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砕ける日常
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喜与味が僕の部屋にあるものを破壊してから姿を消したのを境にして、大きな動きが僕を中心にして起こった。僕の冷たく固かった感情を揺さぶる出来事が、次々と起きた。
僕は喜与味がいなくなってからも、アカネと共にブックカフェ<黄泉なさい>に通った。そして彼女と筆談をしているうちに、彼女に対する気持ちがどんどん大きくなっていった。そしてある日、僕は思い切って、アカネに告白した。喜与味と付き合っていたときも、本当はアカネのことが気になっていたことを打ち明けた。口では言いにくいことを相手に伝えるとき、筆談しか許されない<黄泉なさい>のルールほど都合のいいものはなかった。自分の、アカネに対する溢れんばかりの思いを原稿用紙に綴り、アカネに読ませた。そして、アカネがペンを持って、原稿用紙に返事を書いた。アカネが返事を書き終えるまでの間、僕の心臓の鼓動は高鳴り、収まることを知らなかった。しかし、アカネはすぐにペンを置いて、書き終えた原稿を僕に手渡した。
『あなたって、ひどい人ね』とだけ書かれていた。アカネの目は、僕を軽蔑しているような目だった。そしてその後すぐ、アカネは席を立ってそのままブックカフェを去ってしまった。僕は振られたのだ。僕はしばらく頭が真っ白になった。振られたという現実を受け入れられずにいた。僕がどれだけアカネに対する気持ちを原稿用紙に綴ろうが、アカネにはそれが嘘のように感じられたのかもしらない。僕が単に喜与味とうまくいかなかったから、じゃあ今度はアカネと付き合ってみようと思ったように受け取ったのだろう。アカネは自分が馬鹿にされていると感じたのかもしれない。都合のいい女のように扱われていると感じたのかもしれない。そう思われていてもおかしくはなかった。はじめから喜与味と付き合わず、アカネと付き合っていればよかったのだ。そうすれば、僕は彼女に軽蔑のまなざしを向けられることはなかったのかもしれない。
アカネに振られてブックカフェから家に帰ると、酒のニオイがプンプンしていた。居間には酔っ払った父親がソファに寝そべってテレビを観ていた。しかも小便を漏らしたのか、ズボンが汚れていた。酒のニオイに混じって、かすかにアンモニアのニオイもした。様子がおかしい。いつもなら父親はまだ仕事から帰っていない時間のはずだった。不思議に思い、僕は酔った父親にどうしたのか聞くと、父親は今日、会社を辞めてきたと言う。父親は、日ごろから会社の連中に陰湿な嫌がらせを受けていたらしい。そしてそれに耐えかねて、ついに今日、退職願を社長に提出してきたらしい。どんな嫌がらせを受けていたのか、父親は詳しくは語らなかった。
「あいつら…みんなで俺を馬鹿にしやがって…」
父親は、それを何度も口にしていた。居間に転がっている缶酒の空の山が、父親が受けていた嫌がらせの度合い、父親の心の内を語っているような気がした。
その後、夜遅くに母親が帰ってきた。居間での父親の様子を見るなり、母親は怒鳴りだした。そして大喧嘩が始まった。喧嘩が始まったと同時に僕は瓦礫の山と化した部屋に逃げ込んで、ドア越しに二人の怒号を聞いていた。
喧嘩はその日だけでは済まなかった。次の日もそのまた次の日も、朝と晩。一日に二回。父親は酒のビンを手放さなくなっていた。そして数日後、ついに母親は荷物をまとめて家を出て行った。僕と、酒におぼれた父親を残して。
父親も僕も料理は得意ではない。いつも母親にまかせっきりだった。父親は近所のスーパーからインスタント食品やお惣菜を買ってきて、それを二人で食べた。しばらくはそうして過ごした。学校にはスーパーで買ったパンを持っていって、昼にそれを食べた。父親は仕事を探すそぶりを見せず、僕が家に帰るといつも酒を飲んでいた。
それからまた数日後、僕が学校から帰ると、遠くに見える僕の家が、オレンジ色に光っているのが見えた。様子がおかしいので僕は家まで走ると、消防車が何台も家の前に停まっていて、家全体が炎に包まれていた。すでに中に入れる状況では無かった。家は一晩中燃え続け、翌朝焼け跡から、焼死体が発見された。その後警察の調べで、焼死体が父親のものであることが判明した。そして父親が吸っていたタバコの火が、父親が寝ている間に布に燃え移り、父親の飲んでいた酒のアルコールによってさらに火力が増したことも判明した。家にあるすべてのものが焼けてしまった。結局、僕の部屋にあったものは喜与味に壊されるまでもなく、いずれは父親の手によってすべて灰にされる運命だったのだ。
まるで、何かの呪いでもかけられているようだった。次々と、僕の身の回りのものや人間が、僕の前から消えていく。離れていく。見えない何かが、僕からあらゆるものを奪っていく。
僕はこれからどうすればいいのだろう。当たり前の日常が、まるでハンマーで破壊されたように音を立てて砕け、一気に非常へと変化していった。
僕は喜与味がいなくなってからも、アカネと共にブックカフェ<黄泉なさい>に通った。そして彼女と筆談をしているうちに、彼女に対する気持ちがどんどん大きくなっていった。そしてある日、僕は思い切って、アカネに告白した。喜与味と付き合っていたときも、本当はアカネのことが気になっていたことを打ち明けた。口では言いにくいことを相手に伝えるとき、筆談しか許されない<黄泉なさい>のルールほど都合のいいものはなかった。自分の、アカネに対する溢れんばかりの思いを原稿用紙に綴り、アカネに読ませた。そして、アカネがペンを持って、原稿用紙に返事を書いた。アカネが返事を書き終えるまでの間、僕の心臓の鼓動は高鳴り、収まることを知らなかった。しかし、アカネはすぐにペンを置いて、書き終えた原稿を僕に手渡した。
『あなたって、ひどい人ね』とだけ書かれていた。アカネの目は、僕を軽蔑しているような目だった。そしてその後すぐ、アカネは席を立ってそのままブックカフェを去ってしまった。僕は振られたのだ。僕はしばらく頭が真っ白になった。振られたという現実を受け入れられずにいた。僕がどれだけアカネに対する気持ちを原稿用紙に綴ろうが、アカネにはそれが嘘のように感じられたのかもしらない。僕が単に喜与味とうまくいかなかったから、じゃあ今度はアカネと付き合ってみようと思ったように受け取ったのだろう。アカネは自分が馬鹿にされていると感じたのかもしれない。都合のいい女のように扱われていると感じたのかもしれない。そう思われていてもおかしくはなかった。はじめから喜与味と付き合わず、アカネと付き合っていればよかったのだ。そうすれば、僕は彼女に軽蔑のまなざしを向けられることはなかったのかもしれない。
アカネに振られてブックカフェから家に帰ると、酒のニオイがプンプンしていた。居間には酔っ払った父親がソファに寝そべってテレビを観ていた。しかも小便を漏らしたのか、ズボンが汚れていた。酒のニオイに混じって、かすかにアンモニアのニオイもした。様子がおかしい。いつもなら父親はまだ仕事から帰っていない時間のはずだった。不思議に思い、僕は酔った父親にどうしたのか聞くと、父親は今日、会社を辞めてきたと言う。父親は、日ごろから会社の連中に陰湿な嫌がらせを受けていたらしい。そしてそれに耐えかねて、ついに今日、退職願を社長に提出してきたらしい。どんな嫌がらせを受けていたのか、父親は詳しくは語らなかった。
「あいつら…みんなで俺を馬鹿にしやがって…」
父親は、それを何度も口にしていた。居間に転がっている缶酒の空の山が、父親が受けていた嫌がらせの度合い、父親の心の内を語っているような気がした。
その後、夜遅くに母親が帰ってきた。居間での父親の様子を見るなり、母親は怒鳴りだした。そして大喧嘩が始まった。喧嘩が始まったと同時に僕は瓦礫の山と化した部屋に逃げ込んで、ドア越しに二人の怒号を聞いていた。
喧嘩はその日だけでは済まなかった。次の日もそのまた次の日も、朝と晩。一日に二回。父親は酒のビンを手放さなくなっていた。そして数日後、ついに母親は荷物をまとめて家を出て行った。僕と、酒におぼれた父親を残して。
父親も僕も料理は得意ではない。いつも母親にまかせっきりだった。父親は近所のスーパーからインスタント食品やお惣菜を買ってきて、それを二人で食べた。しばらくはそうして過ごした。学校にはスーパーで買ったパンを持っていって、昼にそれを食べた。父親は仕事を探すそぶりを見せず、僕が家に帰るといつも酒を飲んでいた。
それからまた数日後、僕が学校から帰ると、遠くに見える僕の家が、オレンジ色に光っているのが見えた。様子がおかしいので僕は家まで走ると、消防車が何台も家の前に停まっていて、家全体が炎に包まれていた。すでに中に入れる状況では無かった。家は一晩中燃え続け、翌朝焼け跡から、焼死体が発見された。その後警察の調べで、焼死体が父親のものであることが判明した。そして父親が吸っていたタバコの火が、父親が寝ている間に布に燃え移り、父親の飲んでいた酒のアルコールによってさらに火力が増したことも判明した。家にあるすべてのものが焼けてしまった。結局、僕の部屋にあったものは喜与味に壊されるまでもなく、いずれは父親の手によってすべて灰にされる運命だったのだ。
まるで、何かの呪いでもかけられているようだった。次々と、僕の身の回りのものや人間が、僕の前から消えていく。離れていく。見えない何かが、僕からあらゆるものを奪っていく。
僕はこれからどうすればいいのだろう。当たり前の日常が、まるでハンマーで破壊されたように音を立てて砕け、一気に非常へと変化していった。
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