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第6話
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高い金属音が、月明かりで蒼く照らされる室内に響いた。
弾かれたアステアの剣が、宙に舞う。
それは回転しながら、離れたところの床に突き刺さった。
尻餅をついたアステアの喉元に、勇者レグルスの剣が突き付けられる。
御前試合での模様とまったく同じ。アステアの敗北であった。
「なぜだ……。なぜお前に勝てない」
一度だけなら、偶然という説明が許される。
しかし二度目となれば、それは許されないだろう。
つまりこの現実は、偶然がもたらしたものではない。
アステアには理由がわからなかった。
実績も実力も、彼より上であるはず。その自分が、なぜ勝てないのか。
その答えを知っているのか、知らないのか――。
勇者は、剣を合わせる間だけ引き締めていた表情をゆるめ、穏やかに微笑んだ。
どこからか取り出した紐を、勇者が手に持つ。
「拘束させていただきます。あなたがやったことは無断侵入であり殺人未遂。かまいませんね?」
靴を丁寧に脱がされ、ベッドに寝かされたアステア。
拘束された手は、頭上でベッドに括りつけられている。
「何のつもりだ?」
アステア本人は、ひたすら混乱していた。
夜間ではあるが、すぐに役人へと引き渡されると思っていたためだ。
「あなたが欲しがっていたものを、さしあげます」
勇者はそのアステアの問いに、はにかむような笑いで答えた。
靴を脱いでベッドに上がってきた彼は、アステアの上に覆いかぶさるように、邪気のまったくない顔を近づけてきた。
「……!」
同性との接吻。
当然、アステアにとっては初めて経験するものだった。
唇の柔らかさと、それが触れ合うむずがゆさ。
脳に直に伝わってくるそれらに戸惑っていると、さらにそこからアステアの唇を押し広げ、中に入ろうとしてくるものがあった。
予想だにしない事態に、受け入れてはいけないと判断することもできなかった。
温かく、サラリとした勇者の舌が、アステアの舌先に絡んだ。
彼のものなのか、自分のものが反射しているのか、鼻から出る吐息が熱く顔を撫でる。
「……っ……」
唇を離す前に、勇者の舌がアステアの歯茎を周回した。その刺激でアステアの口からわずかに声が漏れた。
「どうですか?」
一度頭を引いた勇者。
月明かりに照らされた、勇者の顔。
その色は蒼なれど、冷たさとは対極にあった。
声色も温かく、それが一層の混乱となってアステアを襲っていた。
「あれ? まだ、わかりませんか」
言葉を発しないアステアに、勇者が柔らかく微笑む。
その右手には、いつのまにか小さなナイフが握られていた。
「……」
手を頭上で縛られ動けないうえに、この状況が飲み込めず、アステアは呆然とその切っ先を見つめるだけだった。
勇者の左手がアステアの胸元をつかむ。
蒼く光るナイフが鋭く動く。
アステアの服は上から下へと切り裂かれ、左右へ開かれた。
(続く)
弾かれたアステアの剣が、宙に舞う。
それは回転しながら、離れたところの床に突き刺さった。
尻餅をついたアステアの喉元に、勇者レグルスの剣が突き付けられる。
御前試合での模様とまったく同じ。アステアの敗北であった。
「なぜだ……。なぜお前に勝てない」
一度だけなら、偶然という説明が許される。
しかし二度目となれば、それは許されないだろう。
つまりこの現実は、偶然がもたらしたものではない。
アステアには理由がわからなかった。
実績も実力も、彼より上であるはず。その自分が、なぜ勝てないのか。
その答えを知っているのか、知らないのか――。
勇者は、剣を合わせる間だけ引き締めていた表情をゆるめ、穏やかに微笑んだ。
どこからか取り出した紐を、勇者が手に持つ。
「拘束させていただきます。あなたがやったことは無断侵入であり殺人未遂。かまいませんね?」
靴を丁寧に脱がされ、ベッドに寝かされたアステア。
拘束された手は、頭上でベッドに括りつけられている。
「何のつもりだ?」
アステア本人は、ひたすら混乱していた。
夜間ではあるが、すぐに役人へと引き渡されると思っていたためだ。
「あなたが欲しがっていたものを、さしあげます」
勇者はそのアステアの問いに、はにかむような笑いで答えた。
靴を脱いでベッドに上がってきた彼は、アステアの上に覆いかぶさるように、邪気のまったくない顔を近づけてきた。
「……!」
同性との接吻。
当然、アステアにとっては初めて経験するものだった。
唇の柔らかさと、それが触れ合うむずがゆさ。
脳に直に伝わってくるそれらに戸惑っていると、さらにそこからアステアの唇を押し広げ、中に入ろうとしてくるものがあった。
予想だにしない事態に、受け入れてはいけないと判断することもできなかった。
温かく、サラリとした勇者の舌が、アステアの舌先に絡んだ。
彼のものなのか、自分のものが反射しているのか、鼻から出る吐息が熱く顔を撫でる。
「……っ……」
唇を離す前に、勇者の舌がアステアの歯茎を周回した。その刺激でアステアの口からわずかに声が漏れた。
「どうですか?」
一度頭を引いた勇者。
月明かりに照らされた、勇者の顔。
その色は蒼なれど、冷たさとは対極にあった。
声色も温かく、それが一層の混乱となってアステアを襲っていた。
「あれ? まだ、わかりませんか」
言葉を発しないアステアに、勇者が柔らかく微笑む。
その右手には、いつのまにか小さなナイフが握られていた。
「……」
手を頭上で縛られ動けないうえに、この状況が飲み込めず、アステアは呆然とその切っ先を見つめるだけだった。
勇者の左手がアステアの胸元をつかむ。
蒼く光るナイフが鋭く動く。
アステアの服は上から下へと切り裂かれ、左右へ開かれた。
(続く)
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