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「何か、変な客いたよね」
本日の夜賄いは、大将特製麻婆ナス。基本的に和食メインの“おがた”だから、中華料理なんて賄いでしか食べられない。
そんなバイトの特権を美味しく頂きながら、ほのかが言った。
「ノンアルビールしか飲まないってのも珍しいけど、頼んだ料理がポテサラと小鉢だけって。カウンターで大将の姿見ながらそんなことできる客なんて大概だよね」
悪いわけではない、ただ珍しいだけ。ほのかとしても非難しているわけではない。
駅前だから車で来る客の方が珍しいし、ノンアルコールビールは基本的に昼の客の為に用意しているだけで、夜にそれが出ることなんてめったにない。
そして、この店の売りはやっぱり大将の料理だから。メイン料理ナシで大将を前にいられるなんて神経も、結構なもの。
「あれ、絶対未成年だよ」
櫂斗が言い切る。
「あー、まあ結構若い感じはしたけど」
「ほのか目当てだろうねー、きっと。大学の後輩なんじゃね?」
「なわけねーじゃん。たとえウチの学生だったとしても、なんだって自分目当てなのさ?」
「だってほのかばっか見てたもん」
小鉢の残り物の「マグロとメカブのポン酢和え」をずるずると食べながら櫂斗が言う。生ものなので明日に持ち越せないから、これは賄いで食べきる。
「そんな客、いた?」
安定の朋樹の発言は、ほのかが一睨みしてスルー。
「ほのかにー、密かな恋心なんて抱いてる少年がー、バイトしてる姿を見たくてお店に来てみた、ってヤツ」
「なわけあるかい」櫂斗のふざけたセリフを叩き切る。
「でもそんな感じだと思うんだけどなー。いい加減、ほのかは認めるべきだよ」
「何を?」
「自分の見た目」
ニヤニヤと嗤う。
「都会歩いてたら絶対スカウトされると思うけど」
朋樹もそれには黙って頷く。
「そりゃおまえだっつの。何? 櫂斗、スカウトされたことあんの?」
ほのかがやり返すと、
「俺は中学ん時にスカウトされた」
としれっと答えた。
「え。まじで?」
朋樹とほのかが目を丸くする。
「ん、そこのY学園の野球部に。俺のピッチャー姿見たらしくて、欲しいって言われた」
断ったけど。
という呟きは無視される。
「……ってめーはよ! どこのアイドル事務所に声掛けられたのか、って聞いてんだよ、こっちは!」
さすがにキれたほのかが声を荒らげた。
最近ほのかは結構感情を表に出す。
「あーそっか」
朋樹が、へらへら笑って「ほのか、もっと子供の頃にスカウトされて断わったんだろ? さすがにハタチ越えてたらアイドルは難しいよなー」と的外れなことを言って更にほのかの逆鱗に触れる。
かつては櫂斗だけに見えていた額の怒りマークが、今は全員の目にも明らかで。
「え、え、何? 俺なんか、ほのか怒らせることゆった?」
櫂斗は既に腹を抱えて笑っている。
「あーもう。ぶっとばしたい」
ほのかの握りしめた言葉に、「暴力反対」と櫂斗がコップに入った麦茶を差し出した。
「一発だけでも」
「だから、ダメだってば。ほら、お茶飲んで落ち着こ?」
「おまえが言うなっつの。元はと言えば櫂斗が持ち出した話だろ」
「俺はいっつも提唱してるもん、ほのかが可愛い説。ねー、トモさん?」
「……え、これ頷いたら俺、ほのかに殺されるパターン?」
「最近冴えてるねえ、トモさん」いつものくふくふ笑いが。
ほのかの逆上した気持ちを萎えさせる。
「ま、多分あれはほのか目当てだっつのは間違いないんだよね、俺の見立てだと。近いうち、ほのか、コクられんじゃね?」
「はいはい、超乙女なカッコして期待しとくよ」
ほのかが鼻で笑う。
「万が一そんなことがあったら、ちゃんと説教しとくから。ここでの酒の飲み方ってヤツをね」
