【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢

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本編

36話:アランのお悩み相談室 1 *

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*三十代後半男性(既婚妻子あり)同士の話です*



 休日のヴィクランド侯爵邸。
 その屋敷の奥にある書斎で二人の男が歓談していた。

 一人掛けのソファーにどっかり腰を下ろしているのは、この屋敷の主人であるアラン・ヴィクランドである。今日は休日のため、いつもはキッチリ整えている髪もゆるく後ろに流すのみ。服装も比較的楽なものを身に付けているが、それでも様になっている。

 テーブルを挟んだ向かいのソファーに浅く腰掛けている茶髪の男性はヴィンセント・ラクトゥス。ヴィレオの父親で、アランの古くからの友人である。目が悪いのか、ぶ厚いレンズの眼鏡を掛けている。細身で、肌は日に焼けていない。
 彼は王宮の筆頭文官という高い地位にいながら、いつも自信なさげな振る舞いをする。故に他者から下に見られたり軽んじられることも少なくない。


「済まないアラン。わざわざ時間を作ってもらって」

「気にするな我が友よ。おまえのためなら王族との晩餐会でもキャンセルして駆け付けるぞ」

「はは、例えがマズいぞ」

「それくらいおまえを優先しているということだ。ヴィンセント」


 これくらい言わないとヴィンセントには伝わらない。だからアランはいつも大袈裟過ぎるほどの表現を使って語りかけている。だが、実際そういう事態になっても彼は親友を優先するだろう。


「で、相談というのは?」

「ああ。……、……いや、やっぱり、こんなことを君に話すなんて……」

「こらこらこら、ここまできて遠慮するな。私とおまえの仲じゃないか」

「そ、そうだな。済まない。せっかく時間を作ってくれたのだからな」


 見た目通りの気弱さで、ヴィンセントは話すのを躊躇ためらった。謙虚は彼の美徳ではあるが、流石に度が過ぎている。このままでは何も話さないと、アランは長年の付き合いで学んでいる。
 彼が相談を持ちかけてくるなど滅多にないことだ。それくらい重要な案件ならば、親友の自分こそが聞いてやらなくては。アランは使命感に駆られた。


「だから、そういうのが水臭いと言うのだ! 何でも話せ。聞いてやるから!」


 そこまで言われて、ヴィンセントはようやく重い口を開いた。


「……最近、妻とうまくいってなくて」


 まさかの夫婦仲についての悩み事だった。
 これにはアランも目を丸くしたが、相手は生真面目なヴィンセントである。彼は真剣に悩み、藁にも縋る思いでアランを頼ってきたのだ。笑い飛ばすような真似はできない。


「奥方に浮気をされているとか?」

「いや、カルラは箱入り娘で潔癖だから、そういった心配は一切ない」

「うん? では、喧嘩でもしたか」

「……いや。会話は少ないが、喧嘩をしているわけではない。だが、その……あー……」


 ここまで言って、ヴィンセントはまた言い淀んだ。この先が悩みの核心なのだろう。アランは茶化すことなく続きを促す。




「…………もう何年も『夜』がなくて」




 時間を掛け、ようやく聞き出したのはラクトゥス夫妻のセックスレス問題であった。

 それくらいでと思われそうだが、ヴィンセントは三十代後半の健康な男性であり、当然性欲もある。だが、生来の生真面目さもあって妻以外の女性と関係を持つなど言語道断。後腐れない娼婦でさえ金で女性を買うことに抵抗を持っている。妻と出来ないということは、発散の機会がないということだ。


「──なるほど。それは由々しき問題だ」

「分かってくれるか、アラン!」

「ああ。よく話してくれた。これは最優先で対処せねばならん大問題だ」


 アランからすれば、何年も女が抱けないというのは地獄に堕ちるよりツラい仕打ちである。

 先程も聞いた通り、ヴィンセントの妻カルラはかなりの潔癖である。おそらく夫婦の営みを『跡継ぎを授かるための行為』としか考えていないのだろう。だから息子ヴィレオが生まれてから自然と営みの回数が減り、今日に至るというわけだ。
 加えて、夫のヴィンセントはこの性格である。自分から誘うなんて出来そうにない。

 アランは悩める友人のためにひと肌脱ぐことにした。


「よし、私が誘い方を伝授しよう」

「……よろしく頼む」


 ヴィンセントは頭を下げて教えを乞うた。








「……あれ? 待て。何故こうなる???」

「よろしく頼むと言ったのはおまえだぞ」

「いや、しかし……」


 ヴィンセントは身を捩り、自分に覆いかぶさる友人から逃げようとした。場所は書斎の隣にある仮眠室に移っている。ベッドとサイドボードしかない、狭く薄暗い部屋だ。


「何事も実践あるのみ! こっち方面の話なら私の右に出る者はいない。まあ騙されたと思って身を任せていろ」

「そ、そういうものか……」


 押しに弱いヴィンセントは、そのまま抵抗をやめた。


「まず相手を褒めろ。言葉を尽くして、自分がどれだけ想っているかを伝えるんだ」

「はあ」


 勢いでベッドに押し倒してしまったが、今回のケースは数年単位のセックスレスである。一旦身体を起こして仕切り直し、狭い室内で向かい合って立つ。

 アランはヴィンセントを真っ直ぐ見つめたまま、彼の頬を撫でた。くすぐったさに目を細めるが、ヴィンセントは教えを聞き漏らすまいとしてじっと耐えた。


「……ヴィンセント、君はとても魅力的だ。陽の光に透かすと輝く艶やかな髪、澄んだ瞳。その眼に映すのは私だけだと約束してほしい」


 眼鏡をそっと外され、超至近距離から口説かれる。歯の浮くようなセリフの羅列にゾクゾクしながらも、ヴィンセントは目を逸らせなくなった。
 逃げない彼に気を良くしつつ、アランは尚も言葉を重ね、徐々に身体を寄せていく。


「君を想うと夜も眠れない。私と哀れと思うならば、共寝をする許しを与えてはくれないか」

「……ッ」


 親友のため、アランは全力で手本を見せていた。
 普段数多の女性を籠絡している手管を惜しみもなく使っている。言葉選びはやや古臭いが、その表情や仕草は性的な魅力に満ちていた。
 さりげなく腰に回された手も、相手の警戒を解くために見せる柔らかな微笑みも、これが芝居なのだということを忘れてしまうくらい情熱的だった。

 こういった方面に疎いヴィンセントならひとたまりもない。自然と身体から力が抜け、アランの胸にもたれ掛かる。

 そのまま顎に手を掛け、アランはヴィンセントと唇を重ねた。抵抗する気力を失っていたヴィンセントだが、口内に舌が侵入した辺りで我にかえった。
 慌ててアランの胸を押し返し、身体を離す。


「ま、待て。もういい」

「まだ始まってもないんだが」

「何をする気だ、何を」


 眼鏡は奪われたが、至近距離にあるアランの顔には焦点が合っている。そのアランの唇がぬらりと光っているのを見て、ヴィンセントはカッと頬が熱くなるのを感じた。先程の口付けの際に互いの唾液で濡らしたのだと気付いたからだ。同時に、自分の口元を乱暴に袖で拭う。
 その手をそっと制し、アランは再び顔を寄せた。


「私との口付けはそんなに嫌だったか?」

「嫌、では」

「ならば、ほら、今度は目を閉じて」

「待っ……ンン、」


 今度はきちんと事前に申し出てから、アランは唇を重ねた。慣れないヴィンセントのために何度も何度も軽く触れるだけのキスを送り、彼の身体の緊張を解いてから深く口付ける。
 それだけでヴィンセントは立っていられなくなった。
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