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定められた運命
第60話:予兆
しおりを挟む「鞍多先生」
「お、榊之宮か」
昼休みに鞍多先生を訪ねた。
あたしが保健室のお世話になることは滅多にないので、先生はちょっと驚いてた。すぐ椅子から立ち上がって入り口まで来てくれた。
「どうした。気分悪いのか」
「あ、違うんです。お兄ちゃんから……」
「朝陽から?」
そう、あたしが保健室に来たのはお兄ちゃんに頼まれたからだ。先生宛ての手紙を必ず直接手渡すようにと言われている。
「なんだなんだ、今頃お礼状かぁ?」
「内容は分かんないです」
「ふう~ん」
飾り気のない茶封筒だけど、受け取った先生は目を細めて笑った。
卒業して何年も経つ生徒からまだ覚えられてて嬉しかったのかもしれない。
「お兄ちゃん、先生に何書いたんだろ」
『さぁね~。お嬢ちゃんが前に世話かけたから、そのお詫びじゃない?』
「エッ、そうかなあ」
『まあ良いではないか。それより、早く戻らねば昼休みが終わってしまうぞ』
「ホントだ! 急がなきゃ!!」
学校が終わり、千景ちゃんたちとワイワイ話しながら帰る。
「でさぁ、昨日の宿題で分かんないとこあったから早速朝陽さんにメールしたの。すぐ返事くれて、しかも先生より分かりやすく教えてくれて助かっちゃった~!」
「うぐぅ、私もスマホさえあれば……!」
先日の勉強会以降、千景ちゃんは時々お兄ちゃんとメールのやり取りをしているみたい。
あたしと夢路ちゃんはまだスマホを持ってない。中学生にはまだ早いってお母さんから言われてるんだよね。でも、最近ちょっと欲しくなってきちゃった。
「夢路は朝陽さんが好きなんだ~」
「ばっ……! 言わないで千景ちゃん!!」
「いや、バレバレだし」
「うそ!」
本人はバレてないと思ってたみたい。残念ながら、あたしも随分前から気付いてたよ。
「直接聞きに来てもいいよって言われてたじゃん。宿題にかこつけて遊びにいけば?」
「え、そんな、恥ずかしいから無理!」
「夢路、意識し過ぎ~!」
「あはは……、あっ」
笑いながら歩いてると、遥か前方に人影を見つけた。うちの中学のセーラー服だ。ゆるく波打つ長い髪を後ろでひとつに結んでる。
もしかして歩香ちゃんかな?
そう思ってるうちに角を曲がってしまい、その姿は見えなくなった。
「ねえ、さっきの……」
「え、なに?」
「どうかした? 夕月ちゃん」
二人は話に夢中になってて気付いてなかったみたい。歩香ちゃんの家は逆方向だし、こんなところをウロウロしているはずはない。髪型が似てる誰かと見間違えただけだったのかも。
「それで、今度朝陽さんと夢路をさあ……」
「やだやだやだ、変なこと計画しないで!」
恋バナ?は家の近くに着くまで続いた。
その日の夜、夕食が終わったくらいの時間に家の電話が鳴った。
「はい、榊之宮で──まあ、ご無沙汰してますぅ」
電話を取ったのはお母さんだ。受話器を手に、笑顔で受け答えをしていたんだけど、その表情が驚きに変わった。さっきまでのハキハキした声ではなく、ボソボソと小さな声で話し始めた。
おや、前にもこんなことがあったような。
お兄ちゃんとリビングでくつろぎながら、どうしたんだろうと顔を見合わせる。
「夕月、あんたのクラスの歩香ちゃん、まだ家に帰ってないらしいのよ」
やっぱり。
叶恵ちゃんの時と一緒だ。
今回は明らかに予兆があった。
それに、帰り道に見かけたあの人影。
見間違いじゃなく歩香ちゃん本人だったんだ。
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