【完結】かみなりのむすめ。

みやこ嬢

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選び取る未来

第73話:阿志芭《アシハ》

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「もしかして、僕を倒せば平穏な日々が戻ってくる……なんて考えてない?」

 薄く笑みを浮かべながら、八十神やそがみくんがゆっくりと近付いてきた。さっきの炎を掻き消したのも彼の仕業だろうか。

「これ以上こっち来んな!」
夕月ゆうづきちゃんに近寄らないで!」

 あたしを庇うようにして、千景ちかげちゃんと夢路ゆめじちゃんが間に立ち塞がった。

「ねえ、なんで君たちはそんなに僕を敵視するの? まだ何もしてないうちから警戒してたよね。これでも女子には人気ある方なんだけど、傷付くなあ」
「アンタからはニセモノの匂いがする。人当たりがいいフリしてても何となく分かるんだよ」
「あなたからは最初から得体の知れない怖さしか感じなかったわ」
「……ふうん。ホントに勘が鋭いね」

 二人の言葉に、彼は小さく息をついた。

 思えば、八十神くんが転校してきた当初から二人は距離を置いていた。他の女子とは違い、彼に惹かれることもなかった。うっかりあたしが近付かないように守ってくれていた。

「生まれつき……いや、榊之宮さかきのみやさんの幼馴染みだからか。少なからず影響を受けているみたいだね。厄介だなあ」
巫山戯フザケんな! テメーは絶対ここで潰す! 山ン中に埋めて二度と出てこれねーようにしてやんぜ!!』

 突然千景ちゃんの顔付きと口調がガラリと変わった。夢路ちゃんにあたしを預け、単身八十神くんに向かって走り出した。千景ちゃんの怒りが螺圡我ラドガさんと完全にシンクロしている。
 殴り掛かった拳は軽く避けられたけど、構わずそのまま振り下ろす。すると、当たった所を中心に地面が割れた。

「うわあ、すごいことするね」
『避けんな糞餓鬼クソガキ!』

 何度も何度も拳を振るい、蹴りを繰り出すけど、八十神くんはそれを最小限の動きで正確に避けている。でも、ずっと攻撃されたままなのが気に喰わなかったみたい。

「女の子にそんな言葉遣いさせちゃダメだよ」

 黒いもやがブワッと千景ちゃんの身体を包み、その動きを封じ込めた。この靄は前に見たことがある。この世に未練や怨みを残した霊の集合体だ。まともに浴びたら千景ちゃんの魂に傷が付く。

『螺圡我、早くこちらへ』
『くっ……』

 靄にまとわりつかれた状態の千景ちゃんを、夢路ちゃんが受け止めた。いや、正確には、夢路ちゃんの身体と声を借りた阿志芭アシハさんだ。こちらもシンクロが進んでいる。

ケガレは私が全て浄化しましょう。生身の人間があの黒い靄に触れればただでは済みませんからね』

 苦しそうに顔を歪める千景ちゃんに阿志芭さんは手を翳し、キラキラと輝く橙色の光で浄化していった。おかげで少し表情は和らいだけど、千景ちゃんはしばらく動けなさそう。

「お、お師匠さま」
『……大丈夫ですよ。おまえのお友達も螺圡我も、これくらいではビクともしませんから』
「うん、うん。ありがとう」

 あたしが側に寄ると、阿志芭さんはにっこり微笑み、慰めるように優しく頭を撫でてくれた。昔もこうやって撫でられたことを思い出す。あの時から大事にされていたんだと、今頃になって気が付いた。

「すっげえ。何がなんだか分かんないけど、とりあえずフツーじゃないことは確かだな」

 目の前で繰り広げられている光景に、玲司れいじさんが感嘆の声を上げた。おじいさんとお兄ちゃんを後ろに庇い、八十神くんから視線を外さないようにしている。

 完全に巻き込まれた形のおじいさんは、瞬きもせず、じっとやり取りを見つめていた。

「なあ朝陽あさひ。あの子が諸悪の根源ってヤツ?」
「バカ、そんな単純なものじゃない」



 諸悪の根源。

 敵。

 悪者。

 そんな言葉では言い表せない。



「……いや、あの少年はどちらかといえば神に近い・・・・。良くも悪くも、人の手に負える存在ではないぞ」

 玲司さんのおじいさんの言葉を聞いて、八十神くんは口の端を上げて笑った。
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