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選び取る未来
第77話:ばいばい
しおりを挟む八十神くんが再び手を掲げた。
「そうだな、この岩壁を崩して下敷きにしちゃおうか。『行方不明の子を探しに来て崖崩れに遭う』とか、まあ有りそうな話じゃない? 殺しはしないよ。動けないようにするだけ」
五メートルを超える岩の壁。これが崩れたらみんなただじゃ済まない。
「やめて、あたしが死ねばいいんでしょ! みんなは関係ないじゃない!!」
みんなが苦しむ姿を上から見ているだけなんて嫌。必死に訴えると、八十神くんは困ったように笑った。
「でも、今の状態で榊之宮さんに危害を加えたら、ここにいる七つの魂は間違いなく禍ツ神に堕ちる。君が七度も命を犠牲にして神にしたんだ。無駄にしたくはないだろう?」
あたしが今までやってきたことなんかどうでもいい。魂に刻まれた自己犠牲プログラムなんか関係ない。
そうすべきだと思ったことをしただけ。
例えこの身がどうなろうと、みんなが助かればいい。その一心で出来る限りのことをした。
……そう思って行動に移してしまうことこそがプログラムのせいなんだろうけど。
でも、
そのせいで死んでからも縛ってしまった。
御水振さん。
小凍羅さん。
螺圡我さん。
瑪珞さん。
阿志芭さん。
太儺奴さん。
華陀真さん。
みんなを禍ツ神にはしたくない。
それに、
千景ちゃん。
夢路ちゃん。
叶恵ちゃん。
鞍多先生。
玲司さん。
玲司さんのおじいさん。
……お兄ちゃん。
あたしを助けるためにこんな夜の森まで来てくれて、力を貸してくれた。ここまでしてもらえたんだもの。もうこれ以上は望めない。
「──あたし、みんなとお別れする」
「うん?」
「御水振さんたちとの繋がりを絶って、一人で死ぬ。……お兄ちゃんにはツラい思いをさせちゃうかもしれないけど、それがお役目だもんね」
もともとそうするつもりだった。
みんなが来てくれて、もしかしたら助かるかもしれないなんて希望を持っちゃったけど、やっぱりダメだ。
みんなを犠牲にしてまで生きたくない。
これ以上誰かが傷付くところを見たくない。
「榊之宮さんは物分かりがいいね。そういうとこ好きだよ」
「……全っ然嬉しくない」
「はは、君は最初からそうだったね」
蔦の拘束が緩み、じわじわと下へと降ろされた。
みんなはその場にいるのがやっとの状態だ。多分、八十神くんが辺り一帯の空気を重くして身動きが取れないようにしてるんだと思う。
地面に足がついた。
靴は履いてないから、尖った石を避けて歩く。たった十数歩の距離がとても長く感じた。
「ゆ、夕月、行くな」
お兄ちゃんが引き止めようと必死に声を掛けてくれる。その声を背中で聞きながら、あたしはゆっくりと八十神くんに近付いた。
「夕月、戻ってきな! アンタは可愛いおばあちゃんになりたいんだろ? だったらこんなとこで死んじゃダメだ!!」
「そうよ、おばあちゃんになってもずっと一緒にいるんだから!」
そっか。
なんで将来の夢が『可愛いおばあちゃん』だったのか、今やっと分かった。あたしは今まで長生きしたことがない。それが叶わないことだって無意識に感じていたのかもしれない。
みんなと一緒に年を取りたかったなぁ。
残るは丹田と尾骨。
その二ヶ所を八十神くんに触れてもらえば、あたしと七つの魂の繋がりが完全に途切れる。
彼らがそれぞれ祀られている場所に還ったら、あとはあたしが死ねばいい。そうすることでお兄ちゃんの魂が成長し、いずれ神格化する。
それこそが今世のあたしのお役目。
笑顔の八十神くんが両手を広げて待っている。
あの腕の中に飛び込めば全てが終わる。
一度だけ振り返る。
呆然とこちらを見つめる七人と七つの光。
みんなボロボロ。
ああ、迷惑掛けちゃった。
「みんな、ごめんね。ばいばい」
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