原田くんの赤信号

華子

文字の大きさ
上 下
61 / 101
原田くんは、思わせぶりな人だ

牛乳配達員の話4

しおりを挟む
 みんながきょとんとしていた。

「この前僕は、そのおじいさんと話をしていたんだ。戦争の話をしてくれたから、メモをとった。今からそのメモを読むね」

 部屋を見渡し、「しっかり聞いてね」とエレン先生は言った。胸ポケットから一枚の紙を取り出す。

「ウォーンウォーンという飛行機の音でわたしは目覚めました。さっきまでの静かな夜が嘘のようでした。慌ただしく外に出た父のあとを追いました。バリバリバリバリと、飛行機の音が余計にうるさく聞こえました。ヒューッドーンッと遠くから音がしました。爆弾の降る音でした。ドーン、ドーンと次々に落ちていき、村を焼いてしまいました。わたしの家にも火がついたので、家族みんなで逃げました。だけどもう、逃げる場所なんてありませんでした。わたしはとっさに、池へと飛び込みました。ザッブーンと勢いよく飛び込んで、熱さから身を守りました。時々顔を出して、息を吸ってまた潜る。それを何十回か繰り返しているうちに、爆弾の落ちる音が聞こえなくなったので、池から這いあがりました。パチパチパチパチと火の粉がそこら中で舞っていて、絶望しました。もうそこは、わたしの知っている村ではありませんでした」
しおりを挟む

処理中です...