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第13話 番号、教えてもらえた

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 会社に着ていっている服は少しきっちりしているので、少し苦しかったりする。
 着替えてからのほうがよかったので、私はダイチくんに私の部屋番号を教え、数分後に来てちょうだいと伝えた。

 さて、部屋着に着替えてと。
 そして部屋を……あ……。

 あ。

 もしかして、やばい?

 ――ピンポーン。

 げえっ! 早い!!

「ちょっとそこで待ってて!」

 ドアに向かって叫ぶと、外からダイチくんの「はい」という声が聞こえる。

 ええと、基本的に部屋は物が少ないし、いつも片づけるようにはしている。
 このままでも大丈夫だと思いたいが、大丈夫ではないかもしれない。
 いちおうチェックを……。

 ゴミは落ちていない。
 下着も落ちていない。
 洗濯物は……うげっ。
 今年の夏コミで買った本は……ぎゃあ!
 ハイ片付け片付け。

 よし大丈夫!

「さあ来いやっ!!」

 バン!!
 私は勢いよく入口のドアを開けた。
 そこには、うずくまって顔を押さえるダイチくん。

「あ、アオイさん。痛いです……」
「ぎゃあああ! ごめん!」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 とりあえず、ダイチくんにはリビングのテーブルに座ってもらった。
 彼にはわざわざ着替えなくていいよと言っていたので、濃紺のタンクトップに黒のハーフパンツのままだ。

「お茶とコーヒーどっちがいい?」
「じゃあお茶で」
「ふふふ。やっぱりそう来たな」
「?」

 何となくお茶と答えそうな気はした。
 双方、手元にお茶を置き、向かい合う。

「で、用事なんだけど」
「はい」
「面接の対策はちゃんとやってる?」

 ダイチくんが一段とヌボーっとした様子。
 これは嫌な予感。

「対策って何やればいいんです?」

 ……。

「ということは何もやってないなー? 進路指導の先生からは何か言われてないの?」
「はい。頑張ってこいと言われました」

 使えねえええ!
 去年までの先生はきちんと指導してくれていたのに。
 頑張ってこい、なんて誰でも言えるじゃないの! まったく。

「うーん。確かに学校推薦の場合、過去うちの会社では落ちたことがないんだけど……それは結果的にそうなってるだけだからね?
 さすがに面接で大ポカやらかすと落とされる可能性も出てくるし、仮に通ったとしても工場長の印象が悪くなっちゃうから、一通り対策は必要だよ?
 今はネットでいくらでも調べられるし、色々見ておいたほうがいいよ」

 とりあえず対策はしてね、と言った。
 今日偶然会えてよかった。心底そう思いながら。

 ダイチくんの表情は変わらなかったが、素直に首を縦に振った。

「じゃあ本を買って勉強します。うち、ネットつながってないので」
「あ、そうなんだネットが……って、ちょっと!? ネット環境がないの!?」
「はい」
「パソコンもスマホもないの?」
「パソコンはないです。携帯電話はガラケーなので」
「グァルァクェーだとぉ?」

 意外な事実にびっくりする私。
 ダイチくんはごそごそとテーブルの下で手を動かし――おそらくハーフパンツのポケットに手を入れて、折り畳まれている携帯電話を私に差し出してきた。

「うわあ、久しぶりに見たよ! ガラケー!」
「はあ」

 それを受け取った私は、両手で回転させながら観察する。
 塗装がだいぶ傷んでいるし、意外に古い感じだ。
 一人暮らしを始めるときに買い、ずっとそれを使い続けてきたのだろう。

「何でスマホじゃないの?」
「電話とメールができれば困らなかったので」
「な、なるほど」

 確かに、そういう人もいる。おかしい話ではない。
 ただ自宅にネット回線がないのであれば、スマホのほうが便利なように思う。

「……開いてみてもいい?」
「いいですよ」

 え、いいんだ?
 いやですと言われることを前提に聞いたのに、あっさりオーケーが出た。

「……」

 パカッと開いても、液晶画面には壁紙が設定されていなかった。
 黒背景に、年月日だけのシンプルな表示。

「あ、番号って教えてもらってもいいの?」
「いいですよ。アオイさんのも教えてください」

 私たちは、番号とメルアドを交換した。
 これで何かあったときに連絡が取れる。
 選考がらみの公のことであれば学校を通さないといけないけど、非常事態もありうる。
 いざというときは直接連絡できたほうがいい。

 ……さて、頭を切り替える。

 ネット環境がないというのは驚愕。
 本は……まあ買ってもらうとして。
 とりあえず今インターネットでサラッと見てもらって、今の『面接に対する心構えの甘さ』を認識してもらったほうがいいかな。

「よーし。結構よくまとまってるサイトを知ってるので、私のパソコン使っていいから、今少し眺めてみて」
「ありがとうございます」

 パソコンはリビングではなく、寝室のほうの机の上に置いてある。
 個人的な好みで、ノート型ではなくデスクトップ型だ。

 ダイチくんをそこまで案内する。
 そして、彼に椅子に座ってもら……あ……。

 あ。

 もしかして、やばい?

「ダイチくん! ちょっと後ろ向いてて!!」
「え? はい」

 首をひねりながら背を向く彼。
 私はパソコンの省電力モードを解除し、慌ててチェックすることに。

 デスクトップに変なアイコンは……オッケー、出ていない。
 ブックマークは……げえっ。
 検索履歴は……ぎょえっ!
 閲覧履歴は……うぎゃああっ!!
 ハイ削除削除。

 よし!

「さあ来いや!!」
「?」
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