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選び取る未来
第75話:もう一人の味方
しおりを挟む『しかし不味いぞ。恐らくあの男、我らと同じ属性の力を持っている』
「えっ」
『そのようです。先ほどから再度蔦での拘束を試みているのですが、うまく動かせません。同じ力で対抗されていると考えて間違いないでしょう』
え、それじゃ勝てないってこと?
確かに、こっちは防ぐだけで精一杯なのに、八十神くんはまだ余裕の表情だ。
「七人全員で挑むかい? ま、無理だと思うけどね」
にっこりと笑う彼の周りには黒い靄が漂っている。これに触れると魂に傷がついてしまう。いくら神格化した魂を宿していても、みんな生身の人間だ。きちんと浄化しないと後々影響が残る。
七つの光と同等の力に黒い靄。
こっちの方が人数が多いのに勝てる気がしない。
「それだけじゃないよ」
あたしたちと八十神くんの間に立ち塞がるように現れたのは歩香ちゃんだった。まだ気を失っているようで、目は閉じ、首はだらりと下がっている。
「あ、歩香ちゃん!!」
「里巳!!」
叶恵ちゃんがまず反応し、続いて鞍多先生も思わず身を乗り出した。でも、迂闊に近寄れない。
歩香ちゃんの周りを黒い靄が包み込んでいるからだ。触れるか触れないか、それくらいの近さだ。
「僕は争いは嫌いなんだ。これ以上やるなら彼女がどうなるか保証は出来ないよ」
人質!?
「ひどいよ。歩香ちゃんは本気で八十神くんが好きなのに、なんでそんなこと……」
叶恵ちゃんが震える声で訴えると、彼は心底気の毒そうな顔をして溜め息をついた。
「田鎬 叶恵さん。君はこの子に利用されていたんだよ。慰霊碑を壊した罪を君に擦り付けるため、赤い絵の具の紛失をわざと大きな声で指摘した。その上で君を庇い、僕の関心を引こうとした」
「……っ」
「最後には君たちまで近付けないようにしていたよね。友達より僕を取ったんだ。ひどいのはこの子だよ。君が怒るほどの価値もない」
自分に好意を寄せている女の子に対しても容赦がない。慰霊碑事件の真相は叶恵ちゃんには教えていなかった。こんな形で知ることになるなんて。
目には少し涙が浮かんでいる。
彼の言葉が心に突き刺さったんだろう。
でも、叶恵ちゃんは笑った。
「知ってるよ。歩香ちゃんはワガママで怒りっぽくて気難しくて、欲しいものがあると周りが見えなくなる。……だけど、私たちは小さな頃から一緒にいたの。悪いところもあるけど、良いところだっていっぱいあるんだから!!」
そう言って叶恵ちゃんは歩香ちゃんに向かって駆け出した。黒い靄を突き抜け、ぐらりと揺らぐ彼女の身体を抱き締める。
「歩香ちゃん、しっかりして」
叶恵ちゃんが声を掛けても、歩香ちゃんは相変わらず意識が戻らない。
「か、叶恵ちゃん! 早くこっちへ!!」
黒い靄はみるみるうちに二人を包んでいく。このままでは瘴気にやられて倒れてしまう。
『だいじょーぶだよ、お嬢ちゃん。あの子にはもう一人憑いてんだ』
いつのまにか弾きだされた紫色の光……小凍羅さんがフワフワとあたしの周りを飛び回る。
もう一人って誰!?
『先日迷惑を掛けた詫びだ。今だけこの者に加護を授ける』
サラサラと黒い靄が離れていく。
叶恵ちゃんと歩香ちゃんの身体には薄い光の膜が張られ、体内に瘴気が入り込まないようになっていた。
「えっ、だ、誰?」
『民からは縁結びの神と呼ばれておる』
叶恵ちゃんに宿るもう一人は縁結びの神さまだった!
『人と人との縁を結ぶ。其れは色恋のみに非ず。主従。師弟。家族。仲間。そして友人。……友を思い、友を信じる心。それが正しく伝わるように繋げよう』
二人を包み込む光の膜が眩ゆい輝きを放ち、周りに漂う黒い靄を遠退けた。
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