原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、変わっている人だ

電池の話6

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 ズバリ、と人差し指を立てて、姿勢を正す。

「いつ切れるか、誰にもわからないんだよ。厄介だよね。今日切れるのか明日切れるのか。はたまた百年後なのか。神様しか知らない」

 その人差し指を、そのまま胸にあてて。

「今は……よかった。僕の電池、動いてる」

 その仕草を真似るように、みんなも胸に手をあてていた。

「だからもったいない使い方をしちゃうんだね。これが電池の切れる前夜だって知っていたら、絶対にそんな使い方しないのに。僕たちはそれを知らないから、スイッチ入れたまんま、ぼけっとしたりしちゃう。まあ、たまにはそれもいいと思うけど」

 エレン先生は、生徒ひとりひとりの顔を丁寧に見て、最後、一番奥の端の席に座っているわたしとも、しっかり目を合わせてくれた。

「命の電池のメリットを言うよ。しっかり聞いてね」

 わたしは大きく頷いた。

「なんでもできるんだ。すごいでしょ」

 みんなはぽかんとしていたかもしれない。けれどエレン先生の言葉の意味がわかった数人だけが、首を縦に振っていた。

「この電池を使って脳みそや手を動かすとね、なんでもできるんだよ。例えばこの机もそうだし、ペンも。一生懸命考えて、一生懸命作ることに電池を使ってくれた人がいるから、僕たちの生活の一部になった。この学校の校舎ももちろんそうだし、君たちが大好きなゲームだってそう。まだ見ぬスポーツを生み出すこともできるだろうし、感動するお話を作ることもできる。それをさらに本に映画に。僕は今日、空飛ぶ飛行機を見てこう思ったよ。あれを作るには、きっとたくさんの電池を使ったんだろうなーって。そしてそれを運転するパイロットは、学ぶことにいっぱい電池を費やしたから、夢が叶ったんだろうなって。命の電池の可能性は、無限大だ」
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