【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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63話・異種族間の無計画性交は推奨されない

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 半魔族という存在は差別対象だ。正体を知れば大抵の人間は嫌な顔をするし、露骨に扱いを変えてくる。

 ただ、ギルだけは違った。大怪我を負って記憶を失くした俺に寄り添い、回復してからは旅の護衛に雇ってくれた。蔑むことも軽んじることもなく対等に扱ってくれた。行き場のない俺に居場所を作ってくれた。好きになるには十分な理由だと思う。

 でも、ギルが俺を選ぶ理由がわからない。グレフ神の末裔は引く手数多。もちろん身分や権威欲しさに娘を差し出す輩も多いが、物腰が柔らかくて優しくて顔が良くて金持ちだから普通にモテる。出先で女から声をかけられることも珍しくない。

 ……と言ったら呆れられてしまった。

「あなたねぇ、こんな状態の時に言うことですか」
「じゃあ、いつ言うのが正しいんだよ」
「少なくとも今ではないですね」

 ソファに仰向けに転がる俺の上に覆い被さるギル。抱き合いながら何度も何度も口付けを繰り返している最中である。息継ぎの合間に俺が妙なことを言い出したものだから、ギルは深い溜め息をこぼしていた。

 客室の中は真っ暗で、庭に灯された明かりが窓から少し入ってくる程度。表情はまったく見えないけれど、ギルの体の輪郭だけはわかる。手のひらで顔をぺたぺた触ると、ギルが笑った気がした。

「あなただけなんですよ。損得抜きで私に接してくれる人は。そりゃ好きになります」
「そういうもんか」
「ええ。わかっていただけました?」
「うーん、どうかなあ」

 言葉を交わしながら唇を重ねる。徐々に深く、舌を絡ませるような口付けへと変わっていく。そのうち下腹部に硬いものが当たるようになった。

「……おい」

 膝を立ててその部分を軽く蹴ってやると、ギルが苦笑をこぼして腰を浮かせた。

「すみません、つい」
「別に構わねえけどさ」

 そのまま離れようとするギルの腕を掴んで止める。

「両想いになったってのに、なんもしねえの?」

 女を抱けなくなっただけで、ギルは勃たないわけじゃない。以前も一緒に寝ている時に股間を硬くしていた。俺と行動するようになってから誰とも性交してないし、たぶん一人で処理もしてない。今は俺という相手がいるのだから使えばいいのに。

「あなた、経験ありますか?」
「わかんねえ。記憶ないし」
「そうでしょうね」

 バアルによれば、俺は「まだ」らしいので女を抱いたことはないと思う。魔族には女が少ない又はいないことを考えると、男同士で発散するのかもしれない。覚えてないので、そっちの経験の有無も不明だ。

「あなたは半魔族なので魔族のように結界が作用することはありません。ですが」

 そう言いながら、ギルは俺の腹に指先を突きつけた。

「腹の中に私の精を出せばどうなるでしょうか」
「へ?」

 服越しに臍下を撫でられ、ぞわりとした感覚を覚えた。

「ずっと考えていたんですよ。あなたをぐちゃぐちゃに犯して、すべてを暴いて、腹の奥を私のものでいっぱいにしてやりたいと」

 身じろぎしてギルの指から逃げようとしたが、今度は両手で腰を掴まれた。暗がりの底から溢れ出すような欲望を孕んだセリフが俺の耳元で囁かれる。背筋からなにかが這い上がってきて、思わず首を縮こまらせた。

「……でも、そのせいであなたがどうにかなってしまったらと思うと怖くて仕方がないのです」

 見た目や体質が半魔族に変化しているが、俺の正体は魔族だ。グレフ神の末裔の血は魔族にとって忌避すべきもの。直接触れれば、いつかのルオムのようにダメージを喰らう。血や髪にグレフ神の力が宿るのならば、子種である精液には比にならないほどの力が宿っているか。

 さっき俺が「ギルのものにして」と懇願した時の反応がイマイチだった理由はこれのせいかもしれない。

「試してみるか?」
「簡単に言わないでください。もしあなたの身になにかあれば、私は今度こそ立ち直れなくなります」

 万が一を恐れていたらなにもできない。だが、ギルが今まで孕ませた女は漏れなく命を落としている。好きでもない相手が死んでも傷付くというのに、好きな相手が自分のせいで死んだら確かに立ち直れないだろう。

「私はあなたを失いたくない」

 気持ちはわかる。わかるんだが、俺だって好きな相手と色々したい。抱き締めあったり口付けするだけでは足りないのだ。

「そうだ! 俺が挿れればよくないか?」

 どちらも男だ。別に俺が下だと決まっているわけではない。名案だと思ったが、何故か鼻で笑われてしまった。

「あなたが私を満足させられるとでも? 経験ないんですよね?」
「やってみないとわかんねーじゃん!」
「時間の無駄ですよ。少し見てみたい気はしますが」

 そうだ。コイツは精通してからずっと女をあてがわれてきた。性交に関する経験値は桁違い。初心者の俺がどうこうできる相手ではなかった。そもそも弁が立つので、ギルの主張を覆すなんて不可能なのである。

「じゃあ、こうしてくっついてるだけ?」
「……正直これだけでは我慢できないです」

 ギルの股間はまだ硬いまま。俺と密着しているだけでこうなってしまうという。恋仲らしい行為をしつつ、俺の身の安全を保つにはどうすればいいか。

「俺の中に出さなきゃよくね?」
「完全に防げるとは思えませんが」

 気が進まない様子のギルに、俺は更に説明を続けた。

「唾液は平気だろ? たぶん俺、少しなら精液だって大丈夫だと思うんだ」

 言い終えてから唇を重ね、わざと音を立ててギルの口内の唾液を飲み込む。薄暗い室内に響く水音が卑猥に聞こえた。

「……ッ、異常が起きたらすぐに中断しますからね!」

 挑発に堪え兼ねたギルは俺を抱きかかえ、ソファから寝台へと場所を移した。今どんな顔をしているのか見てやりたかったが、暗いので断念した。

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