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七つの記憶
第57話:誰かの記憶 7
しおりを挟む──ああ、また夢だ。
最近続けて見てるからもう分かっちゃった。
今日もまた悲しい夢が始まるんだろう。
夢の傾向も分かってきた。
必ず最後に女の子が命を落とす。
時代も場所も違うけど、それだけは同じ。
傾斜のある山道を駆け登り、開けた高い場所から遠くを眺める。空は晴れ渡り、雲ひとつない。爽やかな風が吹き抜けていく。
向かいの山の麓に大きな建物が見えた。
工事中だろうか。たくさんの人々と荷車が行き交い、足場が組まれている。
『お城、もうすぐ完成しそうだね』
『でっかいから遠くからでもよく見える』
数人の、十歳から十代半ばくらいの子どもたちが建設中の城を見ながら楽しそうに語らっている。
『チビ助、見えるか? 肩車してやろうか』
『もう! あたしチビじゃないもん!』
その中で一番身体の大きな少年が一番小柄な女の子に声を掛けた。身長をからかわれるのがイヤなのか、女の子は一回りも体格が違う少年に食ってかかった。殴ろうとするが、上から着物の襟首を掴まれ、呆気なく動きを封じられている。
『はは、やっぱチビじゃん』
『ぐぬぅ……!』
女の子は悔しそうに歯を食いしばっている。
これがいつものやり取りなのか、周りの子どもたちは気にも留めていない。さっさと日々の仕事である山菜採りに散っていった。
『俺も明日っからあそこで石垣造りに行くんだ』
『え、石垣はもう出来てるよ?』
『どうも一箇所だけ崩れちまうらしくてさ。石工職人を集めて何とかするんだと。俺は親父の手伝い。だから、チビ助と遊ぶのもしばらくは無理だな』
『……そっか』
振り上げた拳を下ろし、女の子は肩を落とした。
『ここから応援しててくれよ。俺もこの山を見て頑張るからさ』
『……うん』
場面が変わった。お城の建設現場だ。
一部だけ崩れ落ちた石垣の前で、何十人もの職人さんたちが頭を抱えていた。
『なんでここだけ何度やっても駄目なんだ』
『基礎も石の形も問題ない。積み方だって全部試した。これ以上工夫のしようがないじゃないか』
『もうすぐ城の工事が終わる。それまでには間に合わせねえと。ここは一ノ門入ってすぐの目立つ場所だ。何としても完成させにゃならん』
悩む大人たちに混じり、少年も眉間に皺を寄せていた。毎日毎日凄腕の石工職人たちが試行錯誤を繰り返し、その度に石が崩れるのを何度も目撃した。
内側から押されるように石が浮き、落ちていくのを見た。人智を超えた存在が邪魔しているようだと噂が立ち始めていた。
『人柱を立てるしかねえ』
誰かがぽつりと呟いた。
工期に追われ、依頼主から叱責され、失敗続きで焦った気持ちがそうさせたのだろう。非常識な話であるにも関わらず、そこにいた職人全員がその『最後の手段』に縋ろうとしていた。
少年だけが、狂気に走る大人たちを見て怯えていた。
石工職人が連名で人柱を申請すると、依頼主である城主は即座に了承した。
人柱は神への供物である。この地の神に供物を捧げれば工事は速やかに完了し、城は加護を得て難攻不落となる。そう信じられていた。
すぐさま人柱の選定が行われた。
石垣の基礎部分を削って棺を埋める場所を作る。その仕事を任されたのは少年だった。石垣が崩れている箇所はほんの僅かな幅しかなく、そこに大きな穴は掘れなかった。
作業の合間に風を感じ、ふと顔を上げれば山菜採りでよく登った山が見えた。今日もチビ助はあそこにいるのだろうか。そう思いながら穴を掘った。
人柱として連れて来られた娘を見て、少年は驚きのあまり言葉を失った。
いつもボサボサだった髪は丁寧に櫛でとかれ、日焼けした肌には白粉が塗られ、真っ白な着物を着せられていた。綺麗な格好をしているが、間違いなくチビ助だった。
『な、なんで、おまえが』
『棺を納める場所が小さいから小さな子どもがいいって御触れがきたの。だから志願したの』
確かに成人女性を納める程の余裕はない。
だが、まさか自分の掘った穴に知り合いが入ることになるとは思わず、少年は狼狽えた。
人柱には報酬が与えられる。チビ助の家は下に弟妹がたくさんおり、生活は苦しい。家族に楽をさせるために志願したんだろうと容易に想像がついた。
それと、いつも遊んでくれた少年の助けになるのならば。そういう思いもあったのかもしれない。
『工事がうまくいくように神さまに頼んであげる』
チビ助の棺が埋められた後に積まれた石垣は二度と崩れることはなかった。
『馬鹿やろう、俺は、おまえが……』
ああ、やっぱり女の子が死んでしまった。
分かっていたのに涙が止まらない。
誰の記憶なのかはなんとなく分かってる。
でも、
何故あたしがこの夢を見るんだろう。
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