【完結】我が国はもうダメかもしれない。

みやこ嬢

文字の大きさ
6 / 30

第6話 視える子!?霊感少女ティルナ

しおりを挟む

 アストとサヴェルが隠し部屋から去った後、隠し通路を探検した。どうせ王宮内を移動するなら廊下を通ろうが隠し通路を使おうが同じことだ。決して遊んでいるわけではない。

 しばらく進むと通路が行き止まりになっていたため、仕方なく壁を擦り抜けて表に出た。どうやら行き過ぎたようで、行政区ではなく使用人の仕事場に出てしまった。掃除や洗濯に従事する者たちが忙しなく行き交っている。

『こんなにたくさんの者が裏で働いているのだな』

 王宮の廊下や部屋、庭園が綺麗に保たれているのは毎日毎日維持管理してくれている使用人たちのおかげなのだ。間違えて来てしまったとはいえ、生きている時には入らせてもらえなかった場所だ。しっかりと皆の働きぶりを見ておかなくては。

 厨房や洗濯部屋、裁縫部屋を見て回るうちに裏庭へと出た。綺麗に整えられた中庭とは違い、物干し場や薪置き場、物置小屋などがあるだけの場所である。使用人の姿はほとんど見当たらない。

 だが、視界の端に人影が見えた。物置小屋と生垣のわずかな隙間だ。そんなところでする作業などあるのだろうか。興味がわいた私は空中を漂いながら人影へと近付いた。

『むっ』

 そこにいたのは若い女性使用人だった。物置小屋の壁に背を預け、地面に座り込んでいる。体調が悪いのか、顔色はあまり良くない。思わず『大丈夫か』と声を掛けてしまった。返事などあるはずがないというのに。

「あ、大丈夫です。少し休んだら戻りますんで」
『そうか。なら良かった』

 どうやら疲れて休憩していただけらしい。もうすぐ夕刻。朝から働いていれば疲れが出る頃だ。体調不良ではないと聞き、安堵の息をつく。

 ……おや、普通に返事がきたぞ?

 一瞬遅れて私が疑問に思った時、彼女もまた異常に気付いた。反射的に顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回す。そして、宙に浮かんでいる私を視界に捉えて動きを止めた。

「あれ、なんか王様みたいな服着た人がいる」
『王様だからな』
「ははは、まさかぁ笑」

 私を見上げた彼女は乾いた笑いをこぼした。

『君は私が見えているのか!』
「え。だってそこにいますよね」

 真っ直ぐ目を見て言われた言葉に目頭が熱くなる。やはり彼女には私の姿が見えているし、しっかり声も聞こえている。魂だけの存在となってから会話が成り立ったのは女神と彼女だけ。そばにいるのに誰からも認知されず、たった半日で心が折れそうになっていた私は嬉しくてたまらなくなった。

「幽霊がウロウロしてちゃダメですよ。神殿に行かないと悪いものになっちゃいます。早く女神様の元に導いてもらわないと」
『わ、私はまだ死んだわけではない。たぶん』
「そんなことあるんですか?」
『あるのだ。私に限っては、だが』
「ふふっ、なにそれ。おかしい」

 私の死はまだ一般に公表されておらず、故に同じ王宮にいても末端の使用人まで情報は行き届いていない。彼女もまさか自分の目の前にいる幽霊が国王だとは夢にも思っていないようだった。

「そろそろ仕事に戻らなきゃ。じゃあ失礼します」

 少し雑談をした後、彼女は私を置いてどこかへ行こうとした。ようやく会話できる相手を見つけたのだ。逃すわけにはいかない。

『待て、君に頼みたいことがある』
「はいはい。また今度聞きます」
『私はいま話を聞いてほしいのだ』

 食い下がる私を気にも留めず、彼女は物干し場に吊るされている衣服を取り込んでいく。いっぱいになったカゴをかかえ、勝手口から洗濯部屋へと入っていった。すると、女性使用人が数人集まってきて、共に洗濯物をたたみながらワイワイと話し始める。

「ティルナ、あんたどこに行ってたの!」
「どうせまたなまけてたんでしょ」
「すみません」

 彼女……ティルナは申し訳なさそうにうつむいて謝っている。隠れて休んでいたのは事実だが、仕事が嫌で怠けていたわけではない。

『体調不良だと説明すればいいだろう』
「……」

 私の声は聞こえているはずだが、ティルナは返事をしなかった。当たり前だ。二人きりの時ならともかく、人前で見えざる存在と話をすれば同僚から奇異の目で見られてしまう。

 この場で声を掛けることを諦め、彼女の仕事が終わるまで洗濯部屋の片隅で待った。





「すみません、お待たせしました」
『いや、勝手に待っていただけだ』

 仕事を終えたティルナは、宿舎へと帰る同僚たちを見送ってから私のほうに振り返った。

「さっきも言いましたけど、早めに神殿に行ったほうがいいですよ。大司教様に祈ってもらって女神様の元に送っていただかないと、ずうっとこの世を彷徨うことになっちゃいますから」
『気遣い感謝する』

 その女神に神殿から送り出されて今ここにいるわけだが、どう説明したらいいか分からない。とりあえず半笑いで誤魔化しておく。

『君は実体のない存在……幽霊が見えるようだが、私は生きている時はもちろん今も見たことがない。幽霊同士は互いに姿を見ることができないのだろうか』
「そんなことはないと思います。でも、確かにあなたの周りに他の幽霊はいませんね。いつもはもっといるのに不思議です」

 ティルナには死者の魂、つまり幽霊を見る能力があり、体調を崩しがちな理由も恐らくそのせいだ。本来見えないはずのものが見えてしまうから疲れるのだろう。こうして私と話をするだけでも彼女に負担をいているのかもしれない。

 だが、私には彼女以外に頼れる者がいない。

『すまないが、王妃か宰相に伝言を頼みたい』
「どちらもお目に掛かったことすらないですよ!」
『む。ならば、女官長はどうだ』
「私とは階級も仕事内容も勤務場所も違います」
『ふむ、困った』

 アリーラやディアトの警護を強化してほしいが伝える術がない。とはいえ、無関係な彼女を困らせるわけにもいかない。他に良い策はないかと考えていると、ティルナが控えめに挙手した。

「あの、女官長直属の女官に幼馴染がいるので、その子に話してみるくらいならできますけど」
『それだ! すぐに頼む!』

 ティルナの提案に、私はすぐさま飛びついた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※たまにSSあげます。気分転換にお読みください。 しおりは本編のほうに挟んでおいたほうが続きが読みやすいです。 ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※のんびり更新していきます。ぜひお読みください。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...