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田舎町の謎
第31話:瑪珞《バラク》
しおりを挟む『この町は放置された祠や社が多い。それらが堕ちて禍ツ神にならぬよう見つけ出し、宥めるのが朝陽の役割だ』
なんでお兄ちゃんがそんなことしなきゃならないの?
『詳しく話している時間はないようだ』
「えっ?」
緑色の光がすうっとお兄ちゃんの中に入る。すると、お兄ちゃんが急にムクッと起き上がった。それを見上げ、あたしは呆然とした。
「と、取り憑いたの?」
『そうです。とりあえず彼を何とかしなくては』
お兄ちゃんの口を借りた誰かがそう言った。
そして、『彼』と指さされたほうを見てみると、三つ並んだ末社の右端にある社の小さな扉が開き、中から炎が飛び出してきた。バレーボールくらいの大きさの塊の黒ずんだ炎だ。
あたしたち目掛けて突っ込んできたけど、炎は突如巻き起こった突風に阻まれて軌道を逸らした。
『遅かった。やはり禍ツ神に成り掛けている』
「え、なんで? 神社で祀られてるのに」
よく見れば、この末社だけ新しい。でも、ところどころ焦げてる。昨夜の小火はこの炎が原因だったみたい。
縁結びの祠は私有地の山中にあったから誰にもお参りされてなかったけど、こっちは神社の境内にある。禍ツ神になる理由はないはずだ。
『以前は朝陽ひとりで抑え込めたのだが、今回は一筋縄ではいかぬ。我らも手を貸そう』
『すみません、頼みます』
お兄ちゃんの身体に取り憑いた緑色の光が代わりに喋っているんだろうか。すごくおっとりとした話し方で、でも芯が強い感じが伝わってくる。
そこから先は光と炎の戦いだった。
螺圡我さんが土で壁を作り、黄色の光が風で炎をそこに追い込む。次に御水振さんが生み出した水を小凍羅さんが冷気で凍らせ、炎をじわじわと弱らせていく。最後に橙色の光がキラキラ輝く光を浴びせ、浄化した。
炎同士は相性が悪いのか赤色の光は参戦せず、お兄ちゃんに取り憑いた緑色の光と一緒に、ずっとあたしのそばについていてくれた。
ちょっと黒っぽかった炎は一回り小さくなり、明るく綺麗な色になった。穢れがなくなったみたいで、きらきらと輝いている。
最後に、お兄ちゃんに取り憑いた緑色の光が炎の塊を両掌に乗せて語り掛けた。
『何故あなたは暴れたのですか』
『……わからない。急に、忘れ去られていた頃の寂しさと怒りを思い出してしまって……』
炎が喋った!
おじさんみたいな声が、申し訳なさそうにボソボソと質問に答えている。
『祀り方に不満がありましたか?』
『違う! ……本当に、何故自分でもこうなったかわからないんだ』
『そうですか。では、しばらく休んでください』
『済まない』
掌に乗せた炎を社に近付けると、スッとそちらに移った。そして、ひとりでに小さな扉が閉じた。
『朝陽は自力で動けないほど弱っています。このまま家に戻りましょう』
「このまま?」
『はい。私は朝陽と相性が良いので』
「あ、あなたは……」
『私は瑪珞。話すのは今夜が初めてですね』
「ば、バラク、さん」
そう言って、瑪珞さんはお兄ちゃんの顔でにっこり微笑んだ。
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