26 / 98
田舎町の謎
第25話:移設候補地
しおりを挟む千景ちゃんの家で宿題をやること二時間。それぞれ得意分野で協力しながら、なんとか今日のぶんを終わらせることができた。
「はーっ、疲れた!」
畳の上に手足を投げ出して倒れる千景ちゃん。あたしも正座していた足を崩した。夢路ちゃんだけは姿勢を崩していない。足、痺れないのかなあ。
「ずっと家にいんのもつまんないし、気晴らしに散歩でもする?」
「行く!」
二つ返事で賛成して、三人で外に出る。
時間は午後三時。
天気も良いし、通り抜ける風が涼しくて気持ちいい。木陰の多い山沿いの道をぐるりと回ることにした。
しばらく進むと、道の先にある空き地に人だかりが出来ていた。
「あ、父さんだ」
その中に千景ちゃんのお父さんもいた。
スーツ姿のおじいさんと近所のおじさん達が難しい顔で辺りを見ながら話し込んでいる。あれは多分、玲司さんのおじいさんだ。祠の移設候補地を見て回っているんだろう。
どんな土地にも所有者がいる。
単なる売買ならともかく、祠を建てるとなるとまた話は変わってくる。一度置いたら簡単には移せないからだ。
「あそこに祠が出来るのかなあ」
「どうだろうね」
お仕事の邪魔にならないよう、その場をすぐに通り過ぎる。
更にしばらく歩いていくと、前方にフェンスが見えてきた。町外れの、件の祠が見つかった山。そして、この辺りで叶恵ちゃんが衰弱した状態で発見された。
「……この辺だったっけ。叶恵が倒れてたの」
「そ、そうらしいね」
千景ちゃんちと夢路ちゃんちの親も、うちの両親と一緒に捜索に協力したから知っている。
「……祠と関係あるのかしら」
現場を見ながら夢路ちゃんがボソッと呟いた。
それを聞いて、あたしはどきっとした。でも、叶恵ちゃんが見つかってすぐ、ここからそう離れていない山の中で壊れた祠が見つかった。そういう噂は学校でも流れている。
叶恵ちゃんは祠を壊したせいで祟られたんじゃないか。そんな風に言う人もいるのは確かだ。
実際は、歪んだ神様に願い事をして取り憑かれてしまっただけで、地面を割って祠を壊したのは螺圡我さんなんだよなあ。あらぬ疑いが叶恵ちゃんに掛けられてしまっているのは心苦しい。
「叶恵ちゃん、連休明けには学校来るかなあ」
「元気になってるといいね」
「そうね」
そのまま歩いて千景ちゃんちに戻り、おやつを食べて雑談してから解散となった。
家に帰ると、玄関にはまだ玲司さんの靴があった。あれからずっとお兄ちゃんの部屋にいるみたい。おじいさんの仕事が終わるまでいるのかも。
「あっ、夕月ちゃんおかえりー!」
「た、ただいま……」
「夕月ちゃんの部屋、二階? 俺も行きたい!」
「え」
「玲司ッ! 夕月にちょっかい出すな!!」
階段に向かう途中で玲司さんが顔を出し、それをお兄ちゃんが止めていた。
こんなに大きな声を出すお兄ちゃん、初めて。やっぱり仲が良いお友だちが来たことで元気になったのかも。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
26
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる