
何の根拠があってそんな勘違いを?
「あなた様の気持ち、今の今まで全く知りませんでした。むしろ嫌われているとばかり」
「それは絶対ない!」
「はぁ」
この際なので、詳しく聞いてみました。
ムスッとしていたのはニヤつく顔を無理やり抑え込んでいただけ。
最低限の相槌しか返さなかったのは私の話というか声を聞いていたかったから。
いつも笑顔で話をする私を見て、好意を寄せていると信じきっていたようです。
なんだか気が抜けてしまいました。これまで悩んできたことは一体なんだったのでしょう。最初からリオン様の気持ちを知っていれば悩むこともありませんでしたのに。
いえ、私も不満を抱えながら黙っていたのです。婿入りしてくださる婚約者に嫌われぬよう、笑顔の裏に本心を隠して。
私たちはお互い肝心な気持ちを伝えぬまま、無為に時間だけを消費していたのね。
「君の気持ちを勘違いした上に抱き締めたり口付けしたり、大変申し訳なかった」
リオン様は深々と頭を下げ、謝罪の意を示しております。あの時のことを心から反省しているようです。彼からすれば完全に同意の上で行為に及んだつもりだったのですから、過ぎたことを責めても仕方ありません。
「責任を取って生涯大事にするから結婚してくれ」
……本当に反省しているのかしら。
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