僕らの10パーセントは無限大

華子

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環境問わず楽しめちゃう人と、遠ざかる飛行機と

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 悲観的な考えは、一度し出すと止まらなくなる。

 昨日のテメさんに苛立った理由も見つけられないのに、わたしは懺悔することによって、自分はまだ、おかしくはなっていないと、自分はまだ、以前の自分と変わらないと、証明したいのかもしれない。

 木漏れ日を見つめたまま、もの言わぬわたしの真後ろの席。わたしの隣に座るお母さんに向かってテメさんのことを話し続けるのは、ユーイチだ。

「そうっすよね。早く犯人捕まってほしいっすよね。でもあのホームレス、警察とかには相談しなそうだな~」
「え、どうして?」
「だってなんか、被害を被害と思ってなさそうだったもん。むしろ喧嘩に勝ったって、喜んでる感じにも見えたし」
「あら、まあ。そうなんだ」
「きっと根っからのいい人なんすよ、その人。『罪を憎んで人を憎まず』的な?めっちゃ性格明るいし」
「ふうん」
「それに、はじめましての俺にも超気さくに接してくれて。なんか俺、あの人のこと好きになっちゃいそう」

 昨日、あのあと。
 考えごとをしていたわたしは、テメさんとユーイチがした会話の内容を、そんなに覚えてはいないけれど。

「だから和子の母さんも、全然心配しなくていーっすからねっ。ホームレスってワードだけを聞いちゃうと、不安に思うかもしれないっすけど、テメさんは、まじでいい人なんで」

 けれど、明るい声色で喋るユーイチから想像するに、彼はわたしがふたりの仲を取り持たずとも、テメさんとの交流を楽しめたのだろう。
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