【完結】かみなりのむすめ。

みやこ嬢

文字の大きさ
71 / 98
選び取る未来

第70話:兄の決意

しおりを挟む


 山のふもとにある神社。
 その拝殿の裏に広がる森の奥。

 七つの魂との繋がりを断つため、八十神やそがみくんの手を取って自分の丹田たんでんへと導いている最中に異変が起きた。
 手と身体に巻きついたつたが身体の自由を奪い、八十神くんとあたしは身動きが取れなくなってしまった。

 これは植物を操る緑色の光、瑪珞バラクさんの力だ。さっき、あたしから引き剥がされて家の二階に飛ばされたはずなのに。

 そこへ息を切らせたお兄ちゃんが現れた。
 手には懐中電灯を持っている。

「お、お兄ちゃん……」
夕月ゆうづき、彼から離れろ」
「でも、あたしは」
「いいから離れるんだ!」

 駆け寄ってきたお兄ちゃんは、あたしに絡まる蔦だけを取り除き、手を引いて八十神くんから距離を取った。
 お兄ちゃんの手は震えている。肩で息をしてるし、なんだか苦しそう。

「まさか、家から走ってきたの?」
「瑪珞さんが身体に入ってくれてるから平気だよ。まだ動ける・・・・・

 家から神社までは徒歩で十分、全力で走れば五分くらいで着く。そこから更に奥にあるこの場所に来るまでに五分は掛かるだろう。
 身体が弱いのに、こんな無理をするなんて。

榊之宮 朝陽さかきのみや あさひか。まさか神格化した魂のうちの一つを憑依させているのか」
「その通りだ。僕は瑪珞さんと相性がいいからね、この状態でも力が使える。戦いには向かないけれど、君の動きを封じるくらいは出来る」

 あたしを後ろに庇いながら、お兄ちゃんは八十神くんに向かって手を掲げた。蔦がギリギリと音を立てて八十神くんの身体を更に締め付けていく。

「ああ、これは苦しいね」

 そう言いながらも、八十神くんは笑顔のままだ。どこか余裕を感じる表情を浮かべている。



「……で、これで僕を無力化したつもり?」



 場の空気が変わった。
 夜の森の冷えた空気が一気に重さを増して、上からのし掛かってくる。その衝撃で、あたしはその場に膝をついてしまった。お兄ちゃんは何とか立ってるけど辛そうに見える。

「榊之宮さんに免じて、今なら見逃してあげる。一人で家に帰りなよ。……そして、自分の無力さを痛感しな」

 無力さを感じさせることで、お兄ちゃんの魂を成長させて神格化できる状態まで追い込む。

 でも、お兄ちゃんはそれを拒否した。




「僕は二度と妹の手を離さない!」
『私は二度と妹の手を離さない!』




 男の人の声が重なって聞こえた。
 これはお兄ちゃんに憑依している瑪珞バラクさんの声だ。同じ気持ちを抱いているから二人の姿が重なって見える。病弱で穏やかで優しい。そんなところまでそっくり。



「──兄さま」



 涙が勝手に溢れて頬を伝い、落ち葉だらけの地面に落ちる。夢にみたあの女の子があたしの中で目を覚ました気がした。

「大丈夫だよ、夕月。僕が守るから」
「でも、お兄ちゃんが」

 お兄ちゃんはまだ肩で息をしている。ここまで駆け付けてきただけでかなりの体力を消耗しているし、更に八十神くんから放たれる気迫みたいなものに圧されているからだ。

 このままじゃ身体に限界が来てしまう。

「あたしはどうなってもいいから、お兄ちゃんに手を出さないで!」

 震える足を無理やり立たせ、お兄ちゃんの前に立つ。

「さて、どうしようか。瑪珞キミは比較的穏やかな神だから、目の前で妹が死んでも自分を責めるくらいで済みそうかな?」
『己を責めるなど前の生でやり尽くした。また同じようなことになれば、私は私を赦せない。全てを呪う存在と成る』

 それって、禍ツ神マガツカミになっちゃうってこと?
 嫌だよ、優しい瑪珞さんが、優しいお兄ちゃんがそんな悲しいモノになっちゃうなんて。

「まあ、はそんなの御免だから、過去の反省を活かして今回は出来る限りの対策をしてみたんだ」

 そう言いながら、お兄ちゃんは口の端を上げて笑った。
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...