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定められた運命
第62話:決意
しおりを挟む家の裏通りにぽつんと建つ一軒家。
周りには雑木林や空き地があるだけで何もない。
ブロック塀で囲まれたその家には明かりが灯っている。八十神くんが居るのは確実。これから、歩香ちゃんが来ているかどうかを確認する。
門に付いているインターホンを押して待つ。
でも、返事はない。
お母さんと顔を見合わせ、もう一度押して、しばらく待ってみるけど、やっぱり誰も出てこない。
「変ね。こんな時間に、電気もつけっ放しで出掛けてるのかしら?」
「お風呂かもしれないよ」
「ああ~そうね。こんな時間だもんね」
以前、叶恵ちゃんのことを聞きに一人で訪ねた時はお風呂上がりだった。もし湯舟に浸かってたら、インターホンが鳴っててもすぐには出てこれないよね。
「後で報告の電話するって言っちゃったし、出直すのもちょっとねえ」
「う、うん」
「玄関から声掛けてみようかしら」
「えっ!?」
そう言うと、お母さんは門から敷地内に入り、玄関の引き戸を何度か叩いた。
「時哉くーん! いるー?」
返事はない。
最初にインターホンを鳴らしてから数分経っている。もしお風呂に入っていたとしても、上がって身体を拭く時間はあるはずだ。それなのに出てこない、返事のひとつもないなんておかしい。
お母さんが引き戸に手を掛けると、鍵は掛かっていないようですんなりと開いた。そこから再度奥に向かって声を掛けるが、やはり返事はない。
「お母さん、靴が」
「あら」
玄関の土間には八十神くんの靴とは違う靴が並べられていた。ひと回り小さなローファー。明らかに女物の靴だ。
「行方不明の子、ここに来てるみたいね。んもう、親御さんに何も言わずにこんな時間まで男の子の家に遊びに行くなんて」
ぶつぶつ言いながら玄関の中に一歩足を踏み入れた瞬間、お母さんの身体がぐらりと揺れ、入り口を塞ぐように倒れた。
「お母さん!!」
慌てて駆け寄り、力無く横たわる身体をずるずると引きずって外に出す。
この建物の中が忌み地だって知ってたのに油断した。でも、まさか一歩入っただけで気を失っちゃうなんて思わなかったよ。
『すぐに阿志芭に浄化させれば問題ない。それより、其方は中には入るなよ』
「で、でも、中に歩香ちゃんがいるかも」
『だから何だ。あの娘がどうなろうと知ったことではない』
御水振さんは歩香ちゃんのことを嫌っている。今までのことを考えれば、そう思うのも仕方ないとは思う。あたしだってちょっと苦手だもん。でも、そんなこと言ってる場合じゃない。
「ちょっと入っただけのお母さんでもこんな風になっちゃったんだよ? もし夕方からずっとこの中に居たんだとしたら、歩香ちゃんは……」
地面に膝をつき、意識のないお母さんの上半身を抱える。足元では、橙色の光……阿志芭さんがチラチラと飛び回っている。
『あれ? 穢れがついたわけじゃないみたいだよ~』
「え、そうなの?」
聞き返すと、頷くように阿志芭さんが上下に揺れた。悪いモノの影響がないならいいけど、じゃあ、お母さんはなんで倒れたんだろう。
「前と違って、ここは調べる予定になってる。お母さんから報告の電話がなければ、そのうち他の大人たちが来る。そしたら、みんなこの家に入って倒れちゃうよね」
『お嬢ちゃん、まさか』
「あたしなら、中に入ってもみんなが守ってくれるから大丈夫なんじゃない?」
『あちゃー! なんでそうなんの!』
小凍羅さんが呆れ声を上げた。
『俺様たちの守りは完全じゃねえんだぞ!』
続けて螺圡我さんが低い声で諭すように訴えてきた。口調は怖いけど、心配してくれているのが分かる。
でも、もう決めたんだ。
「あたし、行く!」
自分自身を奮い立たせるように大きな声で宣言すると、みんなは諦めたように盛大な溜め息をついた。
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