【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

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第88話 初めての夜 1 *

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「叔母上、最近忙しそうですね」
「ええ。とても大事な頼まれごとを引き受けて、先日ようやく終えたところですのよ」

 とある休日、ドロテアの家に遊びにきたラドガンは作業部屋の机いっぱいに広げられた紙束を見て目を丸くした。

「魔導具修繕のお仕事ですか?」
「今回は違いますわ。でも、装飾の提案や職人さんへの仲介を致しましたの。昨日ようやく仕上がったとご報告いただきました」

 紙束は装身具全般の目録や彫金などの資料で、中にはドロテアが描いた意匠案が何点か混ざっている。現在進行形ではなく既に終わった仕事の資料ならば片付けても構わないだろう、とラドガンは整理を始めた。時期やドロテアの様子から、依頼主が誰なのか察しはついている。

「ふふ、なるほど。だから今日は私が叔母上の家に寄越されたというわけですね」

 訳知り顔でラドガンが呟くと、パタパタと軽い足音が近付いてきた。

「ドロテア様、ラドガン、お茶の支度が出来たよ~」

 扉を開けたのは普段着に前掛けをつけたヴェントだ。彼の手には皿に盛られた菓子がある。焼き立ての香りにつられ、二人は客間へと移った。

「おや。なかなか良い出来ですね、ヴェント」
「リアンさんほどじゃないけど、味は保証するよ」
「ありがとうございます。早速いただきましょう!」

 三人でテーブルを囲み、熱い紅茶と焼き菓子で休息をとる。あたたかい菓子をひと口食べてから、ドロテアが困ったように笑った。

「本当に助かりますわ。わたくし、リアンさんから火を使うなと厳しく言われておりますの。こうして家で温かいものを口に出来るなんて何日ぶりかしら!」

 普段ひとりの時は外食ばかりで一切自炊をしないため、ドロテアは極度の料理音痴である。料理をするしない以前に、かまどに火を入れる段階で小火ボヤを起こしているのだが。再三に渡り厨房出禁を喰らったドロテアは、リアンが来ない日もきちんと言いつけを守っていた。

「今週はリアンさん来れないからねぇ」
「代わりに様子を見てくるようにとお願いされまして」
「わたくし、これでも一人暮らし歴長いんですのよ!」

 手の行き届かない家事はアルカンシェル公爵家から寄越された通いの使用人が片付けているので厳密に言えば一人で暮らせているわけではない。叔母を慕っているラドガンはその辺りを指摘せず、笑って返事を濁した。





 騎士団の仕事を終えたサイラスとリアンはまず衛星都市アルタンにあるレイディエーレ侯爵家の屋敷に向かい、ロザリアの余剰魔力を抜く処置を行なった。その後夕食の誘いを断り、すぐに王都の家へと帰る。

 明日と明後日は休み。用事は全て先に済ませてある。ドロテアの家にはラドガンとヴェントに様子を見に行くように頼み、孤児院に遊びにいけない代わりに詫びの菓子を送る手配をしておいた。二人の時間を邪魔されないようにするためである。

「今週は特に長く感じたな」
「僕もだよ。すっごく待ち遠しかった」

 食事をとる時間を惜しんだ結果、移動途中で見つけた屋台で買い食いをして済ませている。明日の朝食用のパンも購入し、備えは万端と言えた。

 玄関に入るなり、サイラスはリアンの体を掻き抱いた。唇を重ね、貪るような口付けを交わす。少しも抵抗することなく、リアンも背に腕を回して抱き締めた。サイラスの指先が服の合わせから中に入り込んだ辺りで流石に止める。

「まだお風呂に入ってないよ」
「鍛錬後に汗は流した。リィもだろ?」
「う、うん」

 騎士団の施設には浴室がある。今日も昼間に走り込みをした後に隊の皆と利用していた。改めて風呂に入り直す必要はない。

「ずっと我慢してたんだ。もういいか?」

 欲望を孕んだ赤い瞳に見つめられ、リアンの胸がぎゅうと締め付けられた。大好きな恋人から求められ、胸だけでなく頭の中までぼうっとなるほど嬉しくなる。

「僕も、サイに触るの我慢してた」
「リィ」

 アリエラに認められた夜から数日間、翌日に仕事があるからと接触を避けていた。一度触れたら止まらなくなると自覚している。次の休みを指折り待ち侘び、その間は触れぬようにと気を付けていた。理性のたがが外れぬように細心の注意を払い、素知らぬ顔で任務をこなしていた。

 リアンが手を下へと伸ばすと、指先が硬いものに触れた。布越しでもはっきりと分かるほど大きくなっているその先端をするりと撫でてやりながら、リアンが上目遣いにサイラスを見つめる。

「ね、サイ。寝室いこ」
「ああ」

 もつれ合うように廊下を進み、寝室へとなだれ込む。とっくに日は落ち、家の中はほぼ真っ暗の状態だったが、サイラスが炎魔法で備え付けのランプに火を灯した。あたたかみのある炎の明かりが寝室内をほんのりと照らす。

 出勤前に綺麗に整えておいた敷布の上にリアンを座らせ、サイラスは上着を脱ぎにかかった。留め具を外す手間すらもどかしく、幾つか残した状態で頭から引き抜いた。リアンも自分で衣服を脱ぎ、寝台の横にある椅子に一枚ずつ掛けていく。肌着だけになった辺りで、サイラスがリアンを寝台の上に押し倒した。互いに頬は紅潮し、呼吸も荒くなっている。不規則に漏れる呼気を逃さぬように唇を重ね、肌を合わせた。

「好きだ、リィ」
「僕も、大好き」

 僅かに唇が離れた間に愛を囁きながら、サイラスはリアンの背に回していた手を下の方へと伸ばした。背筋を伝い、腰から下の丸みを帯びた部分を撫でるとリアンが「ひゃっ」と小さな声を上げた。下着の隙間から直接触れられて驚いたのだ。

「触れてもいいか?」
「ばか。聞かないでよ」

 リアンの両腕はサイラスの首に回され、抵抗する気はないと態度と姿勢で示している。それでも聞かずにはいられない理由は、リアンを大事にしたいからだ。互いに初めてで、何をするかは頭で理解していても実践経験はない。ただ本能で求め合い、手探り状態で抱き合っている。

 はやり過ぎだと自覚しているサイラスは、とりあえず落ち着かねばと考えた。とはいえ、最愛の恋人がしどけない姿で縋り付いている状況で冷静になどなれるはずもない。一旦精を吐き出せば多少は興奮も冷めるかもしれないと思い立ち、サイラスは自分とリアンの下着をずり下げた。既にち上がっていた互いのものを手のひらに握り込む。

「ちょ、サイ! なにすんの」
「いっぺん出しておこう」
「あ、やだ、待って」

 大きな手のひらの中で擦り合わせるように握られ、リアンは更にサイラスの首に縋り付いた。期待でこぼれていた先走りが快感を増長させている。ランプの明かりに照らされた薄暗い寝室内に粘り気のある水音と荒い呼吸と喘ぎ声が響き、かえって気持ちがたかぶっていった。

「あっ、や、サイ……っ」

 呆気ないくらい早く昇り詰め、ほぼ同時に果てる。サイラスの大きな手のひらは二人分の精で濡れていた。


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