【完結】我が国はもうダメかもしれない。

みやこ嬢

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第24話 駐在大使ウィリアム

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 大貴族であるオラードとダビエドに尋ねても我が国滅亡の鍵となる情報は得られなかった。喜ばしい報告のはずなのだが、今回ばかりは何とも複雑な心境である。

 女神が答えを教えてくれない理由は、私が自分で問題に気付かねば意味がないからなのだろう。

 治水でも経済的な問題でもないとすると、あと思い付くのは外交問題か?

『アステラ王国の大使を呼んでくれ』
「そう言われると思って既に使者を出している」
『さすがローガン、話が早い』

 戦争後に残党を片付けて以降、我が国にはアステラ王国の大使が駐在している。両国間の架け橋のような存在で、国交が早く回復したのは大使のおかげといっても過言ではない。

「ジークヴァルト陛下を殺害した犯人は見つかったのか? まだ? では俺が見つけだしてやろう。なぁに、怪しい奴の領地を一斉に囲んで攻め込めば良い」
「ティルスタン卿、やめろ」
「我が王の亡き骸は何処いずこに? アステラ王国に伝わる昔話で『真実の愛を以て接吻すると蘇る』という話がございます。私が試して参りますので」
「迷信を信じるな、ガルデンディ卿!」

 大使が着くまでの間、ローガンは二大貴族の暴走を止めるだけで大変そうだった。ディーロとフレッドも、二人を応接の間から出さぬよう出入り口を塞いでいる。

「……この方々かたがたもかぁ」
「……ホントだねぇ」

 エルマとティルナに至っては目が死んだ魚のようである。本来ならば、若き大貴族など若い女性にとって憧れの的になるのではないかと思うのだが、そういった浮ついた空気は感じられない。仕事中だから当然といえば当然なのだが、何故だろう。妙に引っ掛かる。

「宰相閣下、駐在大使のバスカルク様がお越しになりました」
「通してくれ」

 半刻も経たぬうちに大使が応接の間に姿を現した。ウィリアム・バスカルクは紫色の髪を後ろに撫でつけた、私より幾つか年上の落ち着いた男である。彼はオラードとダビエドを見るなり肩をすくめた。

「おや。私が一番遅かったようだね」
「彼らが異常に早く着いただけだ。急に呼び付けて申し訳なかった、大使殿」
「構わないよ宰相殿。それで、ジークヴァルト様は?」

 室内に入り、キョロキョロと周りを気にする大使。応接の間は広く、入り口付近からは奥にいる私の姿が見えない。ティルナが羽織っている布に描かれた怪しい模様を視認できる位置まで近付いた途端、禁呪の効果範囲に入って私が視認できるようになる。

『久しいな、ウィリアム殿』
「ジークヴァルト様!」

 やや透けた状態で宙に浮く私を見つけた大使が驚きで目を丸くした。茫然とした表情のまま手を伸ばしてきたので、重ねるように手を差し出す。当然触れることはできず、大使は眉を下げた。

「使者から軽く事情を聞きましたが、この目で見るまでは『何を馬鹿なことを』と思っていたんですよ。いやあ、信じざるを得ませんね」

 そうだろうとも。私も原理はよく分からん。

『大使、すまん。少しでも情報が欲しくて呼んだのだ』
「ロトム王国を中心とした国際情勢ですね? 私の把握している情報を提供いたしますよ」

 やはり出来る男は話が早くて助かる。

 応接の間の中心にある大きなテーブルに地図を広げ、みなで囲む。どこから取り出したのか、大使は指し棒を用いて説明を始めた。

「まず、皆さまご存知の通り我がアステラ王国は七年前にジークヴァルト様が即位されたと同時にロトム王国と友好条約を結びました。当時は反発する者もおりましたが、ジークヴァルト様のお人柄と戦後復興に対する姿勢を見て、現在はほとんどの国民がロトム王国に対して良い感情を抱いております」

 戦争を引き起こした張本人である先代国王を斃し、当時の王家と戦争推進派の貴族所有の土地以外の財産を全て賠償に充てたこともアステラ王国側から評価されているらしい。

「両国間の関係性は非常に良いですよ。今では国境警備の人員もかなり減っておりますしね」

 彼は数年前まで国境警備隊の責任者をしていたが、現在は国境警備の縮小に伴い後進に任せている。自身は直属の部下数名を護衛として引き連れ、我が国に駐在する大使となった。

「一番厄介だったユスタフ帝国も現在は国交を閉じておりますし、ユスタフ帝国によって滅ぼされたカサンドール王国の領地もひっそりとしたものです。ロトム王国と国境を接している国は以上です」

『では、再び戦争が起こる可能性は』
「限りなく低いかと」

 大使の報告に、思わず安堵の息がもれる。

「我が王が戦争を忌み嫌っておられることは存じております。好戦的な貴族は取引から締め出すなどして力を削ぎ落とさせていただきました」
『流石の手腕だな、ダビエド』
「お褒めいただき誠に嬉しゅうございます」

 ダビエドが所有している鉱山はアステラ王国にとっても非常に重要な資源であった。しかし、国境付近にある領地ごとロトム王国側に移籍している。市場を支配していたからそのような暴挙が許されたようなものだ。得意技は買収と経済制裁。敵と見做した相手には容赦がない。

 そんなダビエドはもちろん大使とも面識がある。

「ガルデンディ卿は相変わらずですな」
「パスメナス卿も平和に関しては人一倍貪欲ですよね。これからも我が王のために尽力してくださいませ」

 言いながら、何やら小さな袋を大使の上衣の合わせにねじ込むダビエド。恐らく袋の中身は宝石だろう。大使が即座に突き返している。

「賄賂は必要ないと毎回言っているでしょうが!」
「賄賂も無しに他人が私の言うことを聞いてくれるわけないじゃないですか! 受け取っていただけないと安心できないんですよ!」

 ちょっとダビエドが心配になってきたな。いや、最初からかなり心配ではあったのだが。

「おはようございます陛下。わたくしが来ましたよ!」
「……ええと、僕がここに来る意味ありましたかね?」

 そこへクレイとセオルドがディーロとフレッドに連行されてきた。一気に室内の人口密度が高くなる。知恵を借りるため、関係者に集まってもらっているのだ。

「心配しなくても、両国が平和であるよう務めますから!」

 大使の言葉に、応接の間がしんと静まり返った。

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