原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、意地悪な人だ

ハンバーガー屋の話7

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 そして続けて、口を動かす。

「さっきのハンバーガー屋さんごっこのお店はね、実際に存在したんだよ」

 ハンバーガー屋の話に戻った。みんなが「ええ!」とざわつき出す。

「正確には一日限定のサプライズ営業みたいなものだったけど、メニュー表の文字をあえて読めないオリジナルのものにしたんだ。なにも知らずに訪れた客たちはビックリしただろうね。だって注文するのに肝心な、ハンバーガーの名前がわからないんだから」

 それでどうなったの、買えたの、どうしたの。なんてそんな質問が、一瞬で飛び交った。ことごとく失敗したさっきのクリア方法を、みんな知りたがっている。

「反応はさまざまだったらしいよ。オーダーができずに怒る人もいれば、素直になんて書いてあるのかと店員に聞く人もいた。試しに読んでみて、言葉にならないハンバーガー名を口にした人もいたって。僕は怒る人以外を尊敬する。試行錯誤する人間って本当素敵だよ」

 だけどこんな人もいたんだ、とエレン先生の顔が少しだけ暗くなる。

「諦めて帰っちゃう人」

 声のトーンまで下がった気がした。

「読めないことを人に言えなくて、聞けなくて。食べたいのに食べられなかった。こんなに残念なことはないよ。せっかくそのお店に行ったのに、お金だって握りしめて」

 悲しい表情で、コホンと咳払いを挟むエレン先生。

「九十九パーセントの日本人が読み書きできるからよかった、じゃなくて。一パーセントの人は読み書きができないんだってこと、忘れないでほしい」
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