原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、思わせぶりな人だ

原田くんの天気予報6

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「ちょ、原田くん!?」

 すると原田くんの顔が、目をつむりながら近付いて来る。とんでもない急展開に、ぎゅうっと瞳を閉じたけれど、違和感を感じたのは、額の先だけだった。

 え……?

 恐る恐るまぶたを起こすと、そこには呆れたように笑う原田くんが見えた。こつんと重なった額と額が、熱い。

「なーにビビってんの」
「え、だって……」
「俺、そこまでクズだと思う?」
「う、うん……」
「おい」

 やにわに額を離した原田くんが、わたしのそこへ代わりによこしてくるデコピン。

「イッタア!」
「俺、クズじゃねーし」
「いきなりデコピンする人は、クズだよ!」

 もうっとわたしは怒るけれど、原田くんがケタケタと笑うから、なんだか拍子抜けしてしまう。保健室の帰りもこうだった。原田くんは、気まずい雰囲気を一瞬で直す力を持っている。

 よいしょと言って立ち上がり、昇降口から顔を出す原田くん。

「すっかりやんだなー。帰るかあ」

 その言葉に驚いて、わたしも慌てて立ち上がると、空には青色が広がっていた。いつの間にやら雲ははけ、優しい光が校庭を目一杯照らしている。

「ほ、本当にやんだ……」

 信じられない。原田くんの天気予報が、見事にあたった。

 上履きから外履きに、淡々と履き替えた原田くんは、ふっと不適な笑みを浮かべてくる。

「言ったろ?すぐやむって」
「う、うん」
「焦って帰らなくてよかったな」
「そう、だね」
「じゃ、また明日」

 そう言って、原田くんが見せてくれた笑顔は、太陽に負けないくらい眩しかった。
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