10 / 79
変貌
しおりを挟む
氷川喜与味が頭を丸めたことは、教室のあちこちのグループで話題になっていた。彼女が自ら刈ったのかとか、誰かに無理矢理刈られたのかもとか、授業中に彼女がティッシュで頭の汗を拭いていたのを見て笑いをこらえそうだったとか、今職員室で担任と話をしているとか、そういった話の内容が、曲を流していない僕のヘッドホンをすり抜けるかのように聞こえてきた。どれもこれも、あまり重要性のない話題に思えた。すると突然、新しい情報が教室に入ってきた。
「なあおい、部屋をめちゃくちゃに荒らされてたの、あれ不審者とかじゃなくて、実は喜与味本人がやったらしいぜ」
途中から教室に入ってきた生徒がそう告げると、まわりはざわついた。おそらく職員室の外で、こっそり担任と氷川の会話を盗み聞きしてきたのだろう。氷川自身がそう話していたらしい。
一昨日校門のそばに立っていた、身丈ほどの巨大なハンマーを持った男。僕はてっきり、その男が氷川喜与味の部屋を荒らしたのだとばかり思っていた。氷川の部屋が荒らされたのは、僕がその男を見た日の夜だ。それに、現に担任は、氷川の部屋の壊されたものにはまるで巨大なハンマーでつぶされたような跡があったらしいと語っていた。
仮にもし本当に氷川本人が部屋を荒らしたとしよう。何のためにそんなことをする必要があるのだろう。自分の部屋を荒らして、いったい何の得があるというのだろうか。職員室での担任と氷川の会話を盗み聞きした生徒の話では、氷川は自分の部屋を荒らした理由を担任に聞かれたが、ただ「むしゃくしゃしてやった」としか答えなかったらしい。
僕からみた氷川喜与味は、そんなことをするような人間ではなかった。控えめでおとなしく、何かを頼まれると断ることをしらない。人がやりたくなさそうなことを引き受けるのが彼女の役目。彼女に雑用を押し付ける人間は少なくなかった。それでも彼女が怒ったところを僕は見たことが無い。そんな彼女が、突然変貌をとげた。何がきっかけでそうなってしまったかはわからないが、彼女が日ごろ溜め込んでいたものが、今になって爆発してしまったのかもしれない。今の彼女が、本来の彼女なのかもしれない。
しかし僕が見たハンマーを持った黒服の男と、自分の部屋を自らハンマーで荒らした氷川喜与味。僕はこの二人が、まったく無関係とは到底思えなかった。昨日一日、彼女はどこで何をしていたのかも謎のままだ。何故なのだろう。一昨日、あの黒服の男が持つハンマーを見てからなのか、僕の中で何かがうずきだしている。そういう感覚があった。
「なあおい、部屋をめちゃくちゃに荒らされてたの、あれ不審者とかじゃなくて、実は喜与味本人がやったらしいぜ」
途中から教室に入ってきた生徒がそう告げると、まわりはざわついた。おそらく職員室の外で、こっそり担任と氷川の会話を盗み聞きしてきたのだろう。氷川自身がそう話していたらしい。
一昨日校門のそばに立っていた、身丈ほどの巨大なハンマーを持った男。僕はてっきり、その男が氷川喜与味の部屋を荒らしたのだとばかり思っていた。氷川の部屋が荒らされたのは、僕がその男を見た日の夜だ。それに、現に担任は、氷川の部屋の壊されたものにはまるで巨大なハンマーでつぶされたような跡があったらしいと語っていた。
仮にもし本当に氷川本人が部屋を荒らしたとしよう。何のためにそんなことをする必要があるのだろう。自分の部屋を荒らして、いったい何の得があるというのだろうか。職員室での担任と氷川の会話を盗み聞きした生徒の話では、氷川は自分の部屋を荒らした理由を担任に聞かれたが、ただ「むしゃくしゃしてやった」としか答えなかったらしい。
僕からみた氷川喜与味は、そんなことをするような人間ではなかった。控えめでおとなしく、何かを頼まれると断ることをしらない。人がやりたくなさそうなことを引き受けるのが彼女の役目。彼女に雑用を押し付ける人間は少なくなかった。それでも彼女が怒ったところを僕は見たことが無い。そんな彼女が、突然変貌をとげた。何がきっかけでそうなってしまったかはわからないが、彼女が日ごろ溜め込んでいたものが、今になって爆発してしまったのかもしれない。今の彼女が、本来の彼女なのかもしれない。
しかし僕が見たハンマーを持った黒服の男と、自分の部屋を自らハンマーで荒らした氷川喜与味。僕はこの二人が、まったく無関係とは到底思えなかった。昨日一日、彼女はどこで何をしていたのかも謎のままだ。何故なのだろう。一昨日、あの黒服の男が持つハンマーを見てからなのか、僕の中で何かがうずきだしている。そういう感覚があった。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる