ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学一年生、夏の頃8

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 浮かれ気味に話すわたしの横で、ハルくんは「そっかそっか」とあいづちをうつ。やわらかな、彼のその表情が愛おしい。

「その話を聞いちゃったら、もうさっきのナツの発言を、詩人ってだけで片付けられないな」

 再び夜空へと目を移したハルくんは、横顔だけでそう言った。

「『輝いて誰かの心に残りたい』。ほら、死んだ人間が一番寂しがるのは、思い出してもらえなくなることだとか言うじゃん。こうして夜空でまたたいていれば自然と俺たちの目には映るし、忘れ去られることはない。こんなにも綺麗な星空が実は尊い命でできているなんて、なんだかロマンチックだね。流れ星も星が尽きる寿命だと思ってたけれど、大切な人を迎えにいく途中だったんだ」

 ははっと無邪気に笑うハルくんは、わたしにとってロマンそのもの。魅力的で素敵な彼の、純粋な一面を知ることができて、嬉しく思った。

「ハルくん。こんなうそみたいな話を信じてくれて、ありがとう」

 律儀にお礼を言えば、きょとんとしたハルくんと目が合った。

「ありがとうってなに。こっちこそ教えてくれてありがとうだよ。そんな話、全然知らなかったし」
「知る知らないっていうか、小さかったわたしの見間違いかもしれないけど……」
「うっそだあ。さっきのナツはそんな顔してなかったよ。記憶にちゃんとあるって、きちんと覚えてるって、そんな自信に満ちた表情をしてた」

 ずいっと顔を近付けられて、わたしよりも自信に満ちた表情を見せつけられれば、自分の発言を訂正せざるを得ない。

「う、うん。本当は見間違いなんかじゃないと思ってる」
「だろ?」
「この目で絶対見た、間違いないっ」
「ほら。じゃあ俺も信じるよ」

 ぽんっとわたしの頭に手を乗せたハルくんは、仔猫でも愛でるようにそこを撫でた。

「ナツが信じてるものは、俺も信じたいからさ」

 好きな人とは一緒に過ごせば過ごしたぶんだけ、もっと好きになっていくのだと、知った瞬間だった。
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