本日の夜賄いは、大将特製麻婆ナス。基本的に和食メインの“おがた”だから、中華料理なんて賄いでしか食べられない。
そんなバイトの特権を美味しく頂きながら、ほのかが言った。
「ノンアルビールしか飲まないってのも珍しいけど、頼んだ料理がポテサラと小鉢だけって。カウンターで大将の姿見ながらそんなことできる客なんて大概だよね」
悪いわけではない、ただ珍しいだけ。ほのかとしても非難しているわけではない。
駅前だから車で来る客の方が珍しいし、ノンアルコールビールは基本的に昼の客の為に用意しているだけで、夜にそれが出ることなんてめったにない。
そして、この店の売りはやっぱり大将の料理だから。メイン料理ナシで大将を前にいられるなんて神経も、結構なもの。
「あれ、絶対未成年だよ」
櫂斗が言い切る。
「あー、まあ結構若い感じはしたけど」
「ほのか目当てだろうねー、きっと。大学の後輩なんじゃね?」
「なわけねーじゃん。たとえウチの学生だったとしても、なんだって自分目当てなのさ?」
「だってほのかばっか見てたもん」
小鉢の残り物の「マグロとメカブのポン酢和え」をずるずると食べながら櫂斗が言う。生ものなので明日に持ち越せないから、これは賄いで食べきる。
「そんな客、いた?」
安定の朋樹の発言は、ほのかが一睨みしてスルー。
「ほのかにー、密かな恋心なんて抱いてる少年がー、バイトしてる姿を見たくてお店に来てみた、ってヤツ」
「なわけあるかい」櫂斗のふざけたセリフを叩き切る。
「でもそんな感じだと思うんだけどなー。いい加減、ほのかは認めるべきだよ」
「何を?」
「自分の見た目」
ニヤニヤと嗤う。
「都会歩いてたら絶対スカウトされると思うけど」
朋樹もそれには黙って頷く。
「そりゃおまえだっつの。何? 櫂斗、スカウトされたことあんの?」
ほのかがやり返すと、
「俺は中学ん時にスカウトされた」
としれっと答えた。
「え。まじで?」
朋樹とほのかが目を丸くする。
「ん、そこのY学園の野球部に。俺のピッチャー姿見たらしくて、欲しいって言われた」
断ったけど。
という呟きは無視される。
「……ってめーはよ! どこのアイドル事務所に声掛けられたのか、って聞いてんだよ、こっちは!」
さすがにキれたほのかが声を荒らげた。
最近ほのかは結構感情を表に出す。
「あーそっか」
朋樹が、へらへら笑って「ほのか、もっと子供の頃にスカウトされて断わったんだろ? さすがにハタチ越えてたらアイドルは難しいよなー」と的外れなことを言って更にほのかの逆鱗に触れる。
かつては櫂斗だけに見えていた額の怒りマークが、今は全員の目にも明らかで。
「え、え、何? 俺なんか、ほのか怒らせることゆった?」
櫂斗は既に腹を抱えて笑っている。
「あーもう。ぶっとばしたい」
ほのかの握りしめた言葉に、「暴力反対」と櫂斗がコップに入った麦茶を差し出した。
「一発だけでも」
「だから、ダメだってば。ほら、お茶飲んで落ち着こ?」
「おまえが言うなっつの。元はと言えば櫂斗が持ち出した話だろ」
「俺はいっつも提唱してるもん、ほのかが可愛い説。ねー、トモさん?」
「……え、これ頷いたら俺、ほのかに殺されるパターン?」
「最近冴えてるねえ、トモさん」いつものくふくふ笑いが。
ほのかの逆上した気持ちを萎えさせる。
「ま、多分あれはほのか目当てだっつのは間違いないんだよね、俺の見立てだと。近いうち、ほのか、コクられんじゃね?」
「はいはい、超乙女なカッコして期待しとくよ」
ほのかが鼻で笑う。
「万が一そんなことがあったら、ちゃんと説教しとくから。ここでの酒の飲み方ってヤツをね」
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