原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、思わせぶりな人だ

牛乳配達員の話6

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「君はどうしてだと思う?」

 今度は二年生。

「目的地に行くついでに、とか?」
「ついで?」
「大きな街に爆弾を落とす予定で向かっていて、だけど途中で村が見えたから、ちょっと落として行くかーみたいな」

 心が痛いよ、とエレン先生は胸に手をあてた。

「君の考えも聞かせてよ」

 最後に三年生。エレン先生に見つめられたその生徒は、先ほどの原田くんのように、唇を震わせていた。

「単純に、全滅させたかったんだと思います」
「全滅……」
「日本人なんて一匹残らず殺したかった。だから小さな村でも大きな街でも、ところ構わずに爆弾を投げたんです」

 エレン先生の瞳が潤む。

「答えはね」

 鼻をすすって、エレン先生は続けた。

「覚えていない、だってさ」

 ええっとみんなの目が見開く。

「襲撃したい街はすでに襲撃し終わっていて、大きな目標はなくなったから、あとは地方を時々まわってたんだって。地方に爆弾を落とすのは三日に一度の牛乳配達のような日常的なものだったから、おじいさんのその村をいつどうして襲ったのか、そんなのは覚えていないって」

 久々にも感じた牛乳配達という単語に、みんながくっと息を飲む。

「おじいさんは悲しそうだったよ。おじいさんにとっては一生忘れられない出来事なのに、攻撃してきた相手は忘れちゃってるんだから。そりゃそうだよね、僕だってひどいと思う。だけどね」

 エレン先生は、指でタンッと机をはじく。

「おじいさんはこうも言ったんだ。真実が知れて良かったと」

 そしてすぐ。

「覚えてないんだから、真実は知れなかったんじゃないの?」

 と、誰かが聞いた。エレン先生は「チチチ」と首を横へ振る。
